[短編(市場)]氷の魔法

 倉庫の重厚な扉が開くと、むっと籠った空気が流れ出る。しかし窓はないので、暑いというよりかは、ひんやりとしている。だが普段よりも、ぬるい。

 焼けた鱗をさすりながらギルが帰宅し、錠前を取り付ける。そして寝床へと歩を進めていると、うん、と首をかしげる。

 寝床近くの寝藁を見やると、シェーシャが眠っている。だがいつものように翼を折り畳んでではなく、ぐっと両腕を広げているのだ。加えて、腹這いになるよう脚はだらんと床につけて。よくよく見てみれば、その下には寝藁ではなく、布のようなものが敷いてある。彼女の身体に触れてしまわぬよう手を伸ばして摘まんでみると、それはひやりと彼の体温を奪った。

 こんなものを買った覚えはないが。

 小さく呟いて彼も寝転ぶと、すぐに眠ってしまう。今日の市場は珍しく、猛暑なのだ。


 しばらくして、ほぼ同時に目が覚めた二人は軽く言葉を交わし、ギルは台所へ、シェーシャは寝床から這い出、敷いていたものの端を咥えてずるずると引っ張った。

「シェーシャ、そいつはなんだ?」

 問いかけると、お土産だという。

「リエがくれたの。さっき来てさ、冷たいシートなんだってぇ」

 あいつか、と軽食を取り出しながら安堵していると、彼女は作業机の見える位置にそれを敷いて座る。

「どういう原理で冷たいんだ?」

 知らなーい、と予想通りの回答に、彼も作業机につく。

「魔法じゃ、ないみたいだよ? っていうか、魔法で氷は難しいし」

 鼻先でシートをつつくも、その冷たさは健在らしい。鼻を動かして冷気を吸い込みながら、尻尾が揺れる。

「まぁ、気に入ったんなら、あいつに伝えておこう。風邪ひくなよ」

 うん、と元気な返事を聞いて、食事を済ませ、彼は仕事を始める。邪魔にならないようシェーシャは丸くなり、ふよふよと尻尾を遊ばせ、いつもの時間が訪れる。

 数日後の夜は、冷え込んだことはまた別の話。


◆◆◆◆


 氷を作り出す魔法なんてない、と書こうとしたら、ジーダを捕縛するために一般モブが使っていましたね。氷である、と明記はしていなかったはずですが、ふと思い出して、氷魔法は難しい、という話になりました。


 しかし、水と氷ってどちらが先に存在したんでしょうね? やはり水でしょうか。

 水ができて、冷えて氷になったのか。氷ができて、溶けて水になったのか。どちらが先であれ構いませんが、それはそれで面白そうなテーマですね。

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