第十四話 乙女たちな強硬作戦
「……随分と女子比率が高いね。僕がここにいるのは場違いに思えるのだが」
「あなたが必要だから呼んだのよ、薫さん」
また知尋ちゃんの家に、私、穂綾ちゃん、敬ちゃんがやってきてた女子会メンバー……に、今ここには紺色のシャツにベージュのズボンの室長仲崎薫くんもいる。
なんでこうなったのかっ。
先日林延寺家総力をぶつけた調査やレシピが敬ちゃんに届けられたものの、敬ちゃんは緊張して仲崎くんを誘えないでいた。
ついに知尋ちゃんに電話しちゃった敬ちゃんだったけど、私が知尋ちゃんから会う日を指定されてやってきたら、こんな状況に。
つまりっ、敬ちゃんと仲崎くんの海へ行こうお約束取りつけの日になっちゃったみたい。
仲崎くん普段静かな感じだけど、私、ちゃんとおしゃべりできるかな……。
「この人数でどんな遊びに必要とされたのかな? トランプをするにしてはどこにもトランプは見当たらないが」
「遊ぶのは呼びたかった口実よ。もちろん用事が早く済めばみんなで遊んでもいいわ」
なんかかっこいい。言い方はかっこいいけど、なんかだましたみたいでー……。
ここで敬ちゃんを見てみると、
(あからさまに緊張してる)
「ではその用事というのを済ませようか。この状態で遊んでも、気になって集中できないからね」
仲崎くんがそう言うと、知尋ちゃんと穂綾ちゃんが敬ちゃんを見た。
「え! な、なによ!」
穂綾ちゃんが特にじぃ~っと敬ちゃんを見ている。私も敬ちゃんを見ることにする。
「え、あ、あは~! や、やぁ室長仲崎ぃ~! 元気ぃ~?」
「いたって健康だ。野々原さんは見るからに元気そうだね」
敬ちゃんと仲崎くんのおしゃべりが始まった。
「そ、そりゃーもう! あたしから元気を取り除いたらなんにもなくなっちゃうからね! あは~!」
仲崎くんは男の子の中ではそんなに大きい方じゃないから、敬ちゃんの方が大きい。
「……知尋。僕はこんな会話をしに呼び出されたということなのか?」
知尋ちゃんと仲崎くんって、仲いいのかな?
「本題に入っていいわよ、敬さん」
「ちょ! そんな通過儀礼みたいな扱いされてもねぇ!」
「ほらほら早く言おうよ~」
最近敬ちゃん押され気味な日が増えてきたような。
「わ、わあったわよっ。な、な、仲崎!」
「なんだ?」
敬ちゃんはびしぃっと指差しした。
「こ、今度の日曜、あたしと……海、行かないかしら!?」
なんでそこで知尋ちゃん口調にっ。
「海? 僕と野々原さんが?」
「そうよっ! どう!? これでいい!? いいでしょ!? ねぇ!」
穂綾ちゃんと知尋ちゃんの方を見ちゃってる。
「……これだけ同性が集まっていて、どうして異性の僕が指名されたのだ?」
「なんだっていいでしょ! あんたと行きたいからそう行ったのよあほんだら~!」
言い放っちゃいました。
仲崎くんの表情はあまり変わっていません。
「海に行って何をするのだ」
「そりゃー、泳いだり、なんか食べたり……あたし不器用だから砂の城は作れないわよ」
やっぱり仲崎くんの表情はあまり変わっていません。
「……いいだろう。今度の日曜日、野々原さんと海に行こう」
「わ! まじぃ!?」
「聞いてきたのはそっちではないか」
敬ちゃんがものすごく驚いてる。
「わかった。日曜日に朝七時半、駅の噴水に集合だな」
「そうよっ。必ず来なさいよ!」
「すっぽかすようなまねを僕がすると思っているのか? 知尋、用事というのはこれで終わりなのか?」
「そうね……半分は終わったかしら」
「え、今ので半分なの!?」
あと半分ってなんだろう?
「ならば残り半分の用事も済ませよう」
「穂綾さん」
「はい~。しっちょー」
「なんだ」
「好きな女の子はいるのー?」
それ聞くの穂綾ちゃんの役割だったの? 敬ちゃん紅茶のカップがしゃんさせちゃった。
「好きな女の子? いないな」
「今まで女の子と付き合ったことあるー?
「ある」
「あるの!?」
敬ちゃんはともかく知尋ちゃんもものすごい勢いで身を乗り出したっ。
「あるからあると言ったのだ。こんなことを聞いてどうするのだ?」
「その話、詳しく!」
敬ちゃんの握りこぶし。知尋ちゃんのメモ体勢。
「だから聞いてどうするというのだ」
「乙女ってのは恋バナがエネルギー源なのよ!」
って敬ちゃん言ってるけど、私は~……う~ん?
「よくわからないが……あれは小学六年だったな」
「六年生~!?」
敬ちゃんはともかく知尋ちゃんのその顔っ。あ、ペン落ちた。
「小学校は僕とは違ったが、塾で一緒になっていた同じ六年生の女子がいて。告白されたから付き合ったんだ」
「はわ~」
敬ちゃん放心状態?
「ちょっと! 塾で一緒なんて、わたくしにそのようなお話はまったく聴かされていないわ!」
「なぜ知尋にわざわざこんなことを話さないといけないんだ。それに塾といっても、知尋と同じ先のことを勉強する塾じゃなく、復習を中心にしている別の塾の話だ。僕は塾をふたつ同時に通っている」
「なっ……! わ、わたくしを呼び捨てで呼んでおきながら、その程度の仲だったというの!?」
「聞かれたら答えていたさ、今みたいに」
知尋ちゃんがテーブルに顔を突っ伏している!
「どんな子だったのー?」
「背は僕より少し高かったな。賢くてピアノが上手だった。特に花の名前と花言葉に詳しくて、外で一緒にいるときは次々に花の名前を答えていっていた」
「仲崎くんのどんなところを好きだって言ってたのー?」
「しっかりしているところと言っていたな。先生に当てられて答えている姿がかっこよかったそうだ」
確かにすっと答えてるよね。
「どんなことして遊んでたー?」
「数字当てゲームが楽しかったな。数字が入っていたら白丸、数字も位置も合ってたら黒丸、制限回数内にすべて黒丸にすれば成功、というゲームだ。五桁の十六進数までやった」
敬ちゃん、わからないですっていう感じが顔からにじみ出てるよ。
「なんてお別れしちゃったの?」
「彼女が引っ越したからさ」
「え! ひ、引っ越し!?」
「ああ。彼女からそう別れを切り出してきた。文通も考えたらしいが、どうせ会えないならもっとすてきな人と付き合えと言われた」
「そんなぁ」
さみしいなぁ。
「その代わり、次また会えたときに僕がその子のことを好きなままでいたら、また付き合ってほしいと言われた」
「な、なんか付き合うのも別れるのも勝手にその子がやっちゃったって感じ?」
「そう考えられなくもないが、その子は僕が今まで出会ってきた中では、最も空気感が合う女子だったな。またその決断力はすばらしいと思っている」
「へぇ~……」
知尋ちゃんのメモが進んでいる。
「今もその子のこと好きー?」
「さっき言ったとおり、今好きな女子というのはいない。つまりその子を好きだという感情はない」
「なんでよー。いい子だったんでしょ?
「割り切ることこそ、彼女の勇気への報いだ」
ほんとにしっかりしてるなぁ、仲崎くん。
「もしかして、仲崎くんがクラスメイトのために先生相手でも立ち向かうのって、そのことが関係しているの?」
「少しは関係しているだろう。みんなにも機会を逃して後悔というのをしてほしくないのだ。僕はその子が引っ越すと聞いてからも、いつも通り接してしまい何もしてやれなかった。結果的にそれがよかったのかどうかはわからないが、どうせならもう少し感謝の気持ちを伝えておけばよかったと今になって思う。まぁ小学六年生というものはそういうものなのだろうな」
わー、敬ちゃんが仲崎くんのことを好きになるの、ちょっとわかる……かも?
「……あのー、さ、仲崎?」
敬ちゃんが小さく手を挙げた。
「なんだ」
「ほ、ほんとにー……あたしとー……海、行っていいの?」
「いいからそう答えたのだが」
「な、なんてゆーかさー、あ、あたしと住んでる次元が違うっていうかさー、こんなぼけーっとしてるあたしなんかと、いてていいのかなーなんてー」
「気が進まないのならそう言えばいい」
「そーじゃなくってっ! こう、もっと賢い女の子の方が好みなのかなー……なんて~」
「なぜここで女子の好みの話が出てくる」
「ぅえ! あ、あは~! ほ、ほらあ! 女の子と二人で海だよぉ~? 好みの女の子と行きたいもんでしょー!?」
「野々原さんは僕と行きたいのか行きたくないのかはっきりしてもらえるだろうか」
「行きたい!」
「ならば行こう。ただそれだけだ」
「ただそれだけって、あ、あたしと行くのつまんなそーとかそーいう意味?」
「つまらなさそうな人と海に行くわけがないだろう。わざわざ時間を作って遠い海まで行くのなら、行って楽しそうな人と行くのは当然じゃないか?」
敬ちゃんが手をぐーにして背伸びしてる。
「行こう! ええ行こう行こう行きましょう仲崎! 今度の日曜あたしと海に行くわよ~!」
敬ちゃんは立ってくるくる回ってる。
「知尋、これで用事は終わりか?」
「ええ」
仲崎くんがふぅっと息を吐いた。
「もうひとつ聞いていいー?」
穂綾ちゃんいっぱい聞くね。
「なんだ?」
「今もしだれか好きな人ができたら、付き合いたいー?」
「そうだな。今のところ僕から告白する予定の相手はいないが、もしだれかから告白を受けたら、その時は検討しよう」
仲崎くんは告白されたら付き合うかもっと……。
「薫さんの、す、好きなタイプを教えなさい」
「賢くて気遣いができる人だな」
敬ちゃんの回転が止まった。
「……他にタイプはないのかしら」
「音楽が得意なのもいい。僕はピアノを習っているから、楽器を演奏できる人ならなおいいな。相手はピアノじゃなくても構わない」
敬ちゃんがイスに座った。
「他はっ? 見た目とか性格とかはどうかしら」
「まだ聞くのか? 見た目にこだわりはあまりない。太っていなければそれでいい。性格はおとなしめの方が好みか。しかし自分の考えをしっかり持っていて、芯がぶれないようなことを望む」
敬ちゃんは紅茶をゆっくり飲んだ。
「……さ、参考になったわっ」
「そうか。こんな話をここまでしたのは初めてだ。君たちの将来に何か役立つならこんな話いくらでも使ってくれていい」
かっこいいなぁ。私こんな言葉思いつきもしない。
「ねー。さっきの好みのタイプの話ー。あれってさー。ゆのん、当てはまってなーい?」
「わ、私っ?」
みんながこっち向いたっ。特に敬ちゃんがすごい表情。
「賢い。気遣いできる。楽器演奏。太っていない。おとなしい。考えをしっかり持っている。芯がぶれない……わたくしの取ったメモが間違いないのなら……」
「し、芯ぶれてないかなぁ? そんなに考えをしっかり持ってるつもりもないけど……」
敬ちゃん、ハンカチはかむ物ではありません。
「どう? しっちょー。ゆのんは好みのタイプー?」
穂綾ちゃん何聞いてるのーっ。
「……ふむ。割とタイプに当てはまっていると言える」
「えぇーっ!? わ、私だよ? こんな私なのにー?」
ああ、そこでメモ加速させないで知尋ちゃんっ。
「いいと思う。告白されれば付き合うだろう」
「わあ~! す、すと~っぷ!」
もーやだぁ~……。
「ゆのん~。お付き合いしちゃうー?」
「穂綾ちゃん~っ……」
な、なんで最近こんなのばっかりなんだろう……。
(うーん。で、でも、かっこいいのはかっこいいけど……。逆に私の好きなタイプかって考えたら、ちょっと違うような気がするし……)
みんなそんな真剣な目で私を見ないで~っ。
(え、えっと、えっと、えっと……)
「……ごめんなさい」
「だそうだ、峰館さん」
「えー残念ー。だって、けいけい」
「なんでそこであたしに振るのよぉー」
私は頭を下げちゃいました。
「雪乃さん、薫さんではどうしてだめなのかしら」
「だ、だめっていうか……仲崎くんのこと、かっこいいとは思うけど……私はその、も、もうちょっとゆったりしてる人が好み、っていう感じ……かな……」
知尋ちゃんどこから赤ペン取り出したの?
「だそうだ、峰館さん」
「だって、けいけい」
「だからなんであたしにぃ~!」
仲崎くんは紅茶を飲んだ。
「しかし桜子さんから褒めてもらえたのは充分な収穫だ。ありがとう」
「い、いえ……」
……じゃあ、私って、だれとならお付き合いするのかな……。
それからはみんなでトランプしたりお茶したりで楽しんだ。
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