第2話 出会いの夜のマサラ・チャイ(後)
外に出た。
俺は大きな勘違いをしていたらしいことに気付く。窓からみえた風景はまだ明るかったのでそう遅い時間ではないと判断していたが、よく考えれば空が黒いのに明るいのはおかしい。
黒ければ暗いのだ。明るいとはオレンジとかそういう色の段階をいう。
明るさの源は、俺の店にもあった目を刺す光を放つランタンで、それが一定間隔で建てられた棒にくっ付いている。黒いのに明るい。なんということだ。異世界人はどこを目指しているんだ。
しかし明るいのは正直助かった。獣が襲ってきてもこれだけ視界が確保されていれば大丈夫だろう。
はっ!?まさか、異世界人はそのためにランタンを置いているのか!?
夜に行動するために!?なんだそれは、研究し放題じゃないか素晴らしい。
これからは夜でも食材調達と調理ができるということか!ここは俺のためにある世界か!?
土地勘などあるはずもないので、足が赴くままに進んだが、歩いても歩いても似たような建物と塀と棒と綱。
道はよくわからない油のような臭いを放つ素材で出来ていて、白い線が引かれていたりする。
交差する道の突き当たりには、ありえないほど表面が磨かれた鏡が無造作に置いてあり、別の道の様子がみえるようになっていた。
なんだ異世界人。そんなに刺客に命を狙われているのかお前たちは。それとも野盗か?
思ったよりも殺伐としているのだな。
その割には人っ子一人いないぞ!生き物がいない!もうこの際、賊でもなんでもいいから襲ってこい!
店っぽい建物はあるのだがどれも閉まっていて俺は腹が減ってるんだ!
「くぅん」
フェンが鼻先で俺の太ももを押す。なんか作ってくれというおねだりだ。
アイテムバッグの中身もあるから作ろうと思えば作れる。店からスィナルの屋敷に戻ればもっとしっかりとしたものもできる。
しかし。しかしだ。
せっかくの異世界だ。異世界料理を食いたい。俺の知らない味を魅せて欲しい。
どこか空いている店はないのか!
この路地を曲がった先にも店がなければ諦めよう。その考えを五度ほど繰り返したのち、やっとまばゆい光の塊をみつけた。
フェンの様子を確認すると、顔を背けている。頭を撫でて待っててもいいと伝えたが、拒否された。目を閉じて俺の匂いをたよりについてくるようだ。健気な相棒である。
目を細めながらおそるおそる光源に近付く。露店か?毒々しい色合いの看板だ。
オレンジ・緑・赤。色彩はフェルン茸そっくりだ。
人がいた。人がいるぞ!珍妙な格好をしているが人間だ!手を振ってみたがこちらに気付かない。
視線を落として何かみている。
店の入り口と思しき場所に立てば、しゅーっと聞いたことのない音を立てて扉が開いた。露店かと思ったがちゃんとした店だ。
俺の店の扉もだが、この世界の店屋の門は信じられないほど透明で歪みのないガラスでできている。
この技術力ならガラスの皿や器なんかもきっと作れるはずだ。いつか職人を探そう。ガラスならば余計な味がまじることはないし、盛り付けもさらに進化させることができる。
「らっしゃっせー」
店内に一歩踏み込めば、絨毯が敷いてあり、奇妙な音が鳴り響き、呪文で迎えられる。
呪文を唱えたのはおそらく店員だろう。店の看板と同じ毒々しい色合いの服を着ている。
絨毯がひいてあって、制服を着た店員がいる。ここは高級店か?
店内を見回すが、棚が整然と並んでいて、商品がこれでもかと詰まっている。
好奇心が本能に勝ったようで、フェンが俺の足元を抜けて店内に踊り込んだ。
「おおおぉぉぉぉぉ!」
ソレをみつけて、腹の底から声が出た。鉤型に曲がった赤ピンクのグラデーションの、おそらく生き物が描かれた袋!未知の食材!
袋をひっつかむが、糸で縛っているわけでもなく、口がみあたらない。知らない素材で出来ていて、ガサガサと聞いたことのない音がする。
「なんだこれは。どうやって開けるんだ!」
「えくすきゅーずみー」
「店員!いいところに」
近くで呪文を唱えてきた店員に、袋を突きつける。さあ教えろ、これは食い物だろう!
どうやって開けるんだ!
「これはどうやって開けるんだ!」
「のーどっぐ、おけ?」
店員はなんだか慌てて彼方を指さしている。
「のーどっぐ、ここ。コンビニドッグノー、桶?」
指された先ではガラスの箱に入った揚げ物にフェンが釘付けだ。
揚げ物があるのか!俺としたことが抜かった。
「あ、あいかんとすぴーくいんぐりっしゅ!困る、ドッグ。イヌ連れてきちゃノー!」
「くそ、呪文がわからん!フロル!貴様怠慢だぞ。呪文も分かるようにしろ!」
苛立ってフロルに怒鳴る。あの性悪女神のことだ。きっとどこかで聞いているに違いない。
「あれ日本語?日本語に聞こえるけど、内容が、あれ?あの、お客さん」
「なんだ店員、喋れるじゃないか」
「お客さん犬は困りますよ!連れ出してください」
「犬ではない!」
狼だ。店員が間違えているから否定したのに店員の目が釣り上がる。なんだ逆上したのかこいつ。
「犬じゃないですか!いい加減にしてください。どういうつもりですか、警察呼びますよ」
「犬ではないし、言ってる意味がわからないが呼びたければ呼べばい」
いんじゃないか、と最後までいう前に腕が引かれた。
「すみません!この人あたしのおじさんで。迎えにきてもらったんだけど、外国暮らしが長くて常識なさすぎて」
「え?」
「なんだお前は」
「もうおじさん!店の人に迷惑かけないで。恥ずかしい。ちょっときて。あとワンちゃん外に出して」
俺の腕を掴んだ痴女のような格好をした少女はすみません、と店員に頭を下げて、華奢な体に似合わない怪力で店の隅まで引っ張られる。
「なんなんだ小娘!」
「いいからまずはあの生き物外に出して。店の中に連れてくるんじゃない」
「生き物はダメなのか?」
「当たり前でしょ!」
渋々フェンに外で待っているように声を掛ける。不満そうに睨まれたので後でうまいものを山と積むことになりそうだ。
「おっさん迷惑だからはしゃぐのやめてくれない?ケイサツ呼ばれたら困るんだよねわたし」
「ケイサツ……?」
首をひねっていると目の前の少女は怪訝そうな顔をした。
「そんな流暢に日本語話せるのに警察知らないの?」
「いや、私はお前たちの言葉が話せるわけではなく、女神から言語変換のスキルをもらってそれによって意思疎通ができているだけなんだ」
「……おじさん、頭大丈夫?」
「俺は石頭で有名だぞ」
「……そういうことじゃなくて」
「なんでもいいからこれを開ける方法を教えてくれ!」
「……それも知らないんだ。おじさんどこからきたの」
「スィナルだ」
「どこの国?ヨーロッパ?」
「こことは違う世界だ!」
「……へえ」
なにやら値踏みするような視線を向けられる。そんなことはどうでもいいから袋を開ける方法を教えてくれ。
言葉が通じるなら。俺はもう質問にいっぱい答えてやっただろう。お前も答えろ。
それが礼儀ってもんだろうが!
俺のそんな年寄り臭い文句を知ってか知らずか、少女は挑戦的な視線でこちらをみた。
こいつ意外に顔が整っているなとこの時気付く。ねえ、と彼女はバオのように艶やかな唇を開いた。
「おじさん、あたしを買わない?」
「なんだお前は脱走奴隷だったのか」
「違うわよ!」
それならザンバラで短い髪も、娼婦のような服装であるのにも得心がいくと納得しかけたのに、またもや怒鳴られた。
「おじさんこの世界に来て何もわからないんでしょ?案内役をやってやろうって言ってんのよ」
「お前は奴隷ではないのか」
「だから違うって」
重ねて否定されてふうむ、と腕を組む。奴隷ならば話は早かった。契約をきっちりすれば主人に逆らえないし嘘も言えない。
会ったばかりだしと色々問題点も浮かんだが、複雑になってきたのでイライラして全部投げる。
面倒くさい。まあどうにかなるだろ。
「いいぞ。買おう。いくらだ」
自分から売り込んできたくせに額は考えていなかったらしい。少女は驚いた顔をしている。
返事を待つのも面倒で、アイテムバッグに手を突っ込んだ。
俺はさっさと袋を開けたいんだ。
「これで足りるか?」
紫色の拳大の魔石を一つ差し出す。つい先日、魔王の取り巻きの四天王からとったやつ。鮮度は抜群だ。
「…とだったんだ」
手に乗せられた魔石を眺めて、彼女は何事かをぽつりと呟いた。
「おい、どうなんだ。足りるのか」
「泊まるところと、ご飯」
「あ?」
「泊まるところと、ご飯も出してくれたらそれで買われてあげる」
やけに真剣な声で俺を見る。黒だと思っていた瞳は、濃い茶色だ。
「わかった。いいだろう。お前、本当に脱走奴隷じゃないんだな?」
「違うから!ってか奴隷呼ばわりとか失礼なんだけど。おじさんの世界は知らないけど、ここだといい意味ないからね」
「ならいい。よし、そろそろこいつの開け方を教えろ」
「人の話聞かないし。なにこれ、えびせん?」
「これは食い物か」
「スナック、あー食べ物だよ」
「よし、食わせろ」
「なんでおじさんそんな偉そうなわけ?はあ、わかった。買ってくるから」
ん、と手を差し出される。
「なんだ」
「おかね」
「金」
「まさかお金もわからないってことはないよね」
「金はわかる。ちょっとまて。きちんと払う。俺は食い逃げは逆さ吊りしろと思う方だ」
食い物をみて色々吹っ飛んでいた。店ならそりゃあ売り物だ。
だが問題ない。フロルに当座の資金として渡されたものがあるのだ。
アイテムバッグを漁って、紙を引っ張り出す。
「ほら、これでどうだ!」
自信満々で少女の手に紙の束を置く。
「……おじさん、コンビニで小切手は使えないよ」
フロル、貴様、顔を貸せ。
「まさか初対面の異世界のおじさんに
「ぽりっ失礼な!ばり、訂正しろ。俺は、ぽりっ、払うと言っているだろう!」
「くぅぅん」
「フェンちゃんはいいの。お肉美味しい?」
揚げた肉を咀嚼しながら耳を垂らしてしゅんとしたフェンの耳の後ろを小娘が掻いてやる。
肉の誘惑に負けたフェンはあっさり小娘に寝返って尻尾を振っている。
おのれ。
しかしこのえびせんとやら手が止まらない。絶妙な塩加減だ。酒があればもっと美味いだろう。
俺としたことがあの店に酒があるか確認するのを忘れた。
この小娘もけちくさいのだ。あとで払うと言っているのにえびせんしか買ってくれなかった。
フェンには大きめの揚げた肉に、小さく切った揚げた肉も買っていたのに!
おのれ。
俺の料理で金を山と稼いだあかつきにはあの店のものを買い占めてやる。そして嫌と言うまで料理して食わせてやるぞ小娘。覚えてろよ。
「まだ着かないのか!」
「すぐそこだってば。ほんとおじさん偉そうだよね。あたしが居なかったら迷子だったくせに」
「マッピング機能が使えないのが悪いんだ!」
「はいはい。ここは日本だから郷に入っては郷に従いましょうね〜。ほらついたよ」
おざなりな扱いに納得がいかない。
しかしちゃんと俺の店についたのでいいこととする。
「ここであってる?」
「ああ」
「……そっか」
「何をしている。早く入れ小娘」
なにやら戸惑って、戸口で立ちすくんでいた小娘に声を掛ける。俺の方をみた瞳はまだ揺れていて、じれったくなって腕を引いた。
「何をもたもたしているんだ。案内するぞ!俺の店だ」
「……うん」
一通り紹介し終わって、カウンターに座らせる。
二階への階段を上っている途中で腹を鳴らしやがったのだ。問いただしたら丸二日間、水しか摂っていないらしい。えびせんと揚げた肉を買った金が全財産だったと、小さな声でそれはそれは嫌そうに言われた。
「ケチくさいと言う評価は撤回するぞ小娘。お前は聖女のようだな!」
「もうどこから突っ込んだらいいか分からないんだけど。ありがとうって言えばいいのあたし」
使い込まれて飴色のいい色合いになった一枚板のカウンターに肘をついて、じと目だ。
「まあ待っていろ。礼に良いものを作ってやる」
「おじさん料理できるの」
「誰にものを言っているんだ小娘。俺はブルーノ・メイスだぞ!」
「いや、知らないし」
「俺は天才料理人だ!」
「自分で天才っていう人ほど大したことないんだよね」
「ああ言えばこう言う小娘め。黙って待ってろ。材料を分けてもらってくる」
そう言い置いて、俺はスィナルの屋敷に戻った。
こちらはまだ真昼だ。庭に出て、首に下げている骨笛を力いっぱい吹く。
しばらく待っていると、大きな影が地面を覆った。見上げれば翼を広げた赤い竜が停止飛行している。
「ガラモルーーーン!」
両手を広げて振ると、竜は溶けるように下降して、人型で俺の前に降り立った。
「ブルーノ!何度言えばわかるんだ。笛は力いっぱい吹くな。あれすっげぇうるさいんだよ!」
ガラモルンの人型は狩人のような格好をした若い女だ。
「いいから早く乳をよこせ」
「おまえなぁ!人がせっかく来てやったっていうのに労いの言葉もないのかよ」
「感謝はしている。しかし小娘を待たせてるんだ。だから早く乳をよこせ」
正直俺の目に入ってるのはガラモルンの腕に下げている籠に入った乳だけだ。
「は?小娘って誰だよ」
「気にするな。機会があればそのうち会うだろ」
「気になるわ!絶対会わせろよ」
「ああ。早く」
「ほらよ。いつも通りメリィさんの特上モノだ」
渡された籠を開けると、黄色がかった乳が壺になみなみと入っている。匙を突っ込んで一口。
液体が口の中に広がるにつれて、濃厚で悶えそうな乳の旨味が舌を包む。油分を確かに感じさせるこってりさがありながら、後口はさっぱり重たくない。いまは暑い季節なので、後味の爽やかさを重視に調整をしているっぽい。冷やして飲んでも最高だろう。もちろん温めてもうまいに違いない。
思わず唸った。さすがシャープ界いちの職人。メリィさん。
「たしかに。いい仕事をありがとうとメリィさんに伝えておいてくれ」
「お前、ぜったい私よりメリィさんへの感謝の方が重いよなってもう居ないし!」
再びの異世界。
「おじさんどこ行ってたのよ」
戻って早々、ぎゅうっとフェンを抱きしめた小娘に半眼で睨まれる。
俺はアイテムバッグから必要な材料と簡易コンロを取り出しながら、首を傾げた。
「材料を分けてもらうと言っただろ」
「どこに」
「スィナル」
適当に答えながら、まずは鍋にエイジュの朝露を少量注いで火にかける。ここで沸騰させるのは三流だ。
そこにエルフの里で分けてもらった世界樹の葉を熟成させた茶葉をぱらり。
世界樹の茶葉は少量で驚くほど味が濃く出るので、香り重視の抽出をする。
低温で香りがしっかりと開くまで待ち、世界樹の茶葉特有の舌をひんやりとさせる味が出過ぎないように注意する。これはこれで美味いのだが、今日は控えめだ。
「おじさん」
「なんだ小娘。邪魔するな待ってろ」
「何作ってるの」
「つい先日できたばかりの新作だ。フェン、頼む」
茶の入った鍋はフェンの前へ。ヴァンっといつも違う声で鳴くのを聞きながら、アラクネの網にシザクの実と、火で炙ったバルバインの葉を詰める。
別の鍋で温めていたメリィさんのミルクにそれを投げ込んで、しばし。
「おい小娘」
「なに」
「お前甘いのとしょっぱいのどっちが好きだ」
「……甘いの」
返答を聞いて、エイジュの枝とカラシカエデのカップを取り出した。
アラクネの網を取り出して、とろりと濃い枯葉色になったミルクをカップに注いだ。
「フェン」
「がうっ」
フェンが宙に浮いていた茶で作られた丸い氷を操作して、カップに沈めた。
エイジュ枝を半分に割ってミルクに挿して一回し、残り半分はカップの横に添える。
「ほらよ、できあがりだ。飲んでみろよ」
小娘は躊躇しているように見えた。フェンがぐうっと小娘の腕を下から頭で押して、それでやっとのろのろと手を伸ばす。
両手でカップを持って、ふうっとミルクの水面に風を送る。慎重に香りを確かめた後、口をつけた。
「……なにこれ」
「どうだ味は」
「おいしい。びっくりした」
小娘の素直な言葉に俺は大きく頷いた。そうだろう、そうだろう。ミルクに香辛料を入れるなど狂気の沙汰だと抜かしやがったドラゴンも唸った味だ。
シャープのミルクはドラゴンの仔の主食だけあって滋養もたっぷりだし、シザクの実とバルバインの葉は胃腸を整える効果もある。世界樹の葉で回復力を底上げしてやってエイジュの蜜で活力も補給させる。
二日も固形物を入れなかった胃を労わりつつ、体をしっかりを回復させるメニューだ。
「その枝でかき混ぜてみろ」
「あ、チャイっぽくなった。でもちょっと違うね。チャイより複雑で飲んだことない味がする。氷が溶けたはずなのに、あったかさは変わらなくて、でも時々冷たいしなんか不思議。混ざってないのとも違うんだよね」
味わいながらゆっくりとミルク茶をすする小娘の感想を頷きながら聞いていたが、気になる単語が出てきた。
「チャイとはなんだ」
「これに似た飲み物だよ。どこのだったかな。インドだったっけ」
その言葉に衝撃を受ける。
「これと同じような飲み物があるのか!?」
「え、うん」
小娘はなんてことないように頷くが、分からないのかこの大問題が。
これは俺のオリジナルメニューだ。ミルクに香辛料を入れるなんて発想は他に誰もしなかったし、レシピを公開して、味見した連中が確かに味は美味いと認めた後でも贅沢すぎるといって誰も作らなかった。
それがすでにあるだと。
フロルの言っていたことは本当だというのか。この異世界には俺よりも天才な料理人がごろごろしていて、俺の知らない食材も山ほどあるというのは。
「インドにはどんな料理人がいるんだ!」
俺の質問に、小娘は一瞬何を聞かれたか分からないという顔をした。なんでだ。これ以上なくわかりやすい問いだろう。
「どんなって……知らないよそんなの。カレーを上手に作る人じゃないの」
「カレーとはなんだ!」
「説明するとすごく長くなるし、あたしもう眠いんだけど」
「しかしお前は俺の案内人だろう!」
「案内人は二十四時間営業じゃないんです。ちなみにこれ飲んだらものすごく眠くなったんだからおじさんのせいでもあるよ」
このミルク茶は体力を急速回復させるものなので、確かにそうだろうと、俺はうなだれた。
「というわけで、あたしは寝るから。おじさん和室にはこないでね」
「待て、俺はどこで寝るんだ」
「奥のソファでも、スィナルだっけ。そこでもどこでもいいよ、和室じゃないなら。こんな小娘襲うなんてこと、天才料理人さまがしないよね?」
「当たり前だろう!お前は俺をケダモノだとでも思っているのか!」
まだほんの子供相手にそんな気になるわけがないだろ。
俺の返答を聞いて、じゃあそういうことでと欠伸を噛み殺しながら小娘が二階へ消えていく。
初めて異世界の自分の店に降り立ったその日。俺はフェンを抱えて階段で寝た。
明日の朝、小娘が起きたらカレーとはなんだと根掘り葉掘り聞こうと心に決めて。
こうして、俺の楽しい異世界生活の幕が開けた。
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