[短編(市場)]一度食べたら食べられない

 箱型の遺産を、崩しては積んで、崩しては積んで。

「売れるもの、ないかなぁ。さすがに……」

 寝床を見やれば、そこにまで裾を広げている転がりやすい遺産たち。この丸いやつ、先人たちはどうやって管理してたんだろうか? 箱に詰めていたとか? いやいや、こんな割れやすいもの、落とせば一瞬で粉々じゃないか。

 僕たちの先祖は、これを使って何をしていたんだろうなぁ。

 そんなことに耽っていても、部屋は一向に片付くはずがない。だから、こうしていそいそと積み上げているわけだが、寝床とは反対側にある、台所はそっちはそっちで散らかっている。大量に仕入れるんじゃなかったよ、こんなの。

 そっちの遺産も拾う。で、パズルみたく片付けていく。

 途中、見慣れないものを見つける。開けっ放しの台所の棚の中。ちょっといい匂いのする、粉の、塊? 透明な小袋に、小分けされている。

「なんだこれ」

 台所をまともに使うのはラクリだ。僕はフライも生肉も、その日に買ってくる。料理でもしたら、と度々言われるけど、手先こそ器用でも包丁なんて使えないし、だからって困ることでもないし。

 で、その夜。この袋がなんなのかを尋ねてみた。

「スープの味付けに使ってるんだけど」

 へー、と感心したけれど、だったら僕には無縁のものだ。

「これがねぇ、またおいしいのよ。この前買ってたのより、少しだけ高いけれど」

 香りを楽しんでるように見えるラクリ。

「そんなにおいしいの?」

 僕の前にも出されている、一杯のスープ。矢こなれた野菜がぷかぷかと浮いている。

「あんたの分もあるんだから、飲んでみなさいよ。おいしいから」

 そのおいしい、はよく分からない。人間の好んで食べるものは、どうにも舌に合わない。

 こう、舌にぴりぴりとくるのだ。うん。

 試しにそろそろと舌を伸ばしてみたものの、それは同じだった。

「もったいない」

 やっぱりだめだ、と首を振れば、肩をすくめるラクリ。おいしい? これが?


◆◆◆◆


 自分の中で比較的、食べることがあまり好きではないものについて、すごくおいしいものを一度食べると、なかなかされ以外を口にしたくなくなりますよね。

 私はつけ麺ですね。あるところで出されるつけ麺がめっちゃゃ好きで、他のところで食べれなくなりました。まぁ、何事も経験ですけれどね。酸いも甘いも。

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