[創作論]見ず知らず、されども語らず

 おまえさんは一体全体、何者なんだい。

 ただの一般人です。

 ただの一般人が銃弾を受けて立ってるはずがないだろう! 魑魅魍魎の類いなんじゃないのかい!?

 ああ、そうでしたっけ。痛いのは慣れてますから。

 慣れてるって……特殊訓練か、何か受けてるのかい? いや、手首に一発もらって平然としてる時点でおかしいんだけどさ。

 ああ、生まれつき、肘から先の感覚が弱くてですね。これもピリピリとしている程度です。できれば、手当てを願えますか?

 まぁ、だろうね。最低限の礼に、手当てくらいはさせてもらうよ。けど、あたしは医者じゃぁない。そこだけは理解しとくれよ。

 ええ、分かりました。医者を呼んでいただいても、こちらはかまいませんけれど。

 そうだね。下手な処置よりかはそっちの方がよっぽど懸命さ。じゃあ、救急箱は置いていくから、適当に消毒しときな。救急車呼ぶからね。

 はい、ありがとうございます。


◆◆◆◆


 物語には背景というものが設定されているものですが、全く背景を語らないキャラって少数派ですが、いますよね。


 昨日、主人公が自身のことを全く語ることなく事件を解決していくというアニメを観ました。居合わせただけか、はたまた自ら赴いたのかは作者のみぞ知ることですが、ほんとに主人公が何者であるか、という内容は全く語られることはありません。

 ただ事件の手がかりを淡々と聞き出して、それを処理していく。しかし事件に巻き込まれた主人公以外の人物がまた、それぞれ濃い性格をしていて飽きることはありませんでした。


 そこで、ただひたすらに語らぬ主人公というのは、作る上では難しそうだな、と思った次第です。

 まず性格。ほんとに表面だけの性格だけになります。何に怒り、何に動揺し、嘆き、叫ぶのかの緩急が失われてしまいます。それと共に表情も失われてしまうため、それはそれで表しづらい。

 次にその人物が何者であるのか。生きていた記憶に記録、魅せられる技もなにもかもに裏がない。紙だけをはりつけたハリボテばかりで、積み上げられてきたはずの技の歴史というものがない。

 さらに語らない者は、多くを語らない。だから話を進めるのが難しい。もちろん一挙手一投足を描くのもありですが、そこに主人公の感情を表してはいけない。


 ないないずくしやな! そうとう難しい! 個性を考えないキャラ作りも動かすのも、どうすれば無になるのかが分からない!

 モブとはまた違った、無個性キャラ。これはこれでいい書き方の練習にはなり得るでしょうか……?

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