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「これはわらわにとっても予想外じゃった」


 対面するソファーに座ったミーナさんに、タルサが口を開いている。


「まさか妾たちを呼び寄せておるにも関わらず、悠久の魔女がそのままくとは思わなかったからじゃ。悠久の魔女殿は〝現在の最善〟ではなく〝未来の最善〟を目指しておるゆえに、妾とは出す答えが違うと気づけなんだ」


 タルサの言いたいことは、何となくわかる。


 当然だけれど、現状の情報よりも、未来の情報の方がより多くの要素をはらんでいる。全てを知っているタルサにも、予想できないことは間違いなく存在しているのだろう。


「……悠久の魔女様と、タルサ様はお知り合いなのでしょうか?」


 ミーナさんが遠慮えんりょがちに口を開くが、タルサは首を横に振る。


「期待を裏切って悪いのじゃが、妾は悠久の魔女殿と会ったことは一度もない」


「そうなんですか? ……タルサ様が何もかもを知っておられるような口ぶりでしたので」


 ミーナさんの勘違いも仕方がないだろう。


 なぜなら、


「妾は転生者でな? 妾は願いにより、この世の全てのことを〝知っておる〟のじゃ」


 ミーナさんは納得した様だが、まだ戸惑とまどいながら口を開く。


「……悠久の魔女様は、タルサ様に後をたくしたと言うことなのでしょうか?」


「それは妾も知らぬ」


 突き放すような言葉を受け、ミーナさんの瞳に改めて涙が浮かぶ。


 それを見て、タルサはやれやれと首を振った。


「人を寄せ付けぬ悠久の魔女殿と接点があったのはミーナ殿だけじゃ。悠久の魔女殿が誰かに後を託したのだとすれば、それはミーナ殿しかおらんのではないか?」


 タルサの問いに、ミーナさんの瞳が揺れている。


「……私は、何をすれば良いのでしょうか?」


 タルサはソファーのひじけに片肘をつき、手にあごを乗せてミーナさんを見つめた。


「妾が言えるのは、この現状が、少なからず悠久の魔女殿の望んだ未来であるということであり、ミーナ殿がどのような選択をしたとしても、それは悠久の魔女殿の思い描いた未来に他ならないということじゃ」


 ミーナさんは、はっとした表情でタルサを見やる。


「ミーナ殿は、悠久の魔女殿の残したこの国を守りたい――そうじゃろ?」


「……」


 俺はそっとタルサの様子をうかがう。


 ……タルサの出した答えが、少しだけ理解できた。


「悠久の魔女殿は、この平和な国を創られた。その偉業は尊敬に値する素晴らしい功績であり、妾もこの国が好きじゃ。そして、これは妾からの提案なのじゃが――」


 タルサは目を細め、不敵に笑う。


「この国の行く末を決めるに当たり、妾にも協力させては貰えぬじゃろうか?」

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