第4話 リア神は意外とぬけている


 変化。

 それはある日、突然訪れる。


 ただ、変化には前兆があり原因がある。

 つまり、偶然ではなく必然。


 何かなければ本来起こり得ないことなのだ。


 ……そう何かなければ。




「いらっしゃいませ! ご注文をどうぞ!」




 俺はいつものように営業スマイルで客に対応する。

 自分で言うのも変な話だが、接客にはそこそこ自信がある。

 笑顔を張り付けて、演技をする……うん。


 なんていいバイトなんだろう。


 変に本心を出さずに済むし、面倒な客も仕事、お金を貰えると思えば対応もできる。


 だから俺はバイト中、いつものような気怠さは微塵も出さない。

 まじめにしていれば、給料も上がる。

 勉強より余程有意義な時間だ。



 しかし……、今の俺笑顔は少し引き攣っているかもしれない。

 いや、確実にいつものような満面の笑みではなく、明らかに作られた笑みをしていることだろう。


 必死になって耐える。

 そんな笑みだ。



 その原因は——



「えーっと、そうですね……。ハンバーガーのAセット、ポテトはL、飲み物はレモンティーでお願いします」



 ついこの前聞いたばかりの透き通るような声……。


 そう、俺の目の前で注文するのは、リア神こと若宮凛だ。

 つい昨日、送ったばかりの若宮が今度はお店の中にいる。



 おかしい。

 色々とおかしい。


 たまたま来た?

 それとも何か要求が?

 俺に施しを受けたことを口止めにきたのか?


 わからん。

 スマホを見ていて、俺を見てる様子はない。


 まぁ、バイトの服装でしかも帽子を被っている。

 気付いてないだけで、ここへ普通に食べに来てるだけかもしれない。


 ふぅ……。


 そうだな。

 若宮は普通に注文しているだけ……変な勘ぐりはよそう。


 疲れるだけだ。

 俺には関係ない、考えるな……よしっ。


 俺は小さく息をはき、表情を整える。



「ありがとうございます! ハンバーガーのAセット、ポテトはLサイズ、そしてお飲物はレモンティーでよろしかったでしょうか?」


「はい。それでお願いします」


「かしこまりました。料金は550円になります!」



 若宮はお金を支払うとトレーを持って、窓際の席に座った。


 俺はなるべく彼女を見ないように努めようとするが、レジから丁度見える位置に陣取るせいで嫌でも視界に入る。



 まぁ、でも食べたらすぐに帰るだろう。





 ——1時間後




 若宮は、勉強道具を広げると一生懸命に何かをやっている。

 あの分厚いのは数学か?


 やっぱり優等生はどんなところでも勉強できるんだなぁ。

 と感心してしまう。


 この店、お世辞にも勉強がしやすい環境とも言えない。

 店内には音楽が流れてるし、他にも学生がいてガヤガヤしている。


 そんな中でも集中できるっていうのはやはり才能だろうな。





 ——3時間後




「ドーナツ2個とコーヒーでお願いします。サイズは1番小さいので」


「かしこまりました。Sサイズですね! ドーナツのお味はこちらからお選び下さい」


「そうですね……。プレーンでお願いします。あ、2つともです」


「料金は350円になります」


「あの、ミルクと砂糖を……2ついただけますか?」


「2つずつですね! かしこまりました!」


「ありがとうございます」




 ——5時間後




「お客様、高校生は帰る時間となりましたよ……」



 結局、高校生が居られる限界時間22時まで若宮は勉強していた。

 そして、店長に頼まれた俺は彼女に声を掛けることなってしまった……という状況である。



「あれ? 常盤木さん、そういえばここのバイトでしたね……。それにしてもこの時間……ああ、またやってしまいました」


「昨日の今日で何やってんだよ……」



 昨日も思ったけど意外と抜けてんな……。

 つか、バイトしていること……忘れられるとかどんだけ俺は存在感ないんだよ。

 軽く凹むわ……。



「少し電話をします……」



 デジャブ……。


 また電話をかける若宮の身体が怒られる度にピクリと動く。



「すいません……常盤木さん。昨日に引き続きお願いしてもいいですか……?」


「はいよ……」



 昨日より、強めに怒られたのだろう。

 涙目で頼む若宮の頼みを断ることは、俺にはできなかった。


 いや、普通に反則だからね。

 その表情。

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