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「……これはなんじゃ?」


 眉を寄せるタルサは、俺の創り出した飯が不服らしい。


 あれから、俺はタルサの椅子を創り出して、机に向かい合いながら座っている。


 机の上に置かれた料理は、ごはんとみそ汁、そして、カレイのみりん漬けだ。


わらわは魚を好まぬ。子供のころ、のどに小骨が刺さってからトラウマなのじゃ。さらに言えば、味も肉のほうが美味いと思わぬか? そもそも箸もなしに食べれんじゃろう?」


 矢継やつぎ早に出るタルサの文句に、俺は眉を寄せる。


 子供かよ。


 俺は横に置いたパソコンに新たな文章を書き足す。


 俺の前に箸が生まれ、それをタルサに手渡した。


「美味いから食ってみろよ」


「……仕方ないのぅ」


 タルサはカレイのみりん漬けに箸を伸ばし、身を割ったところで目を細める。


「小骨がないとは、なるほど一本取られたわ。……骨だけにな!」


 何言ってんだコイツ、とは思っても口にしなかった。


 タルサは喋れば喋るだけ女神から遠ざかっている気がする。


「こんな美味い魚を食べたのは初めてじゃ!」


「だから言っただろ?」


 笑顔になるタルサにつられて俺も笑う。


 近所のスーパーで400円ぐらいの奴だけど、やっぱ美味いよな。


 なんだかんだで、二人で取るに足らない会話をしながら食べる飯は美味かった。


 最後の味噌汁を飲み、食事を終えたタルサは、俺に向かって口を開く。


「お主様、爪楊枝つまようじも創ってもらえぬか?」


「はいよ」


 俺はまたノートパソコンに文章を書き足す。

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