[短編(七日)]いつしか見なくなったもの

 ふと思い立って、フランスパンを買った。ハーフサイズで、ついでにパセリとか、バターとかも。

「何作るんだい?」

 帰ってきた私の姿を見るなり、万芽の反応はそれだった。なんでもお見通しのくせに。なんでもいいでしょ、と私は台所に材料を広げてから調理に取りかかる。

 まずは食べやすい大きさにフランスパンを切っていく。

「お菓子かい?」

 万芽は台所に立つのはご法度だからか、リビングの椅子の背もたれにとまり、首をくるくるとまわす。

「それとも遅めのお昼かい? もう三時になるけどねぇ」

 ギィ、ギィと軋む椅子。覗き込もうと背伸びしているんだろう。

 バターをたっぷりと熱したフライパンにとかして、そこに塩とかガーリックパウダーとか。コンソメとかも入れちゃおうかな。

「換気扇回しな。怒られるよ」

 黙って紐を引く。ウウン、と重い音を上げて回り始める。

 バターに材料が溶けたことを確認したら、切ったパンを浸す。両面とも軽く焦げ目がついたら引き上げて、材料を足して次の一切れを。

「バターとパンに外れはないからねぇ。無難じゃないか」

 そんな水を差そうとせせら笑う彼女に、あげないからね、と釘を刺しながらパセリを散らして出来上がり。

 余ったバターはどうしようかと考えていると、

「食パンあったろ? それで同じもんつくっちまいな」

 お見通しの言葉に、分かってる、とごまかして冷蔵庫から最後の一枚を作った。

「おお、うまそうだねぇ。最後のくらいくれたっていいじゃないか」

 物欲しそうな視線と言葉。

 流石に当初の予定よりも重そうだったから、食べきれないだろう分を彼女に差し出した。

「そうだろそうだろ。うまいもんは一緒に食わなきゃ」

 焼鳥好きの万芽が、めずらしく勢いよく啄み始める。無表情ながら、声は上ずっていた。


◆◆◆◆


 ふとコパンというお菓子……? を思い出しましてね。多分フランスパンにバターと調味要素を絡めて焼けばできあがると思います。

 ラスクではなかったはず。パンの甘さだった。

 いつの間にか消えてるお菓子とかってありますよね。好きだったのになぁ、なんて考えていても、買わなければそこにはもうなくて、いつかのタイミングでまた思い出してしまいます。

 作ってみましょうかねぇ。お菓子の粉を消費するためにバターも買っておきたいですしね。

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