166
眉を寄せる俺に、アリシアは「少しは自分で考えなさい!」と上から目線だ。
アリシアは怒鳴り散らして気が済んだのか、盛大なため息をついて視線をそらした。
窓から街並みを見つめ、意気消沈して口を開く。
「……ミーナは、何を隠しているのよ?」
その言葉に、ミーナさんが顔を上げた。
申し訳なさに塗りつぶされたミーナさんの瞳が、戸惑いに揺れている。
「ミーナだって、本当はお人好しじゃない」
アリシアは頭をかき、言葉を続ける。
「最初から変だと思ったのよ。私はこの話を持ちかけた時に、タルサが否定してくると思っていたわ。だって、あの女神は効率主義の血も涙もない魔女だし、そんなタルサよりも、優しいミーナを仲間に引き入れて――一緒にタルサを説得するつもりだったのよ? それなのに、なんで蓋を開けたらミーナが反対しているのよ?」
しかし、ミーナさんはうつむいたままだ。
ミーナさんの貫く無言に、アリシアの眉がまた持ち上がる。
「何も話さないのなら、私にも考えがあるわ」
アリシアは腕を組み、言葉を続けた。
「最初から訳の分からない理由で落とされるなんて不条理は、移民の人たちに絶望を与えるだけよ! そんなことをして傷つけるなんて私にはできないし、そんな不誠実なことを私はさせない! 最初から説得されないつもりなら、逆に私を説得しなさい! ミーナにはその義務があるハズでしょう!?」
アリシアの怒りは、とても誠実な理由から生まれていた。
まっすぐに見つめるアリシアに、ようやくミーナさんが顔を上げる。
「……わかりました」
ミーナさんが控えめに、やっと口を開く。
「エターナルの人口は――昨日、タルサさんが獣人族から罪人を買い集めて下さったお陰で、百万人になりました。アリシアさんは移民や奴隷を買い集めようとして下さっていたようですが、もうその必要はありません」
「必要が、ない?」
「はい。生贄には――百万人で十分です」
俺とアリシアの頭に浮かんだ疑問を前に、ミーナさんは前ポケットから折り畳み式の小さな杖を取り出し、それを軽く振った。
「魔術拘束」
ミーナさんの小さな呪文と共に――俺の両手首に黒い腕輪が生まれた。
強力な磁石のように互いがくっついて、身動きが取れなくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます