新たなる目標

「……はぁ」


 高山先輩の呼び出しの後、俺は寮へ戻っていた。

 食堂で吐いた溜め息を、どうやら拾われてしまったようだ。


「何だよ、辛気臭い溜め息だな?」


 そう、拾ったのは高山先輩の弟、高山純太その人だった。


「あれ? 何で制服着てるんだ?」

「いや、生徒会に呼ばれてな」

「ははーん? それが原因だな、今の溜め息は……?」

「ま、それは肯定せざるを得ないな」


 俺は少しだけ肩をあげて、純太の問いに反応した。

 すると、対面に座った純太が身を乗り出すように聞いてきたのだ。


「何の話だったんだ?」


 ここまで言ってしまえば当然の疑問だろう。

 だが、相手は純太。先程まで話していた高山純恋すみれ先輩の弟なのだ。

 しかも、純太は姉の連絡先を知らない程の仲なのだ。ここで、高山先輩と話したら、純太の機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 俺はそう思い、適当に誤魔化す事にした。


「選考会の結果から、一年生の中では俺が統一杯一番乗りって事らしい」

「何だよ、そんなの新学期に知らせればいいのにな?」

「そうもいかないだろう。一年生とはいえ、統一杯は統一杯だ。可能な限り上位に入って欲しいだろう? 夏休み中も『気を抜くな』って釘を刺すには、今の内に言っておくのが当然だよ」

「まぁ、そうだな……うん。っと、そういえば俺たちはどうなるんだろうな?」

「純太たち?」

「あぁ、ジェシー・コリンズ、一部いちべ将太郎しょうたろう、んでもって俺は、あの選考会で同率四位だっただろう? 誰かが二位にならなくちゃ統一杯の選抜――二人の内の最後の枠が埋まらないだろう?」


 そういえば、あの時は皆召還力サモンクラフトを使い果たして、二位から四位の全員が四位になったんだった。まぁ、一部いちべだけは物理的に戦闘不能になったんだけどな。……俺のせいで。


「んー、どうだろうな。その話は上がってなかったしなぁ? そのうち連絡があるんじゃ

 ――――」


 と、俺が言ってる間に、純太のポケットから電子音が鳴った。


「……っと、噂をすれば生徒会からだ」


 昨今の養成学校は、入学の際メールアドレスの記入が義務づけられている。

 これは、突発的な事故や連絡に対する予防である。とか入学時のプリントに書いてあったけど、これはつまり、便利だからという事以外に他ならない。

 当然、生徒会が学校を通して生徒に連絡してくる事もあるだろう。

 きっと、生徒会内だけのメーリングリストもあるんだろうな。


「で、何だって?」

「……うーん、お盆前にもう一回集まって二位決定戦をやるみたいだぜ?」

「三人だけでやるのか。中々寂しいな……」

「おいおい、応援に来てくれないのかよ?」

「そっか、別に行っちゃいけない訳でもないか」

「メールの中にこれに関する守秘義務とかは書いてなかったしな。別にいいだろう」

「わかった。それじゃ応援に行くわ、ジェシーの」

「うおい! 俺の応援はどうなった!?」

「どうなるもクソも、応援するならやっぱり女の子だろう!」

「くっ! ……くそ! 否定出来ない」


 だからコイツは憎めないんだ。


「それに、今回の選考会って、きっと男女総合の一位と二位を決めてるだけだと思うぞ」

「っ! そうか。男女総合の部が一番重要だものな。確か男子の部だけならまた別に二枠あるはずだ!」

「そこに入れれば、統一杯に出たとも言えるだろう。つまり、その二位決定戦の中で、一部いちべにさえ勝てば、純太は確実に統一杯に出られる訳だ」

「まるで、俺がジェシーに勝てないかのような言い方だな?」

「別に、ただ一部いちべとは相性が良さそうだと思っただけだよ」

「はぁ、そりゃどうも」

「ま、少なくとも、一年生の女子の部代表は決まってるんだよな」

「あ、そうか。上位にはジェシーと雫しか女子がいないのか」


 純太は思い出したように言った。

 女子の部の一位がジェシー・コリンズ。二位がしずくれい

 男子の部の一位が俺。二位は、今度の二位決定戦で争う純太と一部いちべのどちらか。

 男女総合の一位が俺。二位は今度の二位決定戦の勝者って訳だ。

 生徒会の一部いちべは確かに強敵だが、ジェシーと純太ならば、勝てない相手ではないはず。

 明日からの合宿でそれが明確に現れるかもしれないしな。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「ちょ、ちょっと翔さん! タ、タンマっす!」

おとこならぁ! 歯ぁ食いしばって我慢しろやぁっ!!」

「ゴフ……!?」


 純太との話の後、俺がナイアを召喚したところで楓から連絡が着たのだ。

 八王子スクエアで待ち合わせた俺たちは、個別スペースに入り鍛錬を始めた。

 までは良かったのだが、翔が……いつも以上に怖い。

 しかも毎回毎回、必殺の一撃に近い攻撃を繰り出してくるので、こちらは気が気じゃない。


「げほ、げほっ……あの、何か機嫌悪くありません……?」


 うずくまって聞く俺に、翔がヤンキー座りをしながら答える。


「何か調子に乗ってるからよ?」

「お、俺がです?」

「おうよ。一年の代表になったはいいが、それで天狗になってちゃ先が見えねぇぞコラ? お?」

「そ、そう見えましたか……?」

「他にどう見えるってんだ?」


 いや、確かに翔の言う通りかもしれない。

 統一杯に出場出来ると知って少なからず高揚こうようしたのは間違いない。

 だが、決して歩みを止めるつもりはない。俺は強くなって四年生までに聖十士に――――、


「そんなんじゃ今年の統一杯、一位なんてとれねぇぞゴルァッ!!」


 あれ? 翔さん、何か目標高過ぎじゃありません?

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