[短編(市場)・創作論]示さぬマコトを覆うもの

※「世界樹の市場・紅青編」のネタバレがあります。






 爪痕が残っているものの、日常が戻って、もうどれくらい経っただろう。

 彼女が帰ってきて、他愛ない話をしながらうちに帰った。

 翌日、代わりの似たような服を調達する。似ても似つかない、と少し喧嘩して。

「心配かけちゃった。ごめんなさい」

 二日後、アリアたちと顔を合わせて。

「王様、レミー、無事でよかった」

 王様とその側近に嘘をついて。

「あんたは相も変わらずね。テラーはどうしたの?」

 初対面のドラゴンに驚いて。

「こいつが勝手に渡してきたのよ。別にいいでしょ」

 にやにやしている友人への反応に少しだけ傷ついて。

 変化していく空のもと、また何でもない元の日々が戻り始めている。復興に躍起になる市場と、


 彼女が時々見せる陰を除いて。


 気のせいかな、と思ったけれど、特に一人でいるときに、決まって、ぼんやりとしている。だが何も言わない以上、いずれ彼女自身がけじめをつけるはずだと思っている。

 だがある雨の日、じわじわとぬかるんでくる床から避難しつつ、訊いてしまう。

 まだ何か悩んでるの?

 テーブルでカップをあおる彼女は、こちらを向くこともなく、

「……あんたに聞かれて、吹っ切れたのは、あくまで、どうしたらいいか分からなかった、不安だから」

 と空になったカップが軽い音を立てる。

「今悩んでるのは、また別の話」

 なんだよそれ、と詰め寄ってみる。

「私たちは何のために作られたのか……気にならない?」

 にやりともしない彼女は、多分、これからもこういうやつなんだろう。僕はとりあえず、どうでもいいよ、と答えた。

「そんなもの気にしても、君が遺産に興味を持ったり、僕が魔法に興味を持つことはないよ」

 そう、そんなの、どうでもいいことだ。少なくとも、この世界に生きている限りは。


◆◆◆◆


 そういえば、ラクリとリクラって逆から読んだらそういうことなんだよなぁ、と最近気づきました。しかし二人には何の関係もありません。

 んなこといったらエルディだってリエードをもじったらそんなかんじよ?


 物語には「謎」を用意し、解き明かしていくといいとされていますが、これを「謎」のまま残しておく、という手法があります。

 市場の場合は先述の内容ですね。開示してもよかったのですが、生憎機会を用意することができず……。

 しかし、この謎、用意しすぎたら回収も難しいことを考えると、どれだけ漠然としている内容なのか、という抽象さも必要かと思われます。


 例えばリンゴが4つあったのに5つも盗まれた、としたら、これは矛盾が明白ですね。数値で具体化されています。

 泣きそうな顔で叫んでいる、としたら、シチュエーションにもよりますが、結構具体的ですよね。失恋なのか、それとも別れを惜しんでいるのか、とか。

 具体性が増すと、読者は引っ掛かりをはっきりと言うことができるため、物語から覚めてしまうのでは、とふと考えました。

 逆に抽象的になるとターゲットが具現化されにくいため、覚める切欠を自覚しにくいのかなぁ、と。


 まぁ、謎は解決してすっきりしている方がいいんですけどね。あとぐされないですし。

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