4-15話(四章最終話) まさかの襲来者

 ──菜瑠美が俺の家にいる時に、がやって来るなんて。


 芳江さんの命名により、俺達だけの能力者チームは『わだつみ』に決定した。名前が決まったのだから、俺は何よりも実力者にならないといけない。

 チームといっても、柳先生達とは学校では普段通りのやり取りをするんだけどね。学校に通いながら、放課後に大和田さんの寺や今日行った一族の本拠地で特訓するだろう。


「次に君達と会えるのは10連休が終わった後の学校、つまり5月7日だな」

「影地くん、7日に私や耕ちゃんのと会った時に担任の場合と『わだつみ』の場合での立場上を考えときなさいよ。今日全力で手合わせしたのだから」


 そんなこと猿でもわかるし、俺に変な宿題を出すなよ。校内で突然に今日の仕返しで殴ったりしたら、そこで『わだつみ』の強制退会だけでなく高校を退学になってしまう。

 なんだかんだいいながら、俺は海神中央高校が大好きだ。恋人はもちろん、気遣ってくれるクラスメイトだっている。学校の校則は絶対に破ってはいけないのは承知済みだ。


「ではでは令くんと菜瑠美ちゃん、うちらはここで失礼致しますわ。いずれまたうちの寺に来てくださいな」

「今日はありがとうございました……3人共」

「残りの10連休中の間、俺は見間違えるくらい強くなって見せますよ」

「あと影地くん、この後天須さんに悪いことしないでよね。天須さんは今日自ら降参したのだから、すごく疲れが出てるはずよ」

「俺がそんなことするわけないでしょ!」


 柳先生にまた変な目で見られてしまったが、菜瑠美の疲労が出ているのは紛れもなく事実だ。

 そう言いながら柳先生と大和田さん、そして芳江さんが船橋港親水公園を後にした。


「さてと、俺は家に帰るつもりだが菜瑠美はどうする? 柳先生が言ってた通り手合わせの疲労がまだ残っているだろうし、今日は俺の家にでも来るか?」

「つかさ……いいのですか?」

「まあな、俺は菜瑠美の彼氏だぞ」


 今ここで菜瑠美の体調を管理できるのは俺しかいないし、菜瑠美もまた俺を見て惚れているな。俺は今日、菜瑠美を家に泊めさせることを決意した。


「では……つかさの家までタクシーで行きましょう」


 そこまで長くない距離でありながら、今回もまた菜瑠美がタクシー代を払ってくれるのも非常にありがたい。

 徒歩で歩くと菜瑠美の疲労がより溜まってしまうし、学校の生徒やアナーロのようなド変態に見つかってしまう可能性もたるからな。


◇◆◇



「今日もまた、君と2人で一緒に過ごすなんて」

「私はつかさといること次第が満足です……」


 2日半振りに我が家についた俺は、菜瑠美が今日ここに来ることを予想していなかったため、まずは片付けをするべきだな。


「つかさ……私は先にシャワーをさせてください。今日の手合わせで汚れが出てしまいましたので」

「そうだな、何せ菜瑠美の自慢な美肌が汚れてるしな」


 菜瑠美がシャワーをしたいといい始めたか、剃りゃ綺麗な状態で家にいてもらった方がすごくありがたい。

 ただ菜瑠美は、戦闘服以外の服は持ってきてなさそうだな……今回も俺の服を貸すか。しかしこの前、俺の家に泊まった時は貸した服を脱いで下着一丁のまま寝過ごしたからな。


「つかさ……シャワーを浴びる前に1つよろしいですか?」

「また刺激的なこと言うんじゃないよな?」


 これはまた変なこと言い出すぞ。まさか、俺と一緒に入りたいと言い出すんじゃないだろうな。


「今、つかさの家には私とあなたしかいません……なので浴びた後は、

「ぶぶっ!?」


 あのスケベ下着で俺の家で過ごすとか正気かよ!? こんなん言い出したら鼻血出そうになったわ。

 今は恋人同士だから百歩譲って許すよ、もしこれがまだ同級生兼『わだつみ』のチームメイトだけのままだったら今度こそここからつまみだしてたわ。


「わ、わかった……いいから入ってこい」

「では、丁寧に使わせてもらいます」


 菜瑠美が風呂場へと向かい、シャワーしようとする。恋人の前で下着で過ごす高校生がどこにいるかよ。


「あとつかさにもう1つお願いがあります。私がさっきまで着ていたレオタードとニーソックス、洗濯機に入れておいてください」

「お、おう……わかった」


 俺が菜瑠美の戦闘服を、明日菜瑠美が帰る時までに洗濯するのか。といっても、昨日は菜瑠美の家で俺の着てた服を洗濯してたし、これはお互い様になるな。


「さてと、俺は菜瑠美からの頼まれごとを……え? こんな時に誰だ?」


 菜瑠美がシャワーから入った後、俺が菜瑠美の戦闘服を洗濯しようとする中で家のチャイムが鳴った。

 今回はカズキではなさそうだし、一体誰が……? この家には菜瑠美が今いるわけだし、玄関に行って覗くだけするか。


「おい令、1! 部屋に灯りがついているのだから、家にいることはわかってる」

「その声は親父!? 嘘だろ……今日帰ってくるなんて聞いてないぞ」


 玄関の前にいる声の主は、仕事の関係で出張続きの親父だった。おいおい待てよ親父、帰って来るんだったら普通は『今日は家に帰ってくる』くらいは連絡を入れるだろ。

 それと今は菜瑠美もいるんだぞ? しかも、菜瑠美は今シャワーを浴びているんだ。突然にシャワーから出るわけにもいかないし。


「わははは、都合よく今日の昼と明日が1日中休みになって家に戻ってきたんだ。久々に令の顔も見たくなったし、今から俺の鍵でここを開けるぞ」


 俺からしたら全く笑える立場ではないし。こんな状態で親父は家に入るとか、タイミングが悪すぎるにも程がある。

 玄関には女性用のロングブーツが置いたままだから、この家に女性がいるのがわかってしまう。まずはロングブーツだけどこかへしまおう。

 菜瑠美と恋人になってから丸2日目、俺は親父に恋人ができたという報告もしてない状態で、今から菜瑠美に合わせるのかよ。


「令和はいろんな意味で、ピンチの連続になってしまったな」


 運悪く菜瑠美が下着一丁……最悪全裸のままで親父に会わせたら、確実に菜瑠美ごと殴り飛ばされる。すぐに入りたがっているから、これはどうにもならない。

 こんな時に『光の力』で親父をどうにかする……そんなことできるわけない。相手はあくまでも親父だし、15年間俺を男手一筋で育ててきたんだ。

 まだ俺が光の能力者であることを『わだつみ』以外の人には知られたくない。強行突破は諦めよう。


「ただいま、令!」

「ちょっと待ってくれよ親父!」


 親父が家の鍵を開け、中に入って行く。どうしたら俺は親父・影地かげちただし2をごまかせばいいんだ?──



 第四章・わだつみ 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る