第1話 冒険者協会は新人を標的にした押し売りで溢れていた。
「お嬢さん、武器はまだ買ってないの?うちなら新米冒険者割引があるよ!」
「冒険者が一番金をかけないといけないのは防具だ!ぜひうちの店に寄ってくれ!」
「いきなり冒険に出るなんて無謀です!最低限うちの剣術道場で修行してからにしなさい!」
「どんなパーティでも絶対に重宝されるのが魔法です!是非うちで魔法を習得してください!」
「ま、魔法少女風の、装備あるよ……。安くしておくよ、いやタダでもいいから着てください。お願いします……ぶひっ。」
……ふざけるな!何だここは!?
ここは冒険者協会(ギルド)の本部。
今日、私は冒険者登録をするためにやってきた。
受付を済ませ
冒険者証を受け取り
晴れて冒険者となった。
―――その直後!
武器や防具の押し売り!!
武術に魔法道場の勧誘!!!
加えて訳の分からない奴にまで取り囲まれている!!!!!
アレフレッド王国の旧都ガイヤガルド。
伝説の英雄ガイヤが神託を受けた場所とされている。
ガイヤ旅立ちの地にちなんでギルドの本部があることで有名だ。
ギルドの支部は各地にあるのだが、英雄に憧れる若者は必ずここで冒険者登録をする。
世界規模でみると、冒険者という職業は下火になってきている。
なぜなら凶悪モンスターの出現数は減ってきており、それに比例して討伐依頼も減っているからだ。
大半が冒険での収入だけで食べてはいけず、別の仕事をしている者も多い。
そして、ほとんどが以下のようなルートを辿る。
冒険者をしながら、副業で別の仕事をする。
↓
いつのまにか副業が本業になり、冒険者が副業になる。
↓
そのうち冒険にも出なくなり、普通の仕事に就く。
↓
「冒険者?俺もやってたなあ……昔」←こんなことを言っているおっさん多数
それでも冒険者稼業に就いたのが私、
キンバリー・キングストンである。
一応の生い立ちを10秒で語ると
このようになっている。
……すぅ~(息を吸い込む音)
~~~~~(以下ここから早口)~~~~~
親の顔は知らず、物心ついた時には路上生活。
一時期孤児院で世話になっていたが、縁あって中級貴族のキングストン家の養子になる。
ただ、そこでの暮らしが合わず、家を出て冒険者になろうと現在に至る。
~~~~~(以上ここまで早口)~~~~~
……ふぅ。
一応のステータスはこんな感じ。
名前:キンバリー・キングストン
種族:人間
性別:女
年齢:15歳
職業:戦士
レベル:1
クラス:F(新米冒険者)
攻撃力:D
防御力:E
魔力:C
体力:F
知力:D
精神力:C
敏捷性:D
運:C
私が先ほど発行してもらったばかりの冒険者証には、上記のようにステータスが記されている。
しかし、本当は違う。
後々になって知ったことだが、本来はステータスがもっと高くても、初心者補正で低く表示されるのだ。
体力が「E」でも「F」と表示され、
魔力が「D」でも「E」と表示されるかと言った具合に。
なぜかと言えば……
さっきから私が、騒々しい連中に襲われているのと関係している。
「お嬢ちゃん、何も武器を持っていないみたいだけど、ぜひうちで買いなよ!」
「あんた、そんな装備じゃ敵の攻撃一発でやられちゃうよ。鎧を買いなって!」
「うちは剣術だけでなく、体術も教えています!実践向きなので習うべきです!」
「魔法の才能をお持ちのようだ!うちにこられたら一気に開花すること間違いなしです!」
「き、金髪ロリっ子萌え!絶対この黄色の衣装が似合うと思うんだな……ぶひっ」
ええい!そこの小太りの男!!
謎のコスチュームを私に押し付けてくるな!!!
……え~と、何の話をしているんだったけ?
あ、そうそう
これらの押し売りをしている店や道場とギルドは提携をしているのだ。
だから!
ここはギルド本部の建物の中なのに!!
こんな凶行を認めている!!!
ああ、うっとうしい!!!!!!
ギルドにおいても、店や道場においても、冒険者相手の商売をしているという意味では同じだ。
出来れば冒険者たちに長く生きて欲しいと思ってる。
……違うな。
出来れば冒険者たちに長く生きて、たくさんお金を落として欲しいと思っている。
冒険者が依頼をこなすと、協会には手数料が手に入るので儲かる。
冒険者が仕事していると、必要な武器や防具、アイテムなどを買うので、店は儲かる。
生き残っていく冒険者は、自然とお金を落としていってくれる。
冒険者全体で見ると、レベルが低い者の数の方が多い。
そして、レベルが低い者の方が致死率、離職率が高い。
ギルドや店にとっては、冒険者が死んだり、辞めたりする前に、お金を落としていって欲しいのだ。
つまり、自分が弱いと思ったら武器や防具にお金をかけるし、
道場で修業をしてから冒険に出ようと思うわけで。
だから!
ギルドは公然と!!
新人の冒険者証に表示されるステータス値を!!!
低めに偽装しているのだ!!!!!
『低レベルの冒険者たちにこそ、金を使わせろ!』
これがコイツらの合言葉。
新米冒険者は通過儀礼として、押し売り&勧誘の猛攻撃を食らう。
コノ国デハ当タリ前ノコトネ。
―――マジで勘弁してほしい……
正直言うと、私は他の新米冒険者とは全然実力が違う。
冒険者クラスC(ベテラン冒険者)ほどの強さを持っている。
特殊スキルも持っている。
だから
『お前達からは何も買わん!』
と言いたかったのだけど、
あまりの勢いに気圧されて、何もできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます