第37話 ラオスの暴走 後編
『アラン、槍は練習用でいいが、盾は使いなれた物を使ってもいいか?』
武器を模擬戦用に殺傷能力の低い武器に変更していると、ラオスから声を掛けられた。
『構わないが、その盾が傷ついても弁償しないからな!』
これが、ラオスの作戦とも気づかず俺は、軽い気持ちでokしてしまった。
『むしろ、その練習用のナイフで、この盾に傷を付けられるなら是非付けて貰いたいくらいだ!』
ブライトは、レオナルドへ問いかける。
『教えてあげなくていいの?あのままだと、あなたの未来の部下ちゃんはオモチャの武器で実戦をしないといけなくなるわよ?』
『むしろ好都合だ。そのくらいのハンデがなければ、アランの圧勝で、参考にもならなかっただろう。今回は、ナイトのジョブにとっては盾の性能がそのまま攻撃力へと変わるという知識を知れて、アランには、かえっていい勉強になると思う。』
『レオナルドちゃん?
就職試験の時の実力でいえば、むしろラオスちゃんの方が若干実力は上だったと思うわよ!?あなた、アランちゃんを悪い意味で妙に過大評価しすぎてない?流石に模擬戦で、殺しはしないでしょうが、下手すればあの子大怪我させられちゃうわよ?』
『多分、ライ兄も、この勝負を見てれば、俺の言ってることが真実だと分かる筈だ。』
『レオナルドちゃん…』
ブライトは、弟のアランへ対する妙な評価に首を傾げるしかなかった。
就職試験の時の実力でいえば、間違いなくラオスの方が実力は上だった。アランは、頭は良いが、ジョブのスキルも使いこなせてないようだったし、ステータスも器用だけは高そうだったけど、それ以外は正直普通。
手を抜いてるようにも見えなかった。
試験に合格できたのも、試験の意図を読み取り、迷いなく行動に出れたことを評価しての合格であり、動きや実力でいえば落とした受験者の中にもアランよりも上の者は多くいた。
(あれから、まだ2週間ちょっと…どんなに努力しても、こんな短時間での成長はたかがしれてるわ…)
『では、準備はいいか?』
ラオスが確認してくる。
『あ~いつでも大丈夫だ!』
『では、始めよう。』
場に、緊張が走る。
ラオスは、構えたまま動かない。仕方ないので、俺から動き出す。いつものように、素早い動きで斬り込んでいく。
俺の攻撃は、ことごとくラオスの盾に阻まれる。
やはり、ナイトのジョブは守りに特化したジョブなのだろう。
先程の戦いを見る限り、おそらくは、レオナルドさんも同じジョブだと思われる。基本は盾で防ぎ、スキをみて、盾のシールドバッシュか、武器の突きで攻撃をするスタイルになるのだろう。
あの2人の戦いは、戦闘用のスキルを場の状況で使いこなす戦いだった。俺には戦闘に特化したジョブスキルは無い。これから、人間と戦う場合には、素のステータスと非戦闘スキル、魔法剣の工夫で、この戦闘用のスキルを多く持っている化け物たちをどうにかしていかねばならないのだ。
『シールドバッシュっ!!』
ラオスの盾が俺に近づいてくる。
予想していた攻撃なので、対応は容易い。ブライト隊長と同じように、後ろへ自ら避けるだけだ。おそらくこの技は盾に触れなければ効果がない。盾の届く間合いの外まで自ら避け、ラオスは突きだした盾が邪魔をして俺が見えない隙をついて、ラオスの背後まで逃げきる。
ラオスは、アランを吹き飛ばしたはずが、スキルが発動せず、さらに盾を戻すとそのアランの姿そのものが、そこにはなかったことに困惑していた。周りを見回し、アランを探そうとしていると、背後から叩きつけるような剣撃の連続に何もなすすべなく地をなめることとなる。
『何が起こったのかしら?ラオスちゃんが、シールドバッシュを放った瞬間、アランちゃんの速さがいきなり倍近く早くなったわよ?』
『分からない…あれがアランの本気の速さなのか?それとも何かのスキルなのか?今は元の速さに戻っているな。』
これは、ましろとの特訓で身につけたスキルの有効利用法なのだ。そう、始めに覚えたスキル「逃げ足」だ。
逃げることに徹すれば、俊敏2倍で動ける。敵から距離を取る時、または、攻撃を避ける時に限られるが、攻撃や反撃の意識を完全に捨てることにより、ようやく発動できるのだ。
今回は、ラオスの攻撃から逃げることに徹し、ラオスの背後まで逃げ切ったのだ!
普通の模擬戦なら、ここで終了なのだが、ラオスは違う。
『アラン、俺はこのくらいのダメージではやられんぞ!続けるぞ!!』
『背後から斬り刻まれたんだから、本来は戦闘不能になるだろ?』
『そんなナイフでの攻撃ごときで俺がやられるものか!!』
『そういう意味ではないんだが…
まあ、いいか、訓練だしな!仕方ない…続けるか。』
『今度は、同じように避けるのはなしだ!』
『何でだよ!?わざわざ防御が硬い相手と分かってて、正面から攻撃するバカがどこにいるんだよ?』
『うるさい!』
『子供扱いするなって言うくせに、言うこと成すことまんま子供じゃないか?分かったよ!今度こそ、真っ正面からお前の防御を破ってやるから、それで終わりだからな!いくぞ!?』
俺は、流石にラオスの子供じみた言動にウンザリして、徹底的に負かして終わらすことにした。
俺は、ゆっくりとラオスに近づき、ラオスの盾に斬りかかる。勿論防がれるが、
「スパっ」
とラオスの盾はまるで豆腐のように切れていく。俺は、次々と両方のナイフで、ラオスの自慢の盾を切り刻んでゆく。
ラオスは、目の前で起きてることが信じられないのか、顔が恐怖で塗りつぶされていた。
『なっ!?何が起きてるの?
…あれは、魔力の剣ね?あまりに一瞬だけ光るからすぐに分からなかったわ!しかも2本のナイフを器用に切り替えながら…何て器用な魔力コントロールなの?』
『やはり恐ろしいやつだ。3週間前にたった一度見ただけの技を、ここまでコントロールできるようになるとは…』
『それは、本当なの?…私の知る限りあそこまであの技を極めてるのは、ジークハルトくらいよ。
…3週間。。魔力コントロールの天才ね…』
『あー、ジークハルトもそう言っていた。魔法の適正が1つでもあれば歴史に名を残す魔法使いになれたかもしれないとまで言っていたぞ。』
『…あれだけ魔力コントロールができるのに、「魔法の適正なし」なの?何て不運な子…』
『いや、つい1ヶ月前までは、「魔力なし」だったそうだ。魔力なしで生まれて、魔法に憧れ、成人の儀から1週間でダンジョンを攻略して、魔力を得たようだ。そのお陰か、成人して1週間で、ジョブレベル27まであがってたようだ。今ではどこまで上がってるのか…』
『とんでもない子ね…一体何者なの?』
『分からない。調べたが、何のジョブを取得したかすら、分からなかった。どのギルドにも登録されていなかったからな。』
『じゃー特殊なジョブの可能性が高いわね?もしくは、意図してギルドにも登録しなかったか…
私の人を見る目もまだまだね…これだけの化け物の卵に全く気付けなかったわ。
多分あの子、ナイトの特性によるハンデなんて、今でも気付いて無いんじゃないかしら?本物の武器をオモチャのナイフで切り裂いちゃったしね…』
ブライトは、ため息をついていた。
『これだけの才能だけなら、鍛えがいのある新人で済むんだがな…』
(あの子にはまだとんでもない秘密があるっていうの?レオナルドちゃんをここまで深刻にさせることって一体…)
『これで満足しただろ?』
俺は未だに、恐怖で立ち尽くしてるラオスに向かって言う。
ラオスはそのまま尻餅をつき、ガタガタと震え出す。
『近づくな!化け物!!』
『ひでー言い方だ…今のは、多少の魔力があれば、努力さえすれば誰でも習得できる技術だ!レオナルド副団長も使えるぞ。他にも近衛兵の多くの人間が使える技術だ。
俺は化け物なんて呼べるほど強くないが、ラオスよりは何倍も努力はしてきたんだ。何度も死にかけるような試練にも、全力で向き合って、乗り越えてきた。
それこそ、ラオスのように言い訳や、負けそうになったら敵にに手加減を強要するなんて情けないことせずにな!それが今の戦いの結果だ!
もし、ラオスが本当に最初の自己紹介の時に言っていたように立派になりたいなら、今後は自分を見直すことだな!』
ラオスは、何も言えなかった。アランの言う通りだったからだ。今回負けたのも、アランが化け物だったからと言い訳していた。
負けそうになったときも、真っ正面からぶつかれば負けはしないと、素早く動く相手への対策を考えようともしてなかった。
アランから、自分の小ささを見せつけられ、逃げ道を塞がれ、とうとう見えた今の自分の姿は如何に小さく愚かなことか…
ラオスは、悔しかった。同じ時間を生きてきた目の前の男に何一つ勝てる気がしなかった。それと同時に、この目の前の男から、一人の人間として、一人前だと認められたいと思っていたのだ。
『アラン、俺が愚かだった。俺は、これから自分の小ささをきちんと見つめる。そして、それを今度こそ誇れるくらいの努力で変えていくことを誓う!本当に色々と済まなかった。
俺は必ずこれから成長する。その成長をアランが認めてくれたら…
……俺と…
友になってくれないか!?』
ラオスのあまりに必死な顔にちょっと引きそうだったが、本当に成長をして欲しいとも思った。
『あーその時はな!』
こうして、後に「史上最強の盾」と呼ばれる、ラオス・モーガンの伝説がここに始まったのだった。
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