探偵事務所という名の何でも屋~依頼はろくでもない~

如月朱鳥

第1話 依頼は猫探し

古い雑居ビルが並ぶ1室に探偵事務所があった。

「今月も支払いでギリギリですよ!」

と大声で怒鳴っている女性がいた。

その声は事務所の外まで聞こえていた。

「まあ、依頼が2件くらいしかなかったからな」

「2件の依頼でも1件はタダ同然でやってましたよね!」

この2人、探偵事務所の探偵と助手。

実際は助手というより事務員。

請求書の束を持って、怒鳴っているのが我妻陵あずま あやあ。

そして、怒鳴られながらあまり聞いていないのが江崎弘樹えざき ひろき。

1か月に1件か2件探偵の仕事の依頼が来るが、生計を立てているのは探偵としてではなく何でも屋としての依頼だ。

実際、探偵事務所と書いているが何でも屋の仕事ばかりだ。

そして、彼女が持っている請求書の束は彼が聞き込み調査での飲み屋代が大半だった。

「で、ティッシュ配り行くんですか?」

ため息をつきながら、彼女は言った。

「今日はなんか行く気が~」

と言いながら、パソコンでネットニュースを見ていると突然

「ごめんください」

とポチャッとしたふくよかな女性がドアを開けた。

いかにもお金持ちというような格好の女性を彼女は応接セットに案内した。

彼は自分の机から動こうとしない。

それを見た彼女は、仕方なく机の上においてあるバインダーを手に取り、女性の用件を聞くことにした。

「えっと、何か依頼ごとがあってこられたんですよね?」

「うちの猫ちゃんが居なくなって、それを探してほしいんです」

「はぁ・・・猫探しですか?」

とあまり乗り気ではなかった。

それもそのはず、猫は気まぐれな生き物であり、狭い場所とかにも行ける。

見つけ出すのはまず無理に等しい。

しかも、見つけたとしても仕事量=報酬ではない。

それを知っているから彼女は猫探しの依頼は嫌だったのだ。

この事務所自体が赤字に近い状態だから尚更だ。

だが、自分の机から動こうとしないこの男の返事はこうだ。

「どんな猫か写真を、あと首輪とか何か特徴があればそれも教えてください」

といって受ける気満々だった。

そっと彼女が近づきバインダーで口元を隠して

「猫探しよりももう少し良い仕事を請けましょう。

 これだと採算取れないどころか、赤字に向かっていく一方ですよ。」

と彼の耳元で囁いた。

「まあ、仕事がないよりかはましだろうし、見つからなければそれでいいじゃないか」

そういいながら、彼は依頼者の元に行き猫の好物や行きそうな場所を聞いた。

そして、最後に報酬の話をしていた。

「報酬なんですが、要望としてはどのくらいですか?」

ここの報酬はほぼ依頼主が決めた金額で決まる。

ただ、依頼内容によって最低金額は彼らの中であるらしい。

「50万でお願いしたいのですが」

「ええ、50万・・・えっ!50万?!」

と2人は声を揃えて言った。

猫探しの依頼で良くても5万だが、それが今回はその10倍の額提示された。

そして、2人はその依頼を受けることにした。

「じゃあ、お願いします」

と言って依頼者は帰っていった。

依頼者が階段を下りていったのを音で確認して2人は

「でっかい仕事きたー!」

と喜んでいた。

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