第14話 背負わなければいけないリスク
アイシャの提案を鵜吞みにするなら、未開拓エリアに俺もついて行くことになる。
いずれは、戦闘職と並んで立つつもりだが、あまりにも急な誘いに思わず狼狽える。
「3人って俺も行くのか!?
近場で狩りをするのとはわけが違う。
未開拓エリアで遭遇するモンスターのレベルだってミュケ近辺でも予想がつかない。
頭の中で浮かび続ける不安に悩まされていると、アイシャとシンから励まされた。
「この前まで、MBOやっていれば回避は出来るじゃない。ポーション持った疑似ヒーラーはできるでしょ?それにまだ序盤。私質も大してスキル増えてないわ。むしろ、他のプレイヤーより一緒に戦う時、安心して背中を預けられる」
シンに至っては俺が来る案を聞いてからずっと目を輝かせている。
「それ、わかる。皆、VRゲームの経験はあるけど、グレイには今一番欲しい物が
(いや、おかしい‥急ぎ過ぎてる‥)
アイシャの提案はじっくり時間をかけても良い策である。いくら付き合いがある旧知の仲同士で、攻略に必要な物を探しに行くと言っても、今この3人でやるのは性急だ。
「う~ん、待ってくれ。やっぱり‥3人だけってのが引っかかる。別に、解放戦線を全員が弱いわけじゃないんだからさ。ライオットさん辺りの高レベルプレイヤー連れていこうよ」
その提案を聞いたアイシャは気まずそうな表情になってしまう。
「彼は‥レベルが高くて味方への指示もできるけど‥初見にはめっぽう弱いタイプよ。以前、私は解放戦線のプレイヤーの大半の動きを見た時、彼は警戒し過ぎて動きが鈍くなってた。攻撃力次第では、一発でHPを全損する可能性も高いの。だから今は、開拓エリアの指揮をさせてる。それに‥‥」
重要な所に入った途端、彼女の口は重くなる。
「それに‥なんだよ?」
気になって追求した俺の質問は代わりにシンが答える。
「それに‥森林エリアの奥地に向かったプレイヤーは、誰一人帰って来ないんだよ。
「なっ‥そんな危険な場所なのか!?」
事実確認でアイシャの方を向くと、彼女は力なく首を縦に振る。
「今、クランからは誰一人行かせてないわ。ただ、解放戦線に所属していないプレイヤーは、危険かどうか調べずに行ってしまうの。ついこの間も犠牲者が出たのよ。彼らは「光るモンスターを見た」と言って、追いかけるように入っていったらしいわ」
言われてみれば、ポーション製作で談笑している時にあの辺りへ行った話は聞いたことがない。
そこまで危険と分かっているならば、尚更急ぐ理由が分からない。北エリアの中でも広大なヘネロポリスならミュケ以外にも街はある。
極端な例を挙げれば、紫音がいるかもしれない南エリアやここから南下に存在する中心エリアも存在している。
「なんで、南の方は調べないんだ?南は道が続いているって聞いてる。そのまま南の方に進めば簡単に見つかるかもしれないぞ。この前、遠征させてただろ?」
すると、彼女は伝えるのを忘れていたと言って答えた。
「昼過ぎに遠征組が帰ってきて報告を受けたわ。南は、一日歩いた先で憲兵に通行止めを受けるの。その辺りでは国同士での戦争中らしくて、終わるまでは通行止め。私の予想では、ストーリークエストのクリアによって解放されると睨んでいる」
(だから、シンの報告の時にストーリークエストかを確認してたのか)
こういった最新の情報は手に入れていない。だがしかし、今の話を踏まえてもこの提案には問題点がある。
「まだ、問題がある。単純にレベル上げをしてから挑むという方法が抜けている。現状では、レベル上限は50だ。そこまで上げてから森林エリアに行っても遅くないはずだ。何故だ?何故、こんなに急いで明日行くんだ?」
単純作業を繰り返してレベル上げに専念すれば、リスクは最小限に抑えることが出来る。
今のままでは、備えをせず無謀な賭けに出るのと同じで、勝算は限りなく低い。
「おそらく‥ライオットさん達が勝手に調査するのを阻止するためでしょ。最近、アイシャに反論すること多いし」
シンの指摘にアイシャは苦笑いしていた。
「そうでしょうね‥‥彼らだって馬鹿じゃない。毒が対抗策と気づけば直ぐに提案してくる。でも、私が反対することも気づいている。そして、大半は私の指示に従い彼の意見は無かったことになる。正に、お飾りのサブリーダー。巷でそう噂されてるのを私ですら聞いたことがある‥」
「それは、今言った問題があるからで‥」
沈んだ声で話す彼女からは、自らに非があると言わんばかりの雰囲気が漂う。
「最近は彼にも慕ってくれる仲間が増えてたんだけど‥逆に功を焦って森林エリアに行ってしまう可能性が高い。それで集まれば、皆が彼を認めるし、陰口だってなくなるもの‥」
「でも‥現状の勝算は限りなく低い‥‥」
「彼は生きてなきゃダメなの。いずれ解放戦線は彼に譲るつもりだったし‥こんな序盤で私のせいで死なせるわけには‥‥」
彼女は段々と弱々しい声になっていく。昔から責任感は強い女性だったが、それが足枷になってここまで重くなっている。
「説得は難しい?」
「今日の口論だって見たでしょ?私が抑えるのもそろそろ限界」
確かにあの口論を見ていると、そろそろ勝手をし出すように思えてくる。
同調するプレイヤーが増えた今なら集団で行く可能性は捨てきれない。
脳裏には先ほどまで話していたマリア達の顔が思い浮かぶ。
「この問題を今、解決するには誰かがリスクを背負って先に毒草を入手しないといけないの。本当は私が責任を持って1人で行うべき問題。それでも、お願い!シン、グレイ、力を貸して。私だけじゃない、北エリア全プレイヤーのために」
頭をテーブルに付けて頼み込むアイシャを前に俺たちの答えは決まっていた。
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