新学期
座学の授業。
城当省監視の養成学校とはいえ、普通の授業がない訳ではない。
一般的な高等学校の当たり前の授業――数学や国語、勿論英語などもある。全ては語らないが、そんな時、俺やナイアはともかく、その使い魔である翔の授業態度は最悪である。
寝ているだけならまだしも――いや、寝ているだけでも最悪だ。
怪獣でもやってきたかのような
ならばナイアが無召喚で消してしまえばいいのではないか? 誰もがそう思う事だろう。
しかし、そうもいかないのが召喚士学校だ。
使い魔を召喚した場合、その使い魔と共に授業を受ける事を校則としているのだ。
――何故か。
召喚士と共有する時間、そして使い魔自身がこの世界の事を学ぶためというのが
それもこれも統一杯での上位入賞のためである。使い魔を召喚した人間は高確率で統一杯に出られる。というのもそれだけの
まぁ、そんな大人の事情があるからこそ、俺はナイアを無召喚で消さないのだ。当然、消したいとも思わない。
しかし、翔は俺の使い魔ナイアの使い魔である。
果たして、使い魔の使い魔はこの校則に該当するのか? 前例がないからわかる訳もない。だが、翔はこうして俺の席の左隣でしっかり寝ている。
ナイアの親心なのか、それともナイアの
「んごぁああああああああっ!!」
何なのコレ?
「しゃらくせいっしゅ!!」
最後の「しゅ」はどこから出てきた?
皆からの視線がとても痛い。これではただの騒音だ。
塚本講師の無言の重圧もそろそろ耐えきれなくなってきたので、俺は右隣ナイアの方を見る。俺の機微にすぐ反応するのがナイアだ。すぐに俺の視線に気付き、とっていたメモを止める。
「どうしました、風土?」
「翔さんの鼾なんだけど……」
するとナイアはニコリと笑って立ち上がり、俺に頭を下げる。
「そろそろだと思っていました」
ナイアも周りの空気は読んでいるんだよ。
「では失礼します」
「翔! 起きなさい!!」
「はぇ!?」
普段聞かないナイアの怒声に翔が飛び起きる。
まぁ、普段聞かないだけで、翔を起こす時は大体この怒声なんだけどな。
「一体何回言えばわかるのですか!? 授業中に寝てはいけません!!」
翔の胸倉をぐいと上げ、どこまで上がるのかわからない程持ち上げられる。
ナイアの腕力は、もしかしたら翔以上かもしれない。
ところで今授業中なんだ。知ってたかい?
「あ、姉御ぉ!?」
「ようやく起きましたか翔! では復唱なさい!」
「へ、へい!」
「授業中は寝ない!」
「授業中は寝ない!」
「これ以上人様に迷惑をかけない!」
「これ以上人様に迷惑をかけない!」
「よろしい!」
ここまで授業中。
そしてこれからも授業中だ。
ナイアは俺の隣に戻り、再び頭を下げる。
「風土、翔が起きました」
「あ、はい。ありがとう……」
「ふふふ、当然の事です」
こうして見るとただの天使なのだが、毎度毎度翔はよく寝るし、ナイアはよく怒る。
ここまでテンプレート化してるので、最早誰も何も言わないのだ。
翔はこの後しばらく起きている。このやり取りは多くても一日二回程だ。
まぁ、つまるところ、既に百回近くやってるんだけどな。
「へへへへ、今日の姉御もイカしてたなぁ……」
ナイアに怒られて恍惚としている翔にも、誰も突っ込まないのだ。
このやり取りのでせいで、授業の時間は大体五分潰れ、それは後ろに響く。つまり授業が五分延長になるのだ。
だが、これについても皆慣れてくれたのか、諦めているのか、何も言わない。
きっと俺には何か言いたいのだろうが、それが翔に伝わる事を恐れているのだ。
この学校にはこの手のジャンルの生徒はいないからな。仕方ない。
そう、仕方ないのだ。
◇◆◇ ◆◇◆
放課後。
俺
俺以外も呼ばれたのは初めてな分、少し緊張しながら生徒会室に入る。
「やぁ、よく来たね」
「……はは、せめて『失礼します』くらい言わせてください。全原会長」
「構わない、君は既に我がチームの一員なのだから。火水君」
全原会長は目を細くして笑みを見せた。
「うんうんっ、君の戦力には期待してるんだよー?」
それに同意したのは、会計長の
こちらは満面の笑みを浮かべ、しかし猫のような鋭い目を見せていた。
なるほど、今日はこの二人だけか。
副会長の高山先輩も、書記長の
「何や? 新キャラもおるやないか?」
そう言ったのは俺の左後方で、先程まで口をへの字に結んでいた翔。
「おそらく彼が全原
右後方で言ったのは我が使い魔ナイア。
出来れば黙ってて欲しいものだ。
「にゃははは、聞いてた通り生意気な使い魔だね!」
「夜鐘君、彼の力は計り知れない。我々の貴重な戦力なのだからね」
「はいです、会長~!」
そんな夜鐘先輩に腹を立てたのか、それとも全原先輩に勝手にグループに入れられたのが気にくわなかったのか、翔が一歩前に出た。
「おう、こっちは忙しいんだ。用があんならさっさとしろや、ガキ」
アナタ、さっきまで暇そうにガチ寝してませんでした?
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