無限聖剣タケノコォド

天蛍のえる

1-1


古来より森は人智の及ばぬ領域とされていた。木を伐り、森を拓き、ハゲ山を生む様になってなお、ヒトは森を恐れた。

つまるところ、森はヒトの領域では無いのである。


見渡す限りに生い茂る枝葉が伸び重なり、陽の光を遮っていた。

木漏れ日が差すというにはあまりにも暗い森の中、誰も踏み入れた事の無い様な緑の絨毯を踏み荒らす、一組の男女が居た。

年の頃はどちらも成人したてといったところであろうか、年相応に成熟した肉体からは食い詰めた様子は無く、森の中をおっかなびっくり歩く様は猟師にもきこりにも、冒険者にも見えはしない。

事実、彼等はそのどれでもないのである。


「なあ、アニー」


先を歩く女に黙々と追随していた男がポツリと声を上げた。視界は暗く足元すら見透せはしない、それでも幾つかの違和感が彼を一つの結論へと導いた。


「もしかして俺達、迷ってない?」


これ多分俺達の足跡だし、と足元の萎れた草花を蹴りつける男の声にアニーと呼ばれた女は立ち止まり


「や、やっぱりそう思う?」


今にも泣き出しそうな顔で振り返った。

つまるところ二人は猟師でもきこりでも冒険者でもなく、迷子であった。


「やっぱ無理があったんだって。俺達は兄貴とは違う、ただの農民なんだぜ?」


あぁ疲れたと座り込んで背負い袋から取り出した水袋を一口呷る。旅に出て四日目、ようやく挫けた心に付け入る言葉を重ねる。その答えが判り切っていたとしても、口にしなければならない言葉が有ることを彼はよく知っていた。


「それはそうだけど……初めてなのよ? ロイ兄が頼ってくれたのなんて」


「だからって兄貴みたいに出来るわけじゃないんだ。今日は此処で一休みして、明日からまた頑張ればいいだろ。まだ時間はあるんだ」


そう、まだ猶予はある。

ここより遥か西方で戦い続ける勇者ロイガー・タキシスが力尽きるまで、魔王コプリヌスが勝利を得るまで、人類の存亡が決まるまで、時間はある。

だがその時間がどれだけあるのかは、勇者の弟、カタール・タキシスにも判らなかった。

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