[短編(オリ)]定期メンテナンス

 四肢を弛緩させて、腹這いに気味にゴウゴウといびきをかいている被験者がいる。とはいっても、人権なんてものは彼らになく、それは当人たちとも合意の上だ。

 もう彼らは人間ではない。では何かと言えば、例えるなら、馬、トラックより、貨物車よりも頑丈かつ、大量の荷物を運搬できる何か。

 と、いうのは建前で、もちろん軍事目的だ。人間の形が色濃く残る者から、欠片もない者まで。未来に現れるだろう敵を残らずなぎ払い、国の繁栄を維持させるための。

 私はここに来て数週間の新人だが、気になることがある。

 定期メンテナンスの際、採血されようが身体の一部を採取されようが、皆一様に大人しいのだ。

 大の大人でさえ注射を嫌がるものなのに、あれらはそれを甘んじて受け入れている。麻酔だとか、肉体に埋め込まれたインカムを操作している様子はない。いざとなればそれを使って沈静化をする機能が付いているらしいのだが。

 ぐうぐうと眠っている今日の被験者の血管に針が射し込まれる。だがぴくりとしただけで、甘んじて受け入れている。神経が弱い部分があるのか。しかしそれだと戦闘に必要なデータを取れなくなるのではないか。

 その日の休憩時間、先輩と遭遇したので聞いてみた。

 いわく、メンテナンスのある日は、丸一日彼らの野外訓練は休みになるらしい。それ以外は訓練ばかりなので、むしろいい休憩時間だということだ。

 なるほど、私たちと同じか。健康診断そのものは嫌だが、仕事そのものは半日で済むから。いや、あの表情だと嫌がっているかも怪しいな。

 前足を投げ出して、研究員に見せびらかす被験者は、眠たい猫のようにじぃとして、いや、今寝た。


◆◆◆◆


 こう、生物兵器の体調管理とかどうしたらいいかなー、とか。戦いが基本の彼らに与えられる一日の休息は健康診断に費やされる。

 なら、その日をぐでっと過ごさなければ損なのです。


 そんな研究所の半日を書いてみましたが、これもこれで短編集として面白そうだなー。人をやめた彼らが、休息の日に何をしているのか。人間としての判断能力はあるのか、とか観察してみたい。

 こう、秘密裏の組織にある、異常だけどいつもの日常。もっと生物の分野を知る必要がありそうですねぇ。それを色々とこねくりまわしたい。

 そしてある日、戦闘で帰ってこなくなった被験者に思いを馳せたりとか。あぁー、楽しそうだー。

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