第6部 理想郷のお別れ《3》

 お姉さんがお話があると言うことで、やってきましたダンジョンマスターのお部屋♪

 今日も元気に天使達がパタパタと飛び回り、遅れてやってきたパステルグリーンと薄紫の蜂コンビが、その体には不釣り合いな大きさのを持ち、あっちにフラフラこっちにフラフラしながらやってきましたよ!

 思わず両手を差し出すと、ポンとそのを私の手に放り出し、見るからに “フゥ〜疲れたー” って感じで、ソファーの端に降りてぐったりしています。“いったい、どーしたー!!”

 パステルグリーンくんと薄紫ちゃんが放り出していったを、よーく見てみる。


「ぼーゆ?」


一つは、ちょっと大きなスーパーボールくらい、もう一つは小さめのスーパーボールくらいの大きの


「う?」


 中をのぞいていると、その二つのボールもどきがフゥーとふくれて、テニスボールくらいの大きさと、ビリヤードボールくらいの大きさになった。


「ふぉぉ!!」


 透明な丸い入れ物の中には、キラキラ光る黄金色の液体と黄色の固形物が入っていたよ!


「はちみちゅ! みちゅろー!」

「やっと、作れるようになったらしい。あっちの世界と比べても、トップクラスのできだ。うまいぞ。」


 “わぁ〜い♪ はっちみちゅー♪ みっちゅろー♪” と、勝手に作った歌を歌いつつ、私が蜂蜜と蜜蝋みつろうを持って、テーブルの周りをクルクルと回って喜んだのは、言うまでもない!


「で、話しって何だ」


 あっ、そうだよ。お姉さんのお話!


「そう、それなんだけど。母から連絡があって、近いうちにこっちにこれないかって」

「確か、親御おやごさん達は外国にいるんだよな」

「そうなの。でね、くるんだったら冬の山は雪が降ると大変だから、春までこっちにいたらどうかって」

「いいんじゃないか」


 ハリネズミ姿のダンジョンマスターが、うんうんと頷きながら話をきいている。私も、それがいいんじゃないかと頷く。

 あっちの世界のお姉さんのお家がある山が、冬はどれくらい寒いかとか、どれだけ雪が降るかとかわからないけど、雪が積もったら車も使えないし、屋根の雪降ろしとかも必要なら、トルキーソに手伝ってもらおうと思っていたところだよ。


「ちゃんちぇー」


 “あい!” と手を上げて、賛成する。親御さん達がいる所は日本より暖かいみたいだから、大賛成です!!


「えっ、いいの! 何ヵ月もあっちのお店に行けないけど、大丈夫?」


 あぁ、お姉さんは本当に優しい。何ヵ月も自分がいなかったら、私達が困るんじゃないかと心配してくれたんだ。


「たいちょうぶ、にゃんかいもおみちぇ、ちゅれてってもらったのー。いーぱい、かっちゃの!」

「そうだぞ。どうしても必要な物があれば、この俺のチートでなんとかするし。」

「ありがとう、グーちゃん、ダンジョンマスター。2人の話を聞いててね、人間いつどうなるかわからないから、お母さんやお祖父ちゃんやお祖母ちゃんにありがとうって、大好きって伝えたいなと思って」


 私とダンジョンマスターは、またまたうんうんと頷いた。そーだよ、私もダンジョンマスターも、まさかあの若さで前世が終わるとは思ってもみなかった。もっと親孝行しとけばよかったとか、大好きだよって伝えておけばよかったとか思っても、もうどうしようもないからね! お姉さんには、家族仲良くいっぱい一緒にいて欲しい。


「でね、向こうに行く前にできることがあればやっておきたいんだけど」

「あぁー、そうだな」

「宝石は? 売りに行く?」

「グルナ、頼む」

「あい!」


 そこは、勝手知ったるダンジョンマスターの部屋のリビング! 私は、ソファーから “よいちょ” と降りると、棚の中に無造作に入っている宝石のルースを確認。そこから、“これくらいの値段かなぁー” と想像がつく宝石のルースを、数点選びだす。


「あい」

「よし。これで頼むな」

「わかった。来週友達と会うことになってるから、その時に行ってくる」

「それで、瑠璃るりはいつから行くんだ」

「来月の中旬頃にしようと思うの。帰ってくる時には、いっぱいお土産買ってくるからね」

「おみやけ!」


 魔法の言葉 “お土産”。その魔法の言葉に、私の気分はアゲアゲですー♪ キラキラした瞳で、お姉さんを見つめましたとも!

 お土産だよ、外国の! 私、前世では外国に行ったことなかったから、お土産楽しみー♪


「グーちゃん。あと一ヶ月くらいだけど、あっちのお店にいっぱい行こうね」

「あい!」


 外国に行くまでの間、いっぱいお店に連れて行ってくれるって! 買い忘れがないやうにしておかなきゃ♪









「今まで、お世話になりました」


 グレーノが、深々と頭をさげた。お祖父様はグレーノの肩に手を置くと


「元気でな」


 と言い、“これを持って行きなさい” と、一つのマジックバッグを手渡した。


「これは、今後この領地の特産品になる物だ。家族皆で使いなさい」


 そう言って渡したマジックバッグには、厚さ五センチほどのマットレス、マイクロファイバーの毛布、裏ボアの上下の服が、三つずつ入っていた。中をみたグレーノは驚いた様子で


「旦那様!」


 と言って、涙を流した。これからグレーノが帰る村は、貧しい所らしい。これと言った産業はなく、田畑を耕してやっと暮らして行ける所だって。“このコーメンツに少しでも余裕があれば、なんとかしてやれたかも知れないが……” そうお祖父様が呟いていたのを、私はしっている。


「グレーノ。こえも、もってかえゆの」


 私は100均のレジ袋に入ったソレを差し出した。マジックバッグに入れて、持って帰ってもらうのだ。


「こえ、あみきとけーと」


 グレーノは、ネックウォーマーならもう1人で編める。他の編み機には、キャメリアにこっちの言葉で使い方を書いてもらい、グレーノが編めるようにしてもらっている。


「こえは、ちっぷとくちゅり」


 お父さんように、シップと薬の説明をしておく。そして、風邪薬や栄養ドリンクの説明、その他野菜の肥料や細かな物の説明をした。


「お、お嬢様……」


 グレーノはひざまずいて私と目線を合わせると、“ありがとうございます、ありがとうございます” と、何度も言っていた。


「グレーノ、もしどうしても困ったら、コレを使いなさい」


 そう言ってお祖父様が手渡したのは、ダンジョンのドロップ品 “正常” だった。量は三分の一くらいだけど、これがあれば何とかなるのかな?


「グレーノ、ばいばーい!!」


 グレーノの姿が見えなくなるまで私は手を振り、お祖父様やお祖母さまやお母様は、静かに後ろ姿を見送っていた。









 グレーノが故郷に旅立って二週間。明日は、お姉さんが御家族のもとに行く日がやってきました。

 この一ヶ月くらい、お姉さんはいっぱいあっちのお店に連れて行ってくれたの! 私もお祖父様もお祖母様もお母様も、そしてトルキーソや料理クック長やキャメリアやぺルルやマージェさんも交代で連れてってもらったよ。そして今日


「これ宅配ボックスと家の鍵ね」


 お姉さんは、お家の玄関の横に大きな宅配ボックスを置いてくれた。私達がいつでも、あっちの人に見られることなく荷物が受けとれるように。

 そしてお姉さんのお家のパソコンで買い物ができるよう、お家の鍵も渡してくれたのだ。


「台所のテーブルの上に、パソコンとプリンターは置いてあるから、すきに使ってね。あと、これはクレジット機能付きの、銀行のカードと通帳。この間の宝石のお金は、全部ここに入ってるから。あと、これが私のノートパソコンとスマホのアドレス。何かあった時に対応できるよう、お買い物の履歴も送ってくれたら嬉しい。用事があってもなくてもいいから、メールちょうだいね。グーちゃんの近況を教えて」


 カードと通帳の名義は、もちろんお姉さん。何から何までやってもらって、嬉しくて嬉しくて、目がうるうるしちゃうよ。


「ふぇ…。ありあと、おねえしゃん」


 今日は、お姉さんのお家でお泊まりして、明日の朝お姉さんをお見送りするの!

 ダンジョンマスターにプチスライムのスィリーと子羊のサフォを預けて、夕食はお屋敷で皆で食べたよ。お祖父様もお祖母様もお母様も、お姉さんにはすごく感謝してるから、皆でしばし間のお別れ会をしたの。

 そして、明日のお見送りのためにお泊まりです! キャメリアとぺルルも一緒だから、最後の夜を皆でガールズトーク♪

 そして……。




「あと5分くらいでくるみたい」


 玄関に鍵をかけ、下の道に続く坂の上でタクシーを待つ。


「おねえしゃん、きをちゅけてね」

「うん、グーちゃんも元気で頑張ってね」

「あい! かえってきちゃら、おしゃんぽ、しよーね!」


 昨日約束したのだ、お姉さんが帰ってくる来年の春までに、少しでも領地経営が良くなるように頑張るから、“帰ってきたら向こうの街を、手を繋いでお散歩しようね!”と。

  頑張るのだ!


「あっ、きたみたい」


 タクシーのクラクションの音がする。


「じゃ、行ってくるね!」

「お気をつけて」

「お元気で」


 キャメリアとぺルルもお姉さんとお別れの挨拶をして、坂を降りていくお姉さんに


「おねえしゃん、いってらっちゃーい!!」


 私はその姿が見えなくなるまで、元気いっぱい手を振った。





********


次回投稿は19日か20日が目標です。


お姉さんが外国に行って、グルナに一つの試練が……。

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