第76話 まずは登録から!
迷宮
純白の防壁に囲まれた大都市である。
もう驚く事でも無いが、ここには青空があり、風が吹き、雨や雪が降る。もちろん、太陽も輝いている。
迷宮にあって、迷宮で無い場所・・。
20階から転移をして最初に出会った門番らしい
この町は、異邦人、アルヴィの他に、18階で見かけた迷宮産の動物顔の人間達、それに
転移した場所は、街の門から少し離れた小さな花が咲いている円形の花壇のような場所だった。石畳みの小道が、防壁に設けられた通用門のような
「ココデ、トウロクスル」
案内をしていた石製のゴレムが振り返って器用に発声した。見ると、水晶のような淡い輝きを放つ石碑が6つ並んでいた。
石碑の上に腰掛けていた
「ご苦労さん、4人かい?」
「ヨニン、ダケ」
「はいよ~」
「神様から説明があったと思うけど、レベル20になったら神様からファミリア・カードを与えられる。持ち主が出そうと思えば手元に出てくるし、消そうと思えば消える。不思議なカードなんだ」
「ここでファミリア・カードの登録をしないと、街のあらゆる施設から閉め出されちゃう。鍵が開いててもドアが開かない。窓が開いてても入れない。当然、あそこの扉も開かないよ」
防壁にある小さな扉を指さした。
「まさかのIDカード」
「ハイテク過ぎる」
例によって双子がぼそぼそと
「4人とも同じパーティかい?」
「そうだ」
別々のパーティの人間が来る事があるのだろうか?
「パーティ名は?」
「"ネームド"だ」
「"ネームド"・・ああ、あるわね。あんまり経験値を稼げてないみたいだけど・・良かったじゃん、ここまで来られて」
「・・そうだな」
シュンは頷いた。練度が上がり過ぎて、経験値を稼げていないのは確かだった。
「あれれ? リーダーのシュンは原住民? 珍しいねぇ~?」
「そうなのか?」
「だって・・あたしがここを任せられるようになって初めてよ? アルヴィになっていないってことは、迷宮人にもならなかったんでしょ?」
「まあな」
「すっごいねぇ・・そんな人が居るんだ」
「苦労したからな」
「だろうねぇ、まあ、頑張ってよ。せっかく生き残ったんだからさ」
「そのつもりだ」
シュンが頷いた。後ろで、
「・・頑張る?」
「・・これ以上?」
双子が額を寄せ合って
「じゃ、石碑にカードを当てて、ちょっとじっとしててね」
長方形の掌サイズのカードを囲むように石碑の表面に光る線が走り、小虫の羽音のような音が鳴り始める。すぐに、カードを押し当てているシュンやユア、ユナ、ユキシラの足下から光が灯り、石碑ごと円柱状の光に包まれた。
時間にして10秒くらいか。
「はい、お疲れさん! これで、登録完了したよ!」
「ふうん・・何か変わったか?」
シュンは双子に声をかけた。
「異常ナシ」
「問題ナシ」
ユアとユナが互いを目視で確認して報告する。
左手の甲を見たが、ステータスにも異常は見当たらない。
「ユキシラ?」
「変化は感じられません」
ユキシラ・サヤリが静かに答えた。
「そうか・・これでもう街を歩いて大丈夫なのか?」
シュンは
「まずは、ホームを確保しなきゃ! あんまり良い場所は残ってないんだけど・・ここの宿はほら・・なんていうの、
「・・
「・・古風でゴザルな?」
双子のヒソヒソ声が聞こえる。
「ホームというのは?」
「拠点よ。パーティメンバーの共同住宅って感じ? 部屋をいくつか借りたり、お金があるパーティは一軒家を買ったりしてるわ」
「なるほど・・」
"文明の恵み"とムジェリの天幕があるので、正直なところ家など必要無いのだが・・。
「ホームを契約するには、役場の不動産部に行ってね。色々な物件を斡旋してくれるわ」
「・・分かった」
部屋を借りる借りないはともかく、情報を集めるには役場という場所に行ってみた方が良さそうだ。
「ここ・・エスクードには、高レベルの探索者がいるんだろう?」
「もちろん! これで調べられるわよ?」
「検索できちゃう?」
「個人情報ダダ漏れ?」
双子が呟いた。
「名前とレベル、所属するパーティ名、最高到達階が表示されるわ。素材集めとか何かを依頼したい時、相手を選ぶのに便利なのよ。カード持ってる人じゃないと石碑が反応しないけどね」
そう言いながら、
「迷宮滞在中の探索者の最高レベルは68ね。到達階は74階」
「凄いな」
素直に感心する。レベルはともかく、到達階が74階というのは凄いと思う。
「迷宮から出ちゃってる人は検索できないから、この人が一番高レベルかどうかは分からないわよ?」
「・・なるほど。迷宮内だけを検索するのか」
「そういうこと。でも、そもそも上の階を目指す人が少ないから、74階というのは頑張ってる方じゃない?」
「そうなんだろうな」
オグノーズ・ホーンという老人は、700階以上あるような口ぶりだった。せめて半分、350階くらいは目指したいが・・。双子がそこまで付き合ってくれるかどうか。
(まあ、無理の無い範囲でそれなりに・・かな)
それよりも、今はガジェット・マイスターとの合流を急ぐべきだ。先ほどから黒々と大きな瞳が、両側からシュンを見つめている。
「・・街中では、命のやり取りは発生しないんだな?」
この街に転移した時点で、そうした情報が知識として
「互いに同意した上での決闘だって許されないわ。そういうのがやりたかったら、街の外へ行くしかないわね」
「そうか。世話になった」
シュンは
「・・ようこそ、エスクードへ」
腕組みをしたまま見送って、
(原住民に、異邦人に・・アルヴィ? なんなの、あのパーティ・・)
石碑に映し出された情報を何度も確かめたが、リーダーの原住民、異邦人の双子は犯罪歴がゼロだった。それが逆に怪しくもある。
(まあ・・いっか。あたしの仕事じゃ無いし)
・・新たな到着者か、転移での帰還組か。
ちらと少年達の表情を見て、
(さっき検索でヒットしたの・・この人達だ。74階の・・)
重たい足取りで通り過ぎる少年達を見送り、
(攻略組って言っても、まだ100階にも到達できていないし、ここが何階まであるのか知ったら折れちゃいそう・・なんだか救いが無いなぁ)
大きく伸びをしながら、
「なるほど・・」
不意に、少年の声が聞こえた。
「ふぇっ!?」
驚きすぎて石碑から転がり落ちながら、
そこに、さきほどの"ネームド"の面々が立っていた。
「へっ? ちょ・・なに? あんた達、街に行ったんじゃ?」
「カードの帰還転移が街中でも使えるのか試してみた」
そう言った少年の後ろで、
「今かぁ・・」
「今やるかぁ・・」
双子の少女達が頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
「ケイナ達の合流まで10分ほどある。試せることは試しておいた方が良いだろう?」
「・・イエッサー」
「・・ラジャー」
双子がしゃがんだまま小さく敬礼した。
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7月18日、誤記修正。
鍵が開いてて手も(誤)ー 鍵が開いてても
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