第3-1話欠片の主
「むかーしむかし。
まだ、光と闇が冷戦状態になる前の事」
「ごめん。最初からつっこみ所多すぎる。
まず、光と闇っていうのはゲームやファンタジー世界でよくある、あの『光と闇の戦い』で良いんだな?」
「え? ゲーム世界って、何言っているのよ」
「燐里、ここは人間世界だ。魔界の常識なんて通用しない」
ペットボトル(500ml)のウーロン茶を飲んでいた針田は、燐里にツッコミを入れてから、静馬に簡単に説明した。
「まぁ、お前さんが想像する『ゲーム世界』通りだろう。光と闇が戦って闇は負けた」
「負けてない。そもそも光側がズル過ぎるのよ」
「話を進める。
負けた闇の王、魔王だな。権力がガタ落ちしたから、謀反を働ければ、自分が新しい魔王になれると考える者が現れた。それが魔王の息子ガデバウム様だ」
「燐里たちが口にしてた名前だよな。魔王の子供だったのか」
「そう。野心を司る4番目の子供、ガデバウム様。だけど他の子供たちにより阻止され、ガデバウム様の体はバラバラに切り刻まれてしまった」
静馬は、話を聞きながら食べようとしたから揚げを衝撃の言葉で落としそうになったが、床に触れる直前でキャッチし、弁当の蓋に置いてから燐里に聞いた。
「バラバラに刻まれたって、それじゃ生きていないって事か?」
「そこは魔王族の凄い所で、刻まれても、生きているのよ」
「極刑に値する行為だが、消滅したら、闇世界が可笑しな事になってしまう」
「…。それって、太陽を司る者が怒って洞窟に入ったから、世界から光が消えて夜だけになったみたいな?」
「良く分からんが、そうだな。魔王やその子供たちが1人でも消滅すると闇の均衡は崩れてしまう。ガデバウム様も闇の均衡を崩さない為にギリギリな状態で生かされている。
だが、野心を司る御方ゆえ、また謀反を働いたら困るので、バラバラにしたガデバウム様の欠片が全部集まることのないように、様々な世界にばらまいた。魔界、冥界、光側の世界、妖精の世界。なぜだか知らないが人間世界にも」
針田の話に静馬は、ご飯を飲み込んでから、自分の右肩を見た。変な棒がない限り、黒く光る事はない。
「人間世界は、光側も闇側もあまり干渉してはいけないルールがある。
ガデバウム様の欠片も人間世界には落とさないようにしていたのだが…なぜだか落ちてしまった。それも大きめの欠片がな」
「……」
静馬はいつもと変わらない右肩を触った。
「やっぱり入っているんだな…別段、痛みも違和感もないし、風呂に入っても欠片みたいなものは見えない。体育でボールを投げても、人間離れした飛距離がでるわけでもないのに」
「しかも、中に入り込んでしまった。それが1番の問題だ」
「え?」
「私もガデバウム様の重要な欠片を拾って、そうとは知らずアクセサリーにして身につけていたけれども、そんな事はなかったよ」
燐里はツナサンドを持っていない左手の親指と人差し指で輪を作って見せた。
「中に入った事により、回収が容易ではなくなった。
お前さんの右肩をもげば、簡単だが…」
静馬は飲んでいるお茶を吹き出した。
「さっき言ったNO干渉ルールと、ガデバウム様がこれ以上、下手な動きができないから安心しろ」
「え、そっち」
「良い回収方法がないか、探してくれているから、それまでは静馬の警護する事になったよ。
と言うわけで静馬、よろしくね」
「え、今頃…」
反論しようとしたが、にぱっと笑う燐里の笑顔に、静馬は開いた口にから揚げを放り込んだ。
飲み込んで昼食を終了してから、疑問を口にする。
「バラバラにしたのに回収していいの?復活したらいけないんだろ」
「静馬の場合は、人間世界という『ありえない場所』に、体内に入るという『ありえない状態』になっているから緊急的に対処しなければならないのよ」
「そうなんだ」
「それと最近になって、バラバラにし過ぎたんじゃないかって魔王族側で問題になっている。
ガデバウム様が復活できない程度に回収する事となった。たった1人部下、燐里がな。もちろん、監視下の元で」
「欠片で悪用されるようになったからね。ネットで転売するのは可愛い方よ」
「全て集めれば、魔王族レベルの魔力が持てるからな」
会話に加わった低い声は頭上からだった。
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