第11-1 魔法学のテスト
「……」
授業中、静馬は黒板に文字を書き込む教師を確認してから、ちらりと燐里に視線を向けた。
燐里は静馬の視線に反応することなく、シャーペンを動かしている。
『今日は7日で英語…。教師の
「今日は7日だな。7日は
教師は燐里の前にいる生徒を指した。指された生徒は素直に返事をしてから立ち上がって教科書の英文を読み始める。誰1人として疑問や不満一つ言うことはなく。
『やっぱり、燐里は見えていない。
休み時間中は俺や聖菜以外の生徒と雑談しているのを見ているから、授業中だけ、何の魔法を使っているようだ。
と言うより、魔族に人間世界の外国語や歴史をはじめとする勉強は必要なのか?』
気になったが、静馬は授業に集中した。
「はぁ…」
その燐里は、人間世界と変わらない教室にいた。窓外から見える光景が木々の生い茂った森の中で時折、巨大な鳥やドラゴンが通り過ぎるから、明らかに異世界か、異世界に似せて作った異空間のようだ。
燐里は、これまた人間世界と変わらない席につき、目の前にいる保護者 兼 教師である針田を見上げ不満を口にする。
「人間世界には魔法学がないんでしょ、楽で良いなぁ」
「なら体験授業してみるか?
ここの国は独自の言語を使うから外国語があり、もちろん人間世界にも歴史が存在して地理もある。国語は現代分と古文に分かれ。理科も物理と化学、数学も2種類ある」
「…遠慮しておきます。
それはそうと、針田先生。隣の席に不法侵入者がいるんですけど」
教室には黒板と教壇、それから燐里の席の隣にもう1セットあり、そこに白のブレザーを着たプラチナブロンドの少年が不満顔で座っている。
「転校生のリルディ・タバルサ・カカザだ」
「転校生? 魔族と光が一緒に勉強していいわけ?」
「許可はとってある。と言うより、お前ら…」
可愛いハリネズミの眉間にしわが寄り、魔族も光も関係なく負のオーラを感じとり、2人は びくん と体を振るわせた。
「まずはリルディ。お前、ミドルネームないくせに『タバルサ』を名乗っただろう。属性ルール違反だからな」
「卒業したら、タバルサ様の元に行く予定だから、問題はないはずだ」
「卒業できるのか?」
「もちろん」
「ほう。学校サボっているのにか」
「学校は休学届だした」
「魔王族の欠片回収の妨害するなんて、通用するわけないだろうが。
理事長である祖父の力で『体調不良のための休学』になってたぞ」
「何、休学届なんてあるの?それって魔族にもある?」
「燐里、驚くのは、そこじゃないだろ…」
「欠片回収の妨害したら、学校に戻って、ものすごい勢いで勉強して卒業するから大丈夫だ」
「その話し方からして、無理そうな気がする」
「うるさいよ、隣」
「カカザ家に行ったら、リルディの祖父に懇願された。『せめて世間一般レベルにしてくれ』と。
それぐらい、危機的な状況にあるからな」
「それは…」
「やーい」
「燐里、お前もだ。
前回の成績を見せたら、お前の上司、泣いてたぞ。
もちろん、その後は長い長いお小言つきでな」
「…」
2人を沈黙させた針田は、教壇をばんと叩いた。
「と言うわけで、どうしようもないレベルのお前たちを徹底的にたたき込む」
「はいはいはい、針田先生。魔族と光だと学ぶ学科がかなり違うんですけど」
「俺が受け持つ間、属性関係なしの教科になる。国語、数学、理科、社会は光魔共通の歴史。
そして魔法学」
1時間目 魔法学
「リルディ、光属性の魔法と魔族魔法の違いは?」
「え? そりゃ、聖なる光魔法の方が全て強力過ぎるんじゃないかな」
「んなわけないでしょ。魔族も光も残念ながら同レベルよ」
「じゃあ、燐里、模範解答」
「はぁい。
光属性者は魔族同様、4属性や召喚、補助、回復魔法の他に、光を生み出す魔法を持っています。
効果や形状、レベルには個体差があります」
「その通り」
『へへん』と得意顔をする燐里に針田は『俺の授業を受けているからな』と思ってから、過去問題を出した。
「じゃあ燐里、この前の戦闘(第6話 ミックスと純血と風紀委員)でマドゥィナ嬢が『変身』ではなく『幻視』を使っていた理由は?」
「えーっと『変身』は魔力を含めて完全になりきるのに対し『幻視』は姿を表面だけ幻覚にするから、魔法(ブレス)がいつでも使える」
「その後、俺が指示した『ストップ』をレベル2にした理由は?」
「レベル5じゃ、針田のカード決済でも限度額を超えるから」
「違う。レベル5はかけた本人以外、魔法効果範囲になるからだ。
魔法かけたのは燐里だから、もしマドゥィナがストップの魔法効果を消すマジックアイテムを持っていたら、燐里とマドゥィナだけが動ける状態になる」
「はいはいはい。そうなると太刀打ちできませんでしたよ、どうせ」
「別に強いければ良いものじゃない。弱い魔法でも最大の効果にし、相手の魔法予測を読んで封じる手を考える。戦略だ」
針田の言葉にリルディはにんまりと笑い、手を上げた。
「はーい、先生。レベル5の魔法が2つもある僕なら、戦略なんていらない」
「え?何、リルディのくせにレベル5を2つも持ってるの?」
「リルディのくせにとは何だ。
ふふん、その言葉からして対した魔法はないようだな」
「ふん、おつむの弱いリルディなんてレベル5の魔法がなくても楽勝よ」
「そっちこそ、おつむじゃなくてオムツだろ。それに何でオムツが出てくるんだよ」
「おつむ は頭の事だよ、リルディ、いやリルちゃん」
燐里は自分の頭を『てんてん』と軽くたたき にやっと笑った。リルディが立ち上がり直線的反撃に出るのを予測した教師針田は、音が出るように手を叩いて、動きを止める。
「はいはいはい。血の気の多い、お前らには実技の方が良さそうだな。
ちょうど良い。今度の期末試験はお前たちの対戦にしよう。
負けた方は赤点扱いな」
喧嘩一歩前までだった2人が、仲良く抗議したのは言うまでもない。
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