8-18話 刀梟隊隊長あらわる ※桜井視点

 ──刀梟隊の隊長ご登場と思ったら、だったことに驚いた。


 自らの申告で将来の夢を奪った憎き志野田RARUとタイマン勝負を決行し、新体操選手時代に愛用したリボンを怒りのエネルギーに変えて『わだつみ』としての初陣に挑む。

 ただ、自慢の秘技を使われる前に奴の必殺技であるサイレント・ショックを受けてしまい、一撃で俺は力尽きてしまう。悔しいけど、ことが明確となった。


「今日が命日であると覚悟もしたが、本当なら敵対する相手に救われた。まだ顔は見たことないけど、俺からしたらこれは貸しだな」


 今度こそ志野田に命を奪われる瞬間、志野田の上司が急いで合流しろとの連絡が入り、悔しさを見せながらとどめを刺すのをやめる。本人は不満そうな態度をしてこの場から立ち去るが、俺としては九死に一生を得た。


「たしかに生きてること自体全然違うが、そんな気分じゃねぇ。俺は奴と互角くらいの『力』がないと駄目なんだ!」


 改めて俺はまだまだ『わだつみ』としては半人前であることがわかった証だし、刀梟隊からも満足な評価も得られない。次すれ違ったときこそは秘技を発動させて、志野田をしばいてやる!


「それよりも、今は隠れて休む方が先だ……」


 志野田がこの場から去って数分が経ち、俺は木更津の地べたでずっと倒れていた。影地や柳先生達と再合流する前に、誰もいない安全な場所に隠れて心を落ち着かせるか。

 でも参ったな……志野田から受けた痛みだけでなく、疲労や眠気も襲ってきた。満足に体もいいように動いてくれないし、このまま1人取り残されたまま木更津で野宿するのかな……。



◇◆◇



「ん……ここは?」

 

 どうやら、俺は少し寝ていたようだがここは何処だ? さっきまで志野田と戦った場所でもなさそうだし、肝心の俺はベンチの上で寝込んでいた。

 つまり、誰かが俺をここまで運んでここまで来たということだよな? いったい誰がこんなことを……。


「そこに警察とかいたりしないよな……」


 最近の千葉県は物騒だからな、先月も牛島が連続殺人を行ったわけだし。ここで俺を補導するのだけは勘弁してくれ、志野田など俺より悪い奴は木更津に今ごろごろいるわけなんだから。

 

「やっと起きたか桜井ミナミちゃん?」

「ちょっ! 川間の兄ちゃん!?」


 目を開けて少ししたら、川間の兄ちゃんが突然俺の目の前に現れた。いきなり出てきたせいで驚いたじゃないか、今ので心拍数が上がって寿命が若干縮むほどだ。

 川間の兄ちゃんだけでない、大和田先輩や幸谷のじっちゃんも一緒だ。この3人が影地や毅と別行動していたのも、運に恵まれたな。


「和俊に感謝しなさいよ桜井くん。今から毅や令くんと合流するために金田さざなみ公園まで向かっている間に、梨理亜君と一緒にいるはずの君を見つけたんだよ」


 幸谷のじっちゃんの話によると、たしかに俺は休む前にうつ伏せになって倒れていた。それを大和田先輩達が見つけ、川間の兄ちゃんが俺を担いでここまで運んだとのことだ。

 影地や毅と合流のついでの道中で俺を救助しただけでも俺は助かったぜ、あやゆく、1人だけ木更津に取り残されるところだったしな。


「皆さんすいません……能力者でもない俺が、虹髑髏の有能工作員相手にタイマン負けしました。柳先生達も認めたことですが、俺はあいつがとことん許せなくて!」

「いいんだよ、君はまだまだ強くなることは確実だ。『わだつみ』のメンバーだろ?」

「ミナミちゃんは根性あるし、異能を持ってなくても努力さえすればいずれ虹髑髏と互角以上は戦えるだろう」


 いくら大和田先輩や川間の兄ちゃんが俺の才能を認めても、負けであることは事実だ。志野田を越えるには、任務後にもすぐさま血の滲む特訓をしなければいけない。

 その前に、まだ任務は終わってなかったな。もしかしたら、ここで影地や毅が志野田を捕まえるってこともあるけど、志野田だけはにしたいな。


「では桜井くんも起きたことだし、わしらも金田さざなみ公園へと行きましょうか」


 まだまだ俺は万全な状態ではないけど、満足に休んでる暇なんてない。俺達4人も金田さざなみ公園へ向かうことにする。

 俺や幸谷のじっちゃんは戦えなくても、まだこっちには大和田先輩と川間の兄ちゃんがいる。能力者としてはまだわからないが、この2人ならきっと虹髑髏達を捕まえてくれるはずだ。


「貴方達……お待ちなさい!」

「え? 誰だ?」


 金田さざなみ公園に向けて出発しようとするなか、1人の若い女性の声が俺達に話かけてきた。おいおい、まさか虹髑髏の増援か……? 俺はまだ満足に体力は回復してないし、援護はできないぞ。


「お、女の子……?」


 後ろを向いたそこには、金髪セミロングのまだ10代後半の女性だった。にしても服装は大人びており、見た目も天須に近いような無垢な美少女系だ。

 服装の上半身は灰色のネクタイ付きのスーツ姿で白い手袋も装着している、下半身は同じく灰色のタイトミニスカートに黒色のハイヒールを履いている。女性が珍しくスーツにネクタイをしているし、ごく普通のOLだとしたらなんかおかしいな?

 1番の注目するべき場所は、右目が碧眼で左目が赤眼……いわゆるオッドアイだ。生でオッドアイの人間を見たのは人生で初めてだ。


「お久しぶりですね……川間和俊、幸谷半蔵」


 女性は川間の兄ちゃんと幸谷のじっちゃんに対して呼び捨てで呼んだ上にお久しぶり……過去に因縁のある相手なのか? 

 しかも、女性は手から氷輝く水色の剣のようなものを出してきやがった。どう見たって危険人物だしであることを確信した。


「やれやれですな。久々に会ったというのに、いきなり自慢の武器である氷の刀で俺に攻撃ですか?」

「ええ、貴方の動きがまだ鈍ってないかの確認です」


 女性は水色の剣で川間の兄ちゃんに刀を振り回して襲いかかるが、一瞬で武器を降ろして攻撃をやめた。ただ一回りしただけなのに、とてつもない剣技の持ち主であることに違いない。

 このやり取りからして敵ではなく味方……でいいのかな? 女性もまた刀梟隊の一員であり、加えて梨理亜の姉ちゃんが言っていた虹髑髏に派遣してたスパイなのか?

 

「ちょっと待って、あんたは誰だよ!?」

「安心しなさい桜井くん。敵対するような目で見てますが、このお方はわしらにとって大切な人物ですぞ」

「味方?」


 俺はまだ信用しない感じで女性を疑う目をしながら話しかけるが、幸谷のじっちゃんが言うからには味方であることは間違いなさそうだ。なんなら、仲間だったら初めからそう言ってほしかったな。 

 それに、あの大和田先輩が女性の動きを見て感心して見てたからな。おそらく、大和田さんは川間の兄ちゃんや幸谷のじっちゃんによって女性の正体を知ってそうだ。


「さてと、新進気鋭の異能力集団『わだつみ』のメンバーに挨拶したらどうですかな。二木ふたつき愛弥あいび

「え!? た、隊長?」


 川間の兄ちゃんの紹介によって女性が刀梟隊の隊長であることを告げ、愛弥隊長は川間の兄ちゃんと幸谷のじっちゃんに改めて敬礼をした。

 おいおい嘘だろ!? たしかにさ、服装はスーツ姿だし見た目だけならすごくお堅く見えるよ。10代後半……最悪俺とタメに見えるような女性が刀梟隊の隊長を勤めてるのかよ!

 これは驚きしかないな、隊長だけあって綺麗な見た目に反して所持してる自慢の水色の剣で敵共を凍り漬けにしそうだな──



──────────


 ついに、菜瑠美ちゃんと並ぶ新ヒロイン・二木愛弥ちゃんの登場です。刀梟隊の隊長だけあって、今後とも活躍します。

 次回も桜井視点です。


・イラストのお知らせです

 朝山なの様より二木愛弥のイラストです。元の衣装が婦警さんっぽさもあり婦警さんバージョンもございます。毎回朝山様には感謝しきれません!


https://twitter.com/usudaisranove/status/1265284470753488896


朝山様のカクヨム作品はこちら

https://kakuyomu.jp/users/asayama_nano_90


代表作・ぺんぎん×エンカウント

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886698194

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