第7話 常勝の王様

 あれから三年が経ち、俺は中学三年生になっていた。


 タイムスリップする前、折角日本代表に選ばれたのに、折角代表で活躍する事が出来たのに…と、当初は納得できなかったのだが、今ではこの状況を楽しんでいる。

 だってそうだろ?プロとしての技術や経験を身に付けたまま子供からサッカーをやり直せるんだから。



 十二歳、タイムスリップ一年目に、俺達下高井戸キッカーズは、全国少年サッカー大会全国大会にて優勝を果たした。

 そこでの俺のプレーは大きな話題となり、小学生にしてサッカー誌の取材を受けまくり、中には二ページの特集記事が掲載された程。一躍、天才サッカー少年として知る人ぞ知る存在となった。



 その後、中学はスカウトされた新設三年目の東条学園中等部に入学した。


 そこでも俺は一年生からレギュラーの座を勝ち取り、一年、二年と全国優勝を果たし、中学三年でもキャプテンとして都大会準決勝を無事に勝ち抜き、決勝へと駒を進めたのだった。



 そして、観客席からチームメイトと共に準決勝第二試合を観戦していた。


 勝った方が決勝で対戦する。当然偵察の意味合いはあるのだが、俺の本当の目的は対戦校の偵察じゃない。


 ピッチ上、誰よりも異才を放つプレーを見せていたのは、ライバル・香田だった。



 俺が辿った道は本来は香田が辿るハズだった道なのだが、俺が現れた事により香田の東条学園入学は無くなり、地元の世田谷三中に進学したのには驚いた。

 その三中は、前の時間軸で俺が進学した学校でもあったのだが、本来は実力的には都大会でもベスト8が良い所の中堅校だったのだ。

 だが、高橋を始めとして俺が鍛え上げた下高井戸キッカーズのチームメイトが多く在籍していた事もあり、都内でも有数の強豪校にまで成長していた。



「…やっぱ香田先輩も凄いっスね」


 成城FC出身で、一歳年下の『内村うちむら』が呟く。

 この内村もまた才能溢れる選手で、未来では日本代表に選ばれる事になる程。


 そんな内村の言う通り、香田はピッチ上の誰よりも目立っていた。鋭いパス、力強いドリブル、弾丸の様なシュート。

 トップ下からチームをコントロールし、試合自体を制圧していた。


「ま、あれ位当然だろう」


 そう、それが俺の本音だ。香田は将来、日本代表の絶対的なエースになるハズだった男なのだから。


「相変わらず日向先輩の香田先輩に対する評価って高いっスね。確かに香田先輩は凄いけど、それでも日向先輩と比べたらまだまだじゃ無いっスか?」


「香田は俺を倒すと言ってるんだ。あれ位出来て当然だろう」


「ハハハッ、同世代で日向先輩に挑む奴なんか、もう香田先輩しかいませんもんね」


 香田は、俺が周りからどんなに評価されても、只一人、俺を倒す事が目標だと公言している。

 でも、世田谷三中は残念ながら常に都大会で敗退しているので、香田は全国的には無名の選手だ。

 本来なら、香田はこの時期には今の俺の様に注目されていたハズなのに、東条に進学しなかったから全国的には無名。なのに、俺に勝負を挑んで来る。

 その姿を、無謀だと言う奴は多いが、だからこそ、俺も負けてられない。アイツが一歩進めば、俺は二歩三歩先を進んでやるんだ。



 試合が終了した。結果は3対1で世田谷三中が勝利した。


「やはり世田三か。香田、また上手くなってるな。お前がいなきゃ間違いなくもっと注目されてただろうな、日向」


俺と共に東条学園の常勝記録を作り上げている同級生の『権田ごんだ』。彼は将来、日本代表のキャプテンを八年以上勤める事になるザ・キャプテンなのだが、今は俺がキャプテンになってしまっている。



 さて、確かに香田の成長は目を見張る物がある。それでも、まだまだ俺の方が上だろうけど、それでも不安になる。


「上等だ。決勝で身の程を教えてやる…」


 チーム力は、純粋に東条が上だろう。なにせ、全国を二連覇中の中学王者なんだから。

 チームとしても、個人としても、明日の決勝は負ける要素は限りなく少ない。なのに、俺は不安を覚える。


 …いつか、香田に追い付かれるのではないかと。



「よし、お前ら!今から学校に帰って練習だ!」


「ええ~!今からっスか!?」


「なんだ内村?慢心する奴は常勝東条ウチにはいらないぞ」


「も~う、分かりましたよ!やります!やりますよ!」



 少しでも、アイツより多く練習する。それが、アイツの先を走り続ける為の条件だと俺は思っている。


 人は俺を、常勝の王様キングと呼ぶ。タイムスリップしたあの日から、公式戦無敗だからだ。でも、俺は王様なんかじゃ無い。それは自分自身が一番良く知っている。


 だからこそ、やれる時にやれる事をやれるだけやるんだ。


 本当の王様が追い付いて来ない様に。

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