[短編(市場)]SFな治療術
寝息の聞こえる静かな診療所内に、コンコンと軽い音が響いた。だが待合室のソファで横になり、眠ってしまっている主の目を覚まさせるには至らない。
コンコン、コンコン、コンコン。
諦めの悪い来客は、しつこく扉を叩く。しまいにはノブをガチャガチャと下げながら、一枚の扉を押し込んだり引いたりする。
開けろよ、と何者かが口を開いた。するとむくりと起き上がるビルドルはゆっくりとやかましい扉を見つめ、
「押してから、右へずらせ」
と気だるそうに呟いた。はぁ? と間抜けな声をあげる来訪者は言われた通りに扉を押してから右へと引くと、あっさりと来客を通してしまう。
現れたのは身なりの汚い、貧困区在住だろうと思われる少年だ。だがその目は光もないというのにギラギラと輝いており、ビルドルとは対照的だった。
「ガキか。こんな時間に何だ」
気だるそうに欠伸を一つ。
「助けてくれ! なんだって治せるんだろ!」
バタバタと素早く近づき、その手をとり引こうとする。
「また唐突だな。礼儀がなってねぇなぁ」
だが立ち上がろうともしない男は、必死に見える少年を見つめるだけだ。いいから早く、と非力な力は男の腕しか引っ張れない。
「昼間に連れてこればいいだろうに。なんでこんな夜更けに来たんだ」
どうせ診てくれないんだろ、と繰り返す。
「商人とかばっかり優先するくせに、よく言うぜ!」
確かにな。医者はようやく立ち上がる。
「俺はフェリのやつから石をもらえれば、それで十分。だが、あいつ曰く、従業員への賃金が必要だそうだ。俺はただ、やつらが通したやつしか、診てないからなぁ」
さっさと案内しろ、となおも眠そうな彼の言葉に、明らかに希望を見いだした顔を浮かべた少年は走り出す。
「追い付けねぇっての」
外に出た彼は扉を左に引いて、手前に引っ張った。ガタンと誰もいない空間に音が響いた。
◆◆◆◆
ビルドルおじちゃんは、ある日市場に流れ着いた奇跡の手の持ち主でした。自身が何者であるかは分かりませんが、その手を先代王に買われて市場にいます。
その後、奇跡の手とは、異常性のある魔法であり、それを扱う彼のことを人間ではなくドラゴンと定義したそうな…?
さて、ファンタジーにおけるヒーラーの心構えってどんなものでしょうか?
基本治すことを軸にあれやこれやするヒーラー。市場におけるヒーラーはチート能力持ちのビルドルですが、いかんせんやる気なんてものはありません。苦しむ患者を一人でも多く救いたいなんて思っていません。逆に、要請されたら治す程度の感覚です。
そうなると彼に診せることを決めるのは周りの人物なんですよね。つまり、ビルドルへの面会謝絶を行っている従業員が存在すると。
素晴らしいヒーラーがいるとしても、その手にかかることを許さない誰かがいる。そういった暗躍者を用意してみても色々なことができそうですね。
例えば、最上のヒーラーに軽度の症状ばかりあたらせて妨害するとか。あれ、漫画で見たことのあるワンシーンだな?
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