覚醒

「お誕生日、おめでとう!」

 温もりが消えていく。


 涙があふれていく。


 重力で落ちていく。



「――っ!!」



 御影タワーは地上百三十三メートル。そこから身一つで落ちたらひとたまりもないないことは確かだ。

 普段感じることない浮遊感。ただただ恐怖を感じて涙が滲む。


 どうしよ、どうすれば。


「ふっ、うぐ……っ……!!」


 もう心はぐちゃぐちゃで、思考なんてまとまらなくて。でもここで死ぬなんて、それこそ死んでも嫌だった。


「『お困りかな』」

「……お困りです!! だから」

「『だから?』」






「助けろ、ください、シェルシャリード!!!!!」






「はぁい、我が弟子」


 その聞きなれたはずの声が、幾分かクリアに聞こえて、それから。

 背後から流れるように空へ舞い上がる花びらが、視界いっぱいに広がった。


 あっという間の出来事。


 気が付けば、師匠せんせいの腕の中に抱き留められていて。街は消えて、見渡す限りの空き地にポツンといて。

 夜は明けて、清々しい朝を迎えていた。


「……せんせえ

「うん、此処にいるよ」

「僕、僕は、きっと」

「うん、なんだい」

「後悔のない、選択をしだ、じだはずなのに」

「うん」


 ぎゅっと皺が付くくらいに師匠せんせいの服を握る。それでも何も聞かずに、ただただ抱えたまま、僕を見守っていて。それがわかっているのに、どうしようもなく止まらない涙をずっとずっと、流している。


「ナナミ君」

「……ばい゛」



 ぐずぐずと鼻が鳴る。目を擦っていた手を止められてさっと差し出されたハンカチを握らされた。それからすっと頭を優しく手が撫ぜる。


「いっぱい、いっぱい泣きなさい。それこそ、気が済むまで泣いていい」

「……うう」


 きっとひどい顔をしていることだろうけれど、碧い目はただただ静かに、とがめることもなく、僕を見守り続けてくれて。






「だって人間ひとは誰しも、泣きながら生まれてくるのだから、ね」






「う、あ、うあああああああ!!!」


 その言葉に、抑えられなくなった泣き声を上げた。

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