第118話 神への供物
ガアァァァァーー
咆吼と共に、龍人が斬りかかってきた。
凄まじい速度で振り下ろされた巨大な大剣を、アルマドラ・ナイトが"
そこを狙って、龍人が黒炎を吐く。
咄嗟に、
単純な力業だけでは無い。切り下ろした大剣が跳ね上がり、足下を
アルマドラ・ナイトは、変幻自在の龍人の攻撃を"
両者の戦闘が長引いているのは、黒鱗の龍人が
「ロッシ、MP回復!」
「マイマイ、ロッシを護る!」
ユアとユナが、ロシータとマイルズに指示をしながら、魔法の防護壁に魔力を注いでいる。"ケットシー"の少女2人はMP切れで座り込んでいた。
アルマドラ・ナイトと龍人が切り合うだけで、凄まじい衝撃波が襲い、熱が放射されて辺り一帯を灼き払っている。
時折、襲ってくる黒炎は、カーミュの
「ロッシ、薬は何本目?」
「MPは?」
双子がロシータ達に継続回復の魔法を付与しながら訊いた。
「2本よ。まだ蘇生5回やれるわ。"天女の恵み"も回復したわよ」
マイルズや"ケットシー"のメンバーに回復魔法をかけながらロシータが答えた。
"天女の恵み"というのは、ロシータのEX技で、効果範囲内にいるメンバー全員の状態異常を治療し、HPとMPを毎秒1000ポイントずつ3分間回復し続ける。今の状況下ではありがたいEX技だった。
「私達のEXも回復しました。使用します!」
"ケットシー"の2人が報告する。片方は
その時、
ダギイィィィーーーン・・
異様な金属音が鳴り響き、龍人が大きく姿勢を乱して仰け反った。
アルマドラ・ナイトが騎士楯で龍人の顔を殴りつけたらしい。すかさず間合いを詰めて斬りかかろうとするアルマドラ・ナイトを、龍人が大剣を横殴りにして牽制し、黒炎を噴射して距離を取っていた。
『うわぁ~、
そんな騒動の最中、のんびりとした声と共に、水玉柄のズボンをはいた神様が姿を現した。
「神様、ヘルプミー!」
「おそいよ、ゴッド!」
双子が必死に防御魔法を使いながら愚痴を言う。
『いやぁ、ここって特殊な場所でさ。見つけるのに苦労しちゃったよ。一応、イベント扱いにしちゃったんで、直接は手伝えないんだけどね?』
神様が頭を
「忙しくてご飯が食べられない!」
「発育に良くない!」
ユアとユナが
『ふむ・・ここを作った奴はどこかな?』
神様が誰かを捜すように視線を巡らせる。
「金ぴかなら消えた」
「消滅した」
『金ぴか? ええと・・カーミュ君、説明を頼めるかい?』
『今、忙しいのです』
白翼の美少年が
『魔神は居たかい?』
『ご主人が浄滅したです』
『おおっ、さすがだね! なんだ、もうクリア済みじゃないか。そういうことなら、ボクが手伝っても苦情は来ないね。あの龍君はただの乱入者だし』
そう言って神様が人差し指を立てて、くるくると回すと、カーミュが張り巡らせる
『カーミュ君もなかなかの腕前だけど、そもそも反対属性だもんね』
神様が勝ち誇った笑みを浮かべた。
『光は苦手なのです』
悔しそうにカーミュが呟く。
「さすが、ゴッド」
「神は偉大」
『うははは、それほどでも・・』
神様が両腰に手を当てて空中で胸を張った。
「カーミュちゃん、休む」
「休んだら、ボスの援護」
ユアとユナが白翼の美少年に声をかける。カーミュが2人を見て大きく頷いた。
「ロッシ、今の内にみんなを回復」
「マイマイ、食事をとって寝る」
双子の指示に、ロシータもマイルズも素直に頷いている。
テキパキと指示出しを済ませると、2人はおもむろに椅子とテーブルを取り出した。
「魅惑の牛丼」
「温卵のせ」
ユアとユナが、ポイポイ・ステッキから湯気の立つ丼を取り出して目尻を下げる。
『ほうう、美味しそうだねぇ』
神様が覗き込んだ。
「ゴッドも食べる?」
「予備はいっぱいある」
『ははは、人間のように食事はできるけど・・どうせなら、君達の秘蔵の一品を味見してみたいなぁ』
神様が双子を見て笑みを浮かべた。
「・・ポテチ?」
「・・ポップコーン?」
ユアとユナが小声で訊ねる。
『いや、違うでしょ? ほら、冷たくて白い物を茶色くて甘い物で包んだ・・』
「ぼた餅?」
「のど飴?」
双子が抵抗を試みる。
『神はチョコアイスを所望する!』
神様がズバッと言い放った。
途端、双子が顔を覆って泣き真似を始めた。
「横暴すぎる!」
「パワハラすぎる!」
『ほほう? 君達の秘蔵の品を世界に公表しちゃおうかなぁ~? とんでもない量の品を隠し持ってるよねぇ?』
神様が意地悪そうに2人を見た。近くでやり取りを聴いていたロシータが眼を大きく見開き、食い入るように双子を凝視している。
「ちっ・・」
「ちっ・・」
ユアとユナが舌打ちをしつつ、小さな小箱を取り出した。紅白の箱の表面に、ピノンという赤い文字が見える。
『よろしい、神へのお供え物として受け取ろうじゃないか。代わりに、あの龍に
神様が双子が差し出した冷気漂う小箱をどこかに収納して、激しく打ち合うアルマドラ・ナイトと黒鱗の龍人を見た。
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