第49話 閑話 ましろの冒険 後編
『どこから声がした!?まだ生き残りがいたのか?』
マモンは、キョロキョロと広間を見回すが誰もいない。いくら上級悪魔でも、まさか、小さなネズミが喋っているとは思いもしなかったのだ。
ましろは、まだ気づかれていない今がチャンスと、全力でマモンの右足へ突進した。マモンは突然足に感じる強烈な衝撃に驚いたが、分厚い鎧に守られているため、大ダメージにまではならない。
『お前のような小さき者が、我に立ち向かうか!?
今なら、その大きな勇気に免じて、今の攻撃はなかったことにしてやってもいいぞ!我の目的はあくまでもこの国にいる人間だからな。
…お前は、その番とここで仲良く暮らせ…』
マモンは、悪魔のくせに、慈悲の心まで持っているようだ…しかし、ましろの番はビッグではない!愛するダーリンなのだ!!
『私の愛してるダーリンは、人間なのにゃ!!だから、お前をダーリンのところへ行かせる訳にはいかないにゃー!』
もう一度、同じように突進をする。しかし、マモンは、ましろのスピードに対応出来るようで避けてくる。
『お前はただのネズミではなさそうだ…人語を操り、そのスピードで動ける身体能力…普通のモンスター程度ならば凌駕できようが、我には到底及ばぬ!』
そう言い、ましろの着地に合わせて蹴りを放ってくる。ましろは、吹き飛び、壁にバウンドし、さらに転がった。
『姉御ー!』
ビッグが叫ぶが、ましろは未だに転がっている。
ようやく止まった時には、ましろの真っ白なきれいな体は、血と汚れで覆われ無惨な姿となっていた。しかし、その柔らかな毛皮が衝撃を緩和してくれたようで、致命傷とはなっていなかった。
『き…効くにゃー。。…でもダーリンのために負ける訳にはいかないにゃ!!』
ましろは、動きを細々なものに変え、着地のタイミングを狙われることのないよう、素早く、そして細かく動いた。
それでも、マモンは執拗に迫って来て、蹴られそうになったり、踏みつけられそうになる。なかなか、攻撃にまで移れる余裕はなかった。
『チョロチョロとすばしっこいやつだ!そして、どんどん動きが良くなっていく…』
マモンは、ましろをなかなか捕まえられないことに、痺れを切らし、攻撃が大雑把になってくる。ましろはそのスキをついて、マモンの左足に突撃をする。マモンの鎧に当たって物凄い音を立てる!
「ドゴンっ!」
『ぐう…この威力は何なのだ?
いくら我が、本来の半分も実力を出せていないとはいえ、ネズミの突撃程度でこのようなダメージを受ける筈がないのだが…
仕方ない、出来れば理由なき殺生は避けようと思っていたが、少し本気を出さざるを得ないか…』
マモンは今まで使ってなかった剣を構える。先程までの雰囲気とは全く異なる殺気を放っていた。
ましろは警戒をさらに強めつつ、突進していく。ましろ本人は気付いてないのだが、ましろの動きはこの戦闘中、どんどん良くなっていっていた。
500年以上、以前のダーリンに甘えるだけのだらだらした生活を送ってきたことにより、いつの間にか上がっていた異常なステータスのことに気づきもせず、のんびりとした生活をしてきたましろにとって、マモンとの戦闘は、その過剰なステータスを使いこなせねば、とても敵わない初めての相手となったのだ。
ましろは、こう動けばもっと早く動ける!こんな動きも出来る!と1つ1つ確認していっていた。
マモンの剣撃は激しく、完全に避けているにも関わらず、少しでもギリギリになると、剣圧だけで体の軽いましろは吹き飛ばされるのだった。一度吹き飛ばされると、そこへ更に追撃が来るので、益々防戦一方となる悪循環が続く。
(すごい攻撃の連続にゃ!吹き飛ばされるなら、逆にそれを利用して動くにゃ…)
マモンの剣を避けた剣圧で、横に吹き飛ばされたましろは、その勢いを利用して空中で回転し、進行方向を変えていく。その動きは読みにくく、マモンは次第にましろの動きを完全に捉えることが難しくなってきたのだ。
『どういうことだ?このネズミ、戦闘開始の頃の動きの2倍以上の速度で動いてるぞ?動きも、最初はスキだらけだったのに、どんどん無駄がなくなっていく…
まさか、我との戦闘を糧として、こんなに早く成長してるとでもいうのか?』
剣を使ってもなかなか決定打を与えられないことにより、マモンを更に本気にさせたのだった。
『フレアバースト!』
マモンの周りに小さな火の塊が無数に広がり、その1つ1つがましろを襲う。さらに、多少の誘導性があるようで、避けたつもりでも自ら近づいてくる…
「ズドンっ!」
と、この火の塊がどこかにぶつかると、爆発して周囲に衝撃を発生させる。そして、1度その衝撃に巻き込まれると、そこに次の塊がぶつかりさらに爆発の連鎖…連鎖、連鎖!ましろは、炎の爆発の連鎖の中に閉じ込められてしまった。
『終わったか…ネズミとは思えぬ強敵だった。ネズミの魂には興味はなかったが、お前の魂なら食ってもよいと思えるぞ。』
ましろは、炎の爆発の中で、熱によるダメージは負いつつも、爆風を逆に利用して、さっきと同じ要領で回転による方向変更により徐々に爆発の連鎖の外に移動していた。
ましろは、マモンの姿を捉えた時、爆風の利用の方法を変え、自身の体の回転を爆風の勢いを利用して高速で回転することにより、その爆炎の熱を自身の周りに纏った。
そのまま、炎を纏ったまま高速で回転し、マモンのお腹を貫き、焼ききった。その熱量は、回転により一ヶ所に集められたことにより跳ね上がり瞬間的に1000度を遥かに越える熱量でマモンの内蔵を焼き炭へと変えたのだった。
『ぐるぉおおおおーー!!』
突然お腹を貫かれ、身体の中から高熱の嵐で燃やし尽くされたマモンは、流石に冷静を保てず、身悶え、転げながら、苦痛の叫びを吠えていた。
ましろも、熱によるダメージで毛はかなり短くなりボサボサとなってはいるが、大きな怪我もなく、何とか無事でいた。
回転により、炎を自分の周りに纏ったため、本来はましろも高温で燃え尽きてもおかしくなかったのだが、ましろは更に横方向へも高速で進んだため、熱が内部まで襲う前に横へ横へ逃げ切ったのであった。
そして、残っている熱の殆どをマモンのお腹の中に置いて行ったために、回転が弱くなって襲ってくる熱はたいしたこともなく、奇跡的に軽傷で済んだのだ。
ましろは、マモンに話しかけた。
『私の勝ちにゃ!もう元の世界に帰るにゃ!?』
マモンは、未だに苦悶の表情を浮かべつつも、この小さなネズミから、勝ちを宣言されたことへの屈辱から、起き上がり、構えた。
『我は、これくらいでは敗れぬ!我が元の世界に帰るのは、召喚主の願いを成就させた時、つまり、この国の人間を全て殺した時、もしくは、この偽物の体が死ぬる時だ!』
『それは偽物の体なのかにゃ?』
『そうだ!この体は召喚の時に作られた偽りの体なのだ。更に今回は、召喚に必要な物が揃っていなかったために大した力が出ないのだ…魔界での本来の我は、少なくとも今の200倍は強いぞ!』
『今の強さで良かったにゃ!その強さなら、私でも何とか出来るにゃ!!』
ましろは動いた。
『我を舐めるな!!』
マモンは、苦痛に耐えながらも、鋭い剣を振るってくる。
しかし、今のましろは回転による攻撃や防御のコツを掴みつつあった。さらに、身体の使い方もステータスのままほぼ動けるようになってきており、傷ついたマモンに対応できるはずもなかった。
『まさか、我が力で凌駕されようとはな…しかし、我は負けん!これをくらえ!!』
マモンはましろの目をじっと見つめてくる。
『何なのにゃ?』
『お前を悪魔の持つ特技で魅了した。お前は、もう我には逆らえぬ!こんな手は出来れば使いたくなかったが、他に手がなかったのでな…許せ。。』
ましろには、マモンが何を言ってるか分からなかった…何ともないのだ。
(本当に逆らえないのかにゃ?試してみるにゃ!)
ましろは、魅了が完了して、完全に油断しているマモンのお腹の穴に突撃し、お腹の中で攻撃を繰り返した。
『ぐぅおおおーー!!…ば、バカな!?………な、何故動けるのだ!そして、攻撃することができるのだ?』
『簡単な答えにゃ!私は既にダーリンのスキルと魅力に魅了されてるから、悪魔の魅了なんて効かないにゃ!!』
マモンはお腹の中での攻撃に苦しみながらも、考えた答えを述べる。
『悪魔の魅了を越える魅了か…そのダーリンとやらは、神の加護を持った魅了を持ってるようだな!?面白い!!
参った。我の負けだ!!
話がある、体の外に出てくれ。』
『やっと諦めたにゃ!?』
『お前のダーリンとやらについて話を聞かせてもらえないか?何のジョブで、どんなスキルを持っているのかを…』
マモンはアランのことを聞いてきたが…
『ダーリンはジョブやスキルのことを秘密にしたがってるにゃ!勝手に教えたりできないにゃ。』
『そうか…思い当たるジョブが1つあったんだが、当たっていたら当たっているとだけ答えて貰えないか?』
『それくらいならいいにゃ…』
『そうか…我の知るそのジョブは「遊び人」、1000年ほど前に、この世界を混乱と恐怖の世界へと貶めた女が持っていたジョブだ!異性を悪魔の魅了以上の力で魅了することができる稀少なジョブだったはずだ…
我は、以前その女に、つまらん理由のためにこの世界に顕現させられたことがある。』
『!?確かに遊び人で間違いないにゃ!でも、そんな恐ろしいジョブではないはずにゃ…ダーリンは優しくて、彼女に一途ないい男にゃ!』
『やはりそうか…それは、この世界がこれから面白くなりそうだ…
ネズミ殿、我に勝ったのだ名を教えて貰えるか?』
『ましろにゃ!ダーリンにつけて貰った名前だにゃ♪』
『ましろ殿、最後に頼みがある。我を倒したましろ殿に我のこの体の核を食べてもらいたい!ましろ殿にマイナスになるようなことは絶対にないことは保証する。逆に、ましろ殿の能力は上がり、回復能力や寿命も向上する筈だ。
先程も教えた通り、この体はあくまでも偽物の身体であり、力の塊のようなものなのだ。その力を我が最後に核に集め、ましろ殿に渡す。それを食してくれるなら、我が今回顕現したことにも多少の意味があったことにもできる。
どうだろう?食して貰えるだろうか?』
『難しいことは分からないにゃ!でもマモンがそれでいいならそうするにゃ!』
それから、マモンは本当に核に力を集め、ましろに差し出した。そして、何の躊躇いもなく、それをましろは食してしまったのだ。マモンの身体だったものは跡形もなく、消え去り、核を食べたましろは力を得た。
上位悪魔の核を食べたことが、将来吉と出るか、凶と出るかは…
また未来のお話。
その後、ビッグはましろの活躍を称えて、生涯の舎弟を誓われるのだった…
これで、ましろの冒険の話は終わりにゃ♪
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