4-8話 美魔女現る?
──ティッシュを大事に保管して、何の意味あるんだ?
昨晩、俺は悪夢を見ていた菜瑠美に起こされ、お詫びで左頬にキスをされた。しかも、キスマークのおまけ付きだ。
寝る前に菜瑠美が『いい夢を見たでしょ』と言われたが、熟睡後は夢を見ることなくそのまま眠りについた。これは、気持ちよく目が覚めると思っていた。
「つかさ……」
「う、うわー」
俺が目を覚ました途端、いきなり菜瑠美の顔が目の前に現れた。また俺を驚かせたいのか菜瑠美は。
突然すぎたあまりに、俺は菜瑠美のベッドから転落しそうになる。
「おい菜瑠美! 俺が起きたかったからって、いきなり顔出すなよ!」
「つかさ……あなたの今の顔よ」
菜瑠美が機嫌が良さそうな顔をして、俺に鏡を向けてきた。どうしたんた、鏡なんか持ち出して?
「菜瑠美……寝てる間にまたやったのかよ」
鏡を見て確認したら、左頬だけでなく右頬にもキスマークが付いていた。まさか菜瑠美、俺が寝ている間に静かにキスをしたのかよ。全く気配を感じなかったぜ。
「それにさ、今日俺達は人と会う約束をしてるんだぞ。気持ちは嬉しいけど、すぐ消させてもらうぞ」
右頬は付いて時間が経っていないが、外出するんだから仕方ない。俺は菜瑠美の部屋にあるティッシュを借り、両頬に付いてあるキスマークを消そうとした。
「つかさ……」
「今度はなんだ?」
「そのティッシュ……私が保管していいですか?」
「は?」
たしかにさ、このキスマークは菜瑠美が付けたものだよ。既にキスマークの面影はなく、ただ口紅が残るだけじゃないか。
キスマークを付けたのは、何の否定もない事実だ。だが、そんな大事にしたいものだとは俺には理解できない。
「菜瑠美が大事にしたいというのなら、好きにしろ」
「ありがとうございます……つかさ」
菜瑠美はキスマークの跡が残った丸めたティッシュを、机の棚の中に入っている保管箱にしまった。
今後もキスマークを付けられた時も、今後は保管箱に管理するのかな? ま、キスなんて定期的にやるようなことではないしな。
「そういえばつかさ……そろそろ準備しないと、予定の時間に間に合いませんよ」
「たしかにそうだった……と言いたいところだが、菜瑠美はまさかこの格好で行くのか?」
俺の心配より、自分の心配をしたらどうだ。菜瑠美はまだ、戦闘服のままで今俺と一緒にいるじゃないか。さすがにこんな派手な格好で外出したりしないよな。
「今日は柳先生達と合同特訓でしょ……着替えるのも面倒ですし、この上にロングコートをはおれば問題ないです」
「そんなんでいいのかよ……ないとは思うけど、特訓以外では絶対脱ぐなよ」
菜瑠美は茶色の分厚いコートを部屋にあったハンガーから取ったが、これだけで済ますのかよ菜瑠美は。
それと今は5月だ、なかなかこの時期に分厚いものは着ないと思うぞ。たしかに、巨乳であることを隠せないことはないけど、コートの下に露出度の高い服を着ていることをくれぐれも忘れるなよ。
◇◆◇
俺と菜瑠美は、船橋港親水公園に到着した。この時間帯だからか、人はそれ程集まっていないな。
ここは俺の家から近いのもあるけど、海神中央高校からも近いんだよな。校内の生徒達に会わないかどうか少し心配だ。
「つかさ……何か考えことかしら?」
「まあ……一応」
恋人関係になったとはいえ、まだ俺が菜瑠美と一緒に休日にいるというのは非常に気まずい。しかも、この後は校門の女門番と生徒副会長も来るんだぞ。
菜瑠美は変装してそうな感じはしてるけど、俺は制服が私服になっただけの格好だ。こんなの、俺だってわかってしまいそうだ。
「今気になることがあるとしたら、菜瑠美が履いてるその靴だな」
「これは戦闘服に合わせただけの靴……私が思ってる以上に、動きやすいです」
菜瑠美はSF作品などで出てきそうなサイハイブーツを履いていた。色も戦闘服と同じだし、菜瑠美が意図的に合わせたものか。
当の菜瑠美が動きやすい靴であると豪語しているし、今日の手合わせでもその動きに期待してるぜ。
「あらお2人さん、先に来ていたのね」
「君達は、時間を守る主義だそうだな」
菜瑠美の靴を話しているうちに、柳先生と大和田さんも公園に到着していた。早朝は色々あったけと、約束だけは守らないといけないしな。
「柳先生と大和田さん以外に、強い気を持つ美しい女性がいるな」
大和田さんの隣には、橙色の三編みに青色の瞳をした着物姿の20代くらいの女性がいた。随分と大人びた雰囲気をしており、戦うようなイメージが全く思い浮かばない。
「あらーあなたが影地令くんね、たかこや耕士郎からよく話を聞くわ」
「え、俺のこと知ってるのか?」
俺のことを柳先生から聞いているのかよ。たかこと呼び捨てしているから、随分と歳上か?
「影地くんはあの時、耕ちゃんの寺の中に入ってなかったら会ってなかったわね。この人は……」
「うちから自己紹介させてもらえますか、たかこ。うちはたかこの姉にして、耕士郎の母親・
え? 柳先生の姉で大和田さんの母親だと!? ということは、芳江さんはどんなに若くても40近いのかよ?
どう見てもそんな風に見えない。下手したら柳先生より若く見えるぞ。それを口に出してはいけないのはわかってるけど、思わず言いたくなりたい。
「お久し振りです、芳江さん」
「あらあら菜瑠美ちゃんお久し振り、今日も綺麗な顔つきしてるわね」
そうか、菜瑠美は大和田さんの寺の中に入っていたから、1回芳江さんと会っているのか。菜瑠美と並んで見たら友達のような感じにも見えるし、芳江さんはなんて美魔女だよ。
「言っておくが令くん、おふくろは俺やたかこおばさんより全然強いぞ。生涯現役を自負してるからな」
「あら耕士郎、そんなこと言うと困りますわ。うちももう歳ですから」
あの大和田さんが自分以上と言っているから、芳江さんは見かけによらず相当な強者のようだな。海の一族なんだし、それもそうか。
俺自身も芳江さんがどれ程の強さなのかが気になるな、人は見かけで判断できない。
「さてと、影地くんと天須さん。本来なら海の一族しか踏み入れることができない秘密の場所に向かうわ」
「秘密の場所?」
「今行く場所こそ俺達海の一族のルーツであり、チームの本拠地にしようと思っている」
海の一族に秘密の場所があるのか。そこであるなら、この前のようなレイラ達がやってきて妨害される心配はなさそうだ。
俺と菜瑠美は、海の一族の更なる秘密を知ることになる。大和田さんがチームの本拠地にしようと言ってるばかりか、どんな場所かすごく気になるな──
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