祖母の帰還と、運命の出逢い

● 第20話 異世界に未成年という概念がナイのは、イイ事? ワルイ事?

 隠れ家に戻ると、二人の住人はカフィール片手に何やら話し合いの最中だった。オレは、ただいまーと言いながらキッチンに直行し、作ってあったカフィールをいつものカップに注いだ。

うん、ヤッパリこの味は最高! 故郷の味ってヤツだな。


 二人の話を盗み聞きするでもなく聞いていていると、どうやら『マーベルシュタットという名前の街に居る協力者に、近く会って話をしなくてはいけない……』という内容の話をしている様だった。とりあえず、オレには関係ないなー……なんて思ってカフィールを飲みながらコンナ事を考えていた。


 実は、コレは前々から思ってたんだけどね。この世界の様々な物の名前って、人名も国名もだけど、さっきもチラッと聞こえたけど街の名前なんかも、全部が全部ナンカ堅いというか、それこそ重々しい感じがするのはオレだけだろうか? だって、『統一国家 ノヴェラード』だったり『聖都 レーヴェンシュタット』だったり、確か観光の街は『グリュエンシュタット』だったし、さっき聞いたのは『マーベルシュタット』だったな。


 人名だと、まず浮かぶのが『カイザール』とか爺ちゃんのミドルネーム『ヘルブロス』、敵一派の方なんて『ザハトリシュ』だの『ドルンバッハ』だの極め付けは『ドゥアーム』だもん。もう、バリ堅もイイとこだよ! 

 婆ちゃんの力のおかげでこの山に降り注ぐ陽の光は、こんなに優しくてやわらかいのにね……。


 そういえば、オレにもコッチの世界での本当の名前があるんだったっけ。スッゲーいかつい、超いかにも……的な名前だったらチョットいやだなぁ~……なんて、呑気な事を考えていた時、二人の話し合いは丁度一段落したようだった。


 「ただいま、二人とも。実はさぁ、オレ『箱』の力のコントロールちょっとだけなんだけど、出来ちゃったかもしれない! なんかさー、コツが理解出来たみたいなんだ」

 「ほほぉ。それは素晴らしい事じゃて。この短時間に、ようやりおったな」

 「まぁそれに関しては、オレも自分に対して驚いてるかな」

 「よし、よし。それじゃ、今夜はその記念の宴をしよう。ワシが、いつもより美味い料理をたっぷり食わせてやるぞ! よく頑張ったな、ユウ」


 「やったね! ありがとよ、爺ちゃん。

 でもさ、まだちょっとイマイチ自分の物になってないっていうか、まだ奥がありそう……っていうか、なんか微妙なんだよね。それでさ、実はちょっと相談があるんだけどなー……。聞いてくれる?」

 「どうしたのじゃ、改まって。もちろん、お主の相談事なら聞くに決まっておろう?」

 「そうだぞ、ユウ。ワシらに遠慮は無用じゃ。言うてみい」


 「うん。これはさー、本当だったらチョットずるいやり方なのかもしれないけどさ。オレの『ギフト』の制御を完全なモノにする為には、一番の近道かもしれないんだよね。


 トレーニングしてる時に思い付いたんだけど、もしも、この世界の『ギフト』能力に関する、生き字引き的存在の人とか、権威と呼ばれる様な人が居たら、その人に直接会ってオレの『箱』の能力を見てもらってさ、そしたら何か色々と上手い方法とか、マル秘テクニックとか教えてもらえるんじゃないかなって思ったんだよね。

 

 でも、オレこの世界にどんな人が居るのか全く知らないからコレはもう、相談するしかないなって思ったんだ」

 「うむ……。確かにの。それは一理あるの……。エルネストよ、『サシャ・ガラード』を憶えておるか?」

 「もちろんでございます。このノヴェラードで、、その右に出る者は居ないと言われていた『占術せんじゅつ』に長けた者でございましたな……。

 

一時は、その的中率の高さから『ギフト』能力者であると疑われ、突然その姿を消したという……」

 「そうじゃ。幼少の頃より『占術』を学び、その基本的知識や思想・歴史等をナント当時六歳という若さで究めた、正に天才という奴じゃ。


 その後は、それまでに培った知識を活用し、あらゆる視点から『ギフト』能力に関する理論と解釈をひたすらに深める、という研究を独自の目線から行っておったという。


 そしてあの者が十六歳の時に書き上げたのが、今やこの世界では伝説の存在ともいわれておる『G(ギフト)の書』じゃ。その書物の噂を聞いた時は、我々もその内容を目にしたいという考えから行方をさがしたのじゃが、ようとして知る事が出来なんだのを憶えておる……。


 もちろん、『ギフト抹殺』を最大の目的としておる『ドゥアーム教団』も、その行方を追っておるはずじゃ……。現在も生きておれば――間違いなく、生きておると思うがの――ユウと同じ十八になっておるはず。あの者ならばもしや……ユウの『ギフト』の使い方に関して何か有益な物になる様な助言をもたらしてくれるやもしれぬ。

 しかしあ奴め今、一体どこに居るものやら……」


 「この世界にも、占いってあるんだね。知らなかったよ」

 「ふむ。実をいうとな、この占い――正式には『占術せんじゅつ』と言うのじゃが――の方が『ギフト』よりも長い歴史を持っておるのじゃ。

 この世界がまだ一つの国として統治されておらなんだ時代には、数々の部族それぞれに『占術』を使える者が居ったのじゃ。


 当時は、今の様にヴァレリアの力で天候の管理もされておらなんだ故、天候不順による農作物への被害も度々あったと聞いておる。そんな時に占術を利用し、今後どうすべきかを決めたりしておったのじゃ」

 なるほどね。現世で言えば、邪馬台国の卑弥呼や、アメリカの先住民族ネイティブ・アメリカンの中にも各部族の中でそういった役割を担っていた人が居たって、テレビで見た事あるなぁ。


 「で、さっき名前が出たその……あ、そうだ『サシャ・ガラード』って人に会えないかな? あ、そうか……行方不明なんだっけ。探したり出来ないの?」

 「うぅ~む……。いや、しばし待つがよい……。エルネストよ、ヴァレリアは確か『サシャ・ガラード』と親交があったのではなかったかの?」

 「はぁ。わたくしも詳しくは分かりませぬが、知り合いであった様な事は聞き及んでおります。確か、どこかの酒場で意気投合したとかで……たまに二人で飲んでいた様でございます」


 「はいそこ、チョイ待ち! オレと同じ歳とかさっき言ってなかったっけ? 酒場で出会って……とか、一緒に飲むのはマズいんじゃないのかな? だって、そのサシャって奴はまだ未成年なんだし」

 「ミセイネン……? それは、何の事じゃ? 初めて聞く言葉だぞ」

 「え? どういう事? まさか、こっちの世界は何歳以上じゃないと、酒飲んじゃダメとかいう法律とか、そういう決まりみたいなモノは無いの?」

 「何を言っているのだ、お前は? 酒を飲むのに、歳は関係ないだろうに? 現にお前も今、飲んでるだろうがカフィールを……。

 おい? どうした、ユウ?」


 またしても、衝撃の新事実出たよ……。カフィールって、コーヒーに相当する様なもんだとばっかり思ってたけど、! ! 

 でも、よく考えたら不思議だ。

 酒の飲めないオレがちっとも酔わなかったっけ……。


 「ユウよ、大丈夫かの? また驚かせてしまった様じゃの? 

 このカフィールという奴はの、れっきとした由緒正しき、正真正銘この世界で一番人気のある酒じゃ。言うておらなんだかの? 

 お主は、元々この世界の人間じゃし子供の頃から飲んでおったから、別に体に異常などなかったであろう?」

 そうか、カフィールに関しては、経験による耐性みたいなものがあったってわけか。


 いやー、コレ現世へ持って帰るのやめとこう……調子に乗って向こうでも飲んじゃいそうだしな。もし、これが酒だったってバレた時の母さんの怒りにはふれたくないし……あの人の合気道はハンパないから……ん? なんだ、この感じ……あれ? ……コレって、マサカ!


瞬間、頭の中に突然トレーニングの時と同じ様に鮮明なイメージ映像が飛び込んで来た。麓にポツンと建っている、今にも倒壊しそうな廃屋の地下室からさらに巧妙に隠された地下通路に降り、地下道を通って岩壁の隙間を縫う様に進み、その通路を抜けこの山の山道へ入ってきた、四人の人間。


 色違いだがみんな、頭部はスッポリとフードで覆われ、足元までの丈のロングマントの様な物を被っている……。オレは、慌ててカフィールのカップを置き、

 「ゼット爺さん、爺ちゃん、今日って誰か来客の予定とかある?」

 自然と緊張感が身を包んでいた。

 「いや、別に誰とも約束なんぞしとらんぞ。それに、ココの事を知っとるのは、お主の祖母のヴァレリアぐらいじゃからのぉ。どうしたのじゃ?」


 「実は、オレさっきも言った通りトレーニングで、『箱』のコントロールが出来る様になった……と、いうかそのコツを掴んだ。

 それで、実はこの山全体に何かあったらすぐ分かる様に、試しに『箱』の力で微弱な結界を張っておいたんだよ。そしたらついさっき、麓の廃屋の地下通路から、この山に入って来る四人の姿が見えたんだ! もしかして、敵に知られたのかな?」


 「うーむ。敵には知りようがないのじゃがな……。

 『敵には、その』からのぉ。

 しかし、お主よくその廃屋の事がわかったの……話したこともなければ、行ってもおらぬのに」


 「だから! オレの『ギフト』の力が見せてくれたんだよ。あの四人、全身マントみたいな服で顔も性別も分かんないんだ! 逃げたり、隠れたりしなくていいの? 前に言ってた『奥の手』使う? どうしよう? ねぇ、答えてよ!」

 よっぽど緊張し、慌てていたんだろう。オレはどうしていいかわからず、問いかける事しか出来なかった。


 「安心せい。ココにくるまでの山道には無数の罠が仕掛けてある。

 並みの人間では突破は不可能だ! 

 罠の事を知っておるのはヴァレリアだけじゃ。

 もし、ココまで辿り着ける者がいるとすれば、それはお前の婆ちゃんだ」

 爺ちゃんが、オレの不安を少しでも取り除く様に言った。  



 「カイザール様、わたくし少し下りて様子を見て参ります」

 「あ、爺ちゃん。オレも行くよ!」

 ゼット爺さんは、一切不安そうな顔を見せず頷き、オレ達を見送った。

 っていうか、オレの頭のイメージ映像を口で生中継すれば、わざわざ山道を走る必要なかったんじゃないか? 

 今更ながらに気付いたオレは、苦笑した。次からは、そうしよう……。


 突然、爺ちゃんの足が止まり近くの茂みに潜り込んだ。もちろんオレも後に続いた。この茂みの陰からなら、谷を回り込んで岩壁沿いに歩いてくる四人が見通せるのだ……と爺ちゃんが教えてくれた。

 しばらくは待ち時間みたいだったので、オレはもう一度、結界内の映像化を試みてみた。……集中だ。もっと……もう少し、意識を細くしてあの四人のイメージを摑まえるんだ……そうだ、コノ感じ……来た! 


 その四人は、仕掛けられている無数の罠をことごとく避けながら谷沿いの細い道に出るところだった。左側は屹立とした岩壁、右側は落ちれば深い谷底である。四人が縦一列になり、細い道を進む。


 一番前は割と小柄な様だ。まるで、ココが勝手知ったる我が家の様に周囲を警戒する様子も無く歩を進めている。

 その後ろは、一人目より背の高い――ありゃー、オレより高いんじゃないかな、多分――人物。背が高いせいもあるのかもしれないが、何となく脚がとても長い様に、その歩き方から感じた。

 三人目は、前の二人の中間ぐらいの背だ。背筋がピンとのびていて姿勢が良いし、歩き方に隙が無い……これは、オレが合気道や古武術、それにプンチャック・シラットやゼロレンジコンバット等の武術をやっていた経験から分かるのだが、この三人目は恐らく相当戦闘の経験――それも、命にかかわる様な実戦だ――を積んでいる奴だと思う。

 そして最後尾の四人目は……コイツは、デカい。身長2メートルはあるだろう。ロング丈のマントで隠されていても、筋肉の鎧で覆われた様な体格が容易に想像できた。コイツも、戦闘能力の高さを窺わせる雰囲気を持っていた。


 「ユウよ、大丈夫だ。アレは多分、ほれアノ一番前の……ありゃあ、ヴァレリアだ」

 「えぇ? ホントに? なんで、分かるの?」

 「あの、迷いのない歩き方はヴァレリアの癖みたいなものでな。

 でも、あとの三人は分からんなぁ。一応、注意してろよ」

 「うん。わかった……」


 あの一番前を歩いているのが、婆ちゃん……初対面の婆ちゃん。どんなヒトなんだろう?っていうか、初女性キャラじゃないか? 

 ラノベって、普通は美少女エルフとか美女剣士とかそういうキャラが沢山出て来て、主人公はハーレム状態になる物なんじゃないのか? 


 今思えば、主な登場人物ってオレ(十八歳だから一応若いけど)と、あとの二人は何歳かもわかんない爺さんだけだし……。

まぁ、しゃーないわな。山の中の隠れ家周辺から移動してないんだから。

 読者の皆様、もう少ししたら多分美少女キャラが出ると思うんで待っててね! つーか、オレが会いたいわ! おっと、また脱線しちゃったな。


 さて、例の四人はと……丁度、谷を回り込みコノ茂みのある林道に入って来るところだった。

 と、そこであの細い道で3番目を歩いていた奴――恐らく、とても戦闘技術の高い――が、素早い動きでサッと列の先頭に飛び出して来て言った。

 「そこの茂みに潜んでいる者達、大人しく出て来なさい!」

 勇ましいが、明らかに若い女性の声だった。

 「出てこないと、剣を抜きます! さぁ。 早く出なさい!」


 剣を抜く……って事は、女性剣士って訳か……あとは、美女である事を願うばかりだね。

 「わかった。こちらは二人じゃ。今から出ていく。落ち着くのだ」

 爺ちゃんがこう言ったので、オレも一緒に茂みから出た。

 「お前たちは、何者か? 答えなさい! この山の事を、何処で知った?」

 「イリア、そこまでです。おやめなさい。そこに居るのは、私の夫のエルネストと……あら? こっちの若い方は知らないわね」


 こう言いながら、フードを両手で下した。え? ホントに婆ちゃん? 

 見た目メッチャ若いぞ。しかも、セクシーな美人だ!

 「ヴァレリア! やっと帰ってくれたか! 待ってたぞ」

 爺ちゃんが、感泣していた。コノ人こんなに涙もろかったっけ?

 「エル! 久しぶり。ただいま帰ったわ。遅くなって、ゴメン。

 あら、アナタは誰かしら?」

 「ヴァレリア! 聞いて驚くなよ! 

 コイツはな、我らの孫じゃ。我らの娘、フリーダの息子じゃよ!」


 爺ちゃんの言葉を聞いた瞬間、ヴァレリア婆ちゃん……の両の目に涙が溢れていた。

 「あぁ! 貴方が! やっと、やっと貴方に会えた。

 どれだけこの時を待った事か……。

 皆、紹介が遅くなってゴメンなさい。

 私の夫と、私の娘夫婦が命を懸けて守った、たった一人の私の孫です。

 ところで、カイザール様は? 元気なの? なんで私たちが今日戻る事が分かったの?」


 こりゃ、この調子でココで説明とかしてたら、戻るのに時間かかりそうだなー……。なんて思っていたら意外にも、

 「カイザール様をお待たせしてはならぬ。話は後じゃ。皆で早う戻ろうぞ」

 爺ちゃんの一声で、早く戻れる事になった。あー、よかった。


 しかし、ヴァレリア婆ちゃん含めて、イキナリ四人もキャラが増えたな……。

 今まで三人だったのに、あの隠れ家のキャパ大丈夫なんだろうか?それより、ヴァレリア婆ちゃんはともかく、残りの三人はどんな人達なんだろう? 

 とにかく今夜は、賑やかな宴会になるな、こりゃ……。

 ちょっと……じゃなくて、スゴク楽しみだった。

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