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それは世界が産まれて間もない頃、秩序なく混沌としていた世界は争いにまみれていた。そんな時、神は一振りの剣を振るい世界を二つに引き裂いた。引き裂かれた世界は光と闇に分かれ、それが昼と夜になった。

それはメージ教に伝わる創世神話であり、その振るわれた剣こそが『ヴァンブレード』である事はよく知られた事であった。


神々の造った世界を引き裂く程の剣に掛かれば、不死身の魔王と言えど二度と蘇らぬ様にする事も出来るだろう。

焚き火に乾いた枝を放り込み、カタールは炙った干し肉に舌鼓を打った。

思い付きでやった事であったが、干し肉をそのまま齧るよりも炙った方が旨い事に気付けたのはこの旅初めての収穫かも知れなかった。


ここで迷子になるまでの道程はカタールにとって『旅』と呼べる様なものではなかった。兄に託された使命があり、護るべき同行者が居たとしても、まるで『観光』でもしているかの様な心持ちであった。

そう思えてしまうのも無理はない。ロイガーが旅立った後、カタールがアニヨンの下を訪ねると彼女は既に旅支度を始めていた。


「見てこれ、最高級の皮鎧をわざわざあたし用にオーダーメイドして貰ったんだって。獣避けの薬もたくさんあるのに、心配性だねロイ兄は」


着心地を確かめるアニヨンに昨日のドレスの方が素敵だったとカタールは告げたが、彼女は曖昧に笑うだけであった。


「それより話は聞いたよね?魔王を倒す為に武器が必要で、色々あって他人は信用出来ない。だから『家族』であるあたし達に白羽の矢が立ったの」


「って言っても俺達この村から出たこともロクにないじゃんか。誰か旅慣れた人に付いてきて貰おうぜ?」


この提案にアニヨンは首を横に振った。代わりに一枚の地図を広げてカタールに突きつけた。


「そんな悠長にしてる時間は無いの。それにほら、剣がありそうな場所は目星が付いてるらしいわ。ロイ兄だってあたし達でも出来ると思って頼んで来たんだもの、きっと大丈夫よ。」


地図上には確かに幾つかの印が書き込まれていた。実在も疑わしい剣といえどここまで所在を絞り込めているならば自分達でも出来るのではないだろうか、そんな考えが頭をよぎる。同時に「追い詰められてるんだ」と語る兄の背も。


「なぁアニー、俺の分の荷物もあるんだろ?見せてくれよ」


勇者の兄と違いロイガーはただの農民である。旅のイロハも世に溢れる危険にも詳しくは無い、魔王を倒す力も問題を解決する知恵もない。

それでも


「荷物の確認が済んだらすぐ出発だろ?パッと見付けて今度こそ兄貴に帰って来て貰おうぜ!」


好きな女の前では勇敢でありたいと願うのだ。

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