自虐ネタではありません3

  そもそも私は父――コルテーゼ男爵の血を引く一人娘で、本来ならこんな場所にいなくていいはずだ。おとなしく継母や義理の兄妹に従った三年前の自分が許せない。

 

 *****


 十三歳の時、優しい母が流行病でなくなった。

 悲しくて苦しくて、私はお墓の前で連日泣き続ける。母を愛していた父も憔悴しょうすいし、仕事を放り出して屋敷に閉じこもるようになった。抜け殻のようになった父を見た私は、このままではダメだと気づく。


 だから私は、気分転換に外出してはどうかと父に勧めた。領内の気の良い村人たちと触れ合えば父も元気を取り戻すと、そう考えたのだ。

 娘の言葉を受け入れた父は外出することが多くなり、徐々に顔色も良くなった。仕事も以前ほど精力的ではないけれど、きちんとこなすようになる。


 これで一安心だと思った矢先、父はある女性を家に伴う。茶色の髪で桃色の瞳。母くらいの年齢で整った顔立ちだが、目つきは鋭く冷たそうだ。

 でも、人を見た目で判断してはいけない――亡くなった母からそう教えられていた私は、父の親しい友人だというその女性を歓迎した。


 その人はやがて、自分の子供を連れてくる。男の子は私より一つ年上で、女の子は三つ年下だ。仲良くしてほしいと言われた私は、複雑な思いはあったものの、二人と遊ぶことにした。

 けれど、男の子はカーテンや扉の陰にすぐに隠れてしまう。一方女の子は、すごく意地悪だ。


『なあにその髪の色。肌も真っ白で気持ち悪い』

『そんな!』

『そこへいくと、私の髪は金色で綺麗でしょう? 瞳は桃色で可愛いし。母さんがいつも褒めてくれるの』


 自慢ばかりするその子を、私はあまり好きにはなれなかった。

 まさか父は、この人たちが好きなの……?


 悪い予感は当たるもので、父はその女性と再婚し、私に継母はは義兄あに義妹いもうとができた。

 義兄は私をじろじろ見るくせに、話そうとすると逃げていく。義妹はわがままで私をバカにするし、自分が注目されないとねる。父は継母の言いなりで、彼女は父のいるところでは私を大事にしてくれた。


 その三年後、今度は父が馬車の事故でかえらぬ人になる。母に続いて父まで亡くし、悲しみに打ちひしがれていた私。食欲も落ちて、その時どう過ごしていたかもよく覚えていない。

 ところが継母は、それから幾日も経たないうちに私に修道院行きを勧めた。


『わたくしだって悲しいざます。でも、誰かがとむらってあげなければいけないざます』

『なぜ修道院なんですか? それなら田舎に……お墓の側にいたいです』

『お金もないし、贅沢ぜいたくを言ってはいけないざます』

『お金がない? お父様が私のために用意してくれた持参金があったはずでしょう?』

『生活費にてるお金が、あれっぽっちじゃ足りないざます。それともあなたは、全員が野垂のたれ死ぬ方がいいざますか?』


 うちが財政難だなんて、初めて聞いた。

 だけどその時の私――愚かなシルヴィエラは、継母の言葉を疑いもせず、修道院にまっすぐ向かってしまったのだ。


 その半年後、私を訪ねてここに来たメイドによって事実が明かされる。

 なんでも彼女は継母の怒りを買い、王都にあった男爵家を解雇されたのだとか。都会暮らしがしょうに合わず、故郷に帰るという。その前にわざわざ、私に会いに来てくれた。


『わざわざありがとう。何も知らなくて、ごめんなさい。なんなら田舎の家で雇うというのも……』

『お嬢様、ご存じないのですか? 田舎の屋敷はとっくに売り払われていますよ』

『……え?』

『それに、謝るのは私の方です。私は我が身可愛さに、シルヴィエラ様を裏切りました』

『裏切った? どういうこと?』

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