8-29話 臆病者は誰?

 ──突然知ることとなった毅の悲劇的な過去の本当の真実、家族ぐるみな展開とは予想外だ。


 RARUの新技であるキャパシティ・ロストの怪しい光によって、半径20mにいた人間は能力封印という俺達にとっては完全不利な状況。親玉のジャイスも『STYLE-B』を使えなくなったとはいえ、RARUだけフルパワーで戦えるだけでも全然違う。

 せっかく、愛弥隊長のグレイシャル・ブイによる氷の剣技で任務完了になるかと思ったら、一気に任務失敗になりかねなくなったな。


「ん……この爆音、まさか」

「ふっ、いい場面に来てくれたようだ」


 ジャイスは不敵な笑いをとりながら俺達とは反対方向に向いて、道路側に左手で人差し指を向けた。あの圧倒的な爆音は1度聞いたら絶対忘れはしない、レイラの車だ。


「見に覚えがあるのか令とやら」

「ああ、ジャイスと同格の仲間がここに来る」


 俺達も道路側へと体を向けると、そこには運転席のレイラと部下の工作員達が乗った車が、猛スピードで金田さざなみ公園へと向かってくる。相変わらず、レイラは人を平気で跳ねてもいいような粗暴な運転をするな。


「ならば、その者もここで捕らえましょう」


 愛弥隊長は自信過剰ままに、レイラまで拘束しようと勇敢な態度をとる。ただ、レイラの大地を操る女離れした力押しのスタイルは、氷の剣が封じられた愛弥隊長でも厳しい戦いになるはずだ。


「撤退するぞラルよ、あとはレイラの部下達に任せるぞ」

「わかりました代表……桜井を殺しそこねたりと納得できてない部分はあるけど、あいつらが能力を封印してる間に我々は逃げるのも悪くはないね。言っておくけど、私が遠くへ行ってもまだあんた達の持つ能力は封印状態よ」


 RARUとジャイスはレイラの車に乗って逃げる気かよ、せっかくジャイスの正体まで暴いてやったのに逃げられたら水の泡だ。

 で、代わりに出てくるのはレイラの部下達か。かつて大和田さんの家で対峙したときは大した強さではなかったが、RARUの言葉通りに俺達の能力が封印されてることを考えると少しは強敵になるかもな。


「さてと下級国民共、ボクさまをけなした罰としてこれでもくらいな!」


 ジャイスはズボンのポケットに隠し持っていたガス入り手榴弾を俺達に投げつけ、RARUとジャイス金田さざなみ公園から退却しようとする。別にジャイスをけなしてなんかしてねーし、俺達は虹髑髏が許さないだけで変な思い込みをするな。


「とても臭いですわこのガス、グレイシャル・ブイがあれば簡単に振り払えますのに」


 くそっ、俺達の能力は封印中のままで変な臭いのするガスを払うことができないし、なにより愛弥隊長の姿を見ることができない。このまま、レイラ含めた虹髑髏屈指の要注意人物3人に逃げられるのか。


「てめぇら、犯罪組織の幹部の癖に最後の最後まで逃げるのか! ガリ勉ハゲ野郎は臆病者でもあるのか!?」


 毅は見えない視界の中でジャイスを探し続け、煽り文句を言っている。ガスのせいで毅の顔は拝めないが、相当イラついてるだろうな。


「臆病者……それはのことじゃないのか? たしか、母親の持つ『力』も奪われたんだっけ?」

「な? てめぇの曾祖父が俺の母親をだと!?」


 ジャイスの奴、逃げようとするなかでとんでもないこと毅に言いやがった。木更津に移動中してるときに話していた毅の母親を殺した犯人が、ジャイスの親族だったとはな。


「まあ、ボクさまのひいお爺ちゃんは最後の殺人をしたあとにすぐ老死して。怨むならひ孫のボクさまを怨んで大歓迎だよー!」

「ち・な・み・に、その『力』は虹髑髏が大事に保管してるらしいから安心してね」


 しかも、ジャイスの曾祖父は毅の母親を殺したあと、警察に捕まることなく老死しておそらく地獄へ行ったのか。これでは、世界的組織のAYBSでさえも犯人の手がかりが掴めないのもわかる。

 毅の母親が持っていた『力』は虹髑髏が持っていても、その所有者が亡くなっているから意味がなくなっている。強い『力』をコレクションするのが1つの目的なのか虹髑髏は?


「てんめぇぇぇえ! 安心とか糞みたいなこと言うんじゃねぇ、家族の命を奪っておいて家族丸ごと許さねぇぞジャイス!」


 毅の唯一の肉親である母親を奪った犯人を知ったこともあり、声だけではあるものの時が経つ度に増加していた毅の怒りが最高潮に達する。

 でも今は撒かれたガスの中だし、むやみに動いては駄目だ。勢い余りに、俺達を誤って攻撃したらどうするんだよ?


「毅さん落ち着きなさい、今の貴方は無力な存在です。」

「落ち着いてられっかよ! いくら隊長のお前の口からでもだ!」

「毅さん……」


 愛弥隊長の言葉を、毅は聞く耳を持たずにジャイスを必死に探す毅。親族を越えた仇討ちをしたいのはわかるが、俺も愛弥隊長と同じ考えで落ち着いた方がいいぞ。


「小金毅はとんだおばかさんのようね。帰る前に私のこの技を受けさせてあげるわ、サイレント・ショック!」

「な、がはっ!」


 RARUは毅のことを見えてるようで、かつて俺と菜瑠美に対して撃ってきた見えない衝撃波を毅に目掛けて命中させる。混乱状態同然の中でくらったら、毅の精神が余計崩壊してしまう。


「乗ったようねジャイスとRARU、退くぞ」

「その声はレイラ?」


 かなり近くにレイラの車がいるみたいだが、言葉を聞く限りここでは戦わず、RARUとジャイスを連れて逃げるつもりだな。

 レイラ達の逃走を回避したいのに、ガスで視界は見えない。どうしたもんだ、能力が使えないだけでも悔しすぎる。


「ざまあないね影地令、ジャイスとRARUだけは組織に必要不可欠な存在なんでね。かわいそうだから、今度は私のかわいい部下達が相手になるよ」

「わかりましたレイラ様、ジャイス様。あとは優秀な我々にお任せください!」


 どうやら、RARUやジャイスと入れ替わった形で自称優秀の工作員達がレイラの車から降りたようだ。『光の力』を失っても、あいにく今の俺は


「はははは、また会おう下級国民共」

「じゃあねー、腰抜け諸君」

「ううう……ジャイスの奴……お前だけでも絶対許してたまるか……ぐっ」


 俺にはなんとなく感じる、毅は母親のことを思って地べたに倒れたことを。母親を殺した犯人曾祖父ひ孫ジャイスをひたすら憎みたい気持ちはわかるが、休むことも大切だ。


「毅、今は見えてないけどこのままじっとしてな。増援は俺達がどうかする!」

「その通りだ令とやら、毅とやらの分もやるぞ」

「そうですね、わたくしと令さんと加藤さんで増援達をどうにかしましょう」


 いつも悔しいが、虹髑髏の誰かに逃げられることが恒例となってしまったな。まだ加藤を狙う虹髑髏が残っているし、俺としても任務は最後までやり遂げますかね。

 俺は器械体操とパルクールで培った身体能力で、『光の力』がなくても戦えることを愛弥隊長達にも証明してやるか。──

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