第27話 会社は戦場 8
「基地の中は多数のロボットがいる。まずは俺が突っ込んで囮になるから、敵が俺を追いかけて少なくなったら、二人でマップのここにあるコンピュータルームへ向かってくれ」
敵基地を至近距離に捉えたところで、マップを表示して町田さんが作戦を伝えてきた。白井さんがいなくなったからの作戦変更だという。
方針としては、さっきの氷原マップと同じ、町田さん囮大作戦。
「でも、町田君。それじゃ、あなたは……」
続きを聞かなくてもわかる。あのジェットブーツがあれば、囮自体は可能だと思うけれど、今回は白井さんの乗るロボット兵器みたいに助けてくれる仲間はいない。
多数の敵に囲まれた状態で、私たちが敵コンピュータを破壊するまでに逃げ続けることができるかと言われると、難しい気がする。
「このゲームの中で死んでも大丈夫だって教えてくれたのは、紀藤さんとハルコちゃんですよ。信じてます」
彼の表情に一点の曇りなし。
「町田君……」
私は後ろを向いて銃の手入れをしているふり。
もちろん見つめあう二人の邪魔をしないように
タイミングがよくなったら多分声をかけてくれるはず。
それまでは銃を磨いていよう。この世界の銃メンテナンスの必要なんてこれっぽっちもないけれど……バレてるかな?
というわけで少しの時間経過後、作戦開始。
まずは、左右を確認しながら、基地に向かって全員で走る。敵影なし。
基地の扉を万能キーで解除し、中へ。
入口近くの数体を、紀藤さんの
掃討後、町田さんがジェットブーツで敵の注意を惹きつけながら、基地の回廊を走り回る。
この時私と紀藤さんは入口のフロアで待機。何があっても手出ししてはならないと彼に厳命されている。
「そろそろね」
時計と周囲の敵数を見ていた紀藤さんが立ち上がる。
私は頷く。
二人でマップを見ながら中心部にあるコンピュータルームに向かう。
途中全く敵と遭遇しないというわけにはいかなかったが、それほど多くは無く、
そしてついに辿り着く。
中心部コンピュータルームの前の廊下に。
「敵多いですね……」
ここまでほとんど敵がいなかったから、逆に多く感じることもあるのだろうけれど、それを割り引いても敵ロボットの数は多かった。
「町田君もここまで奥の敵は無理だったみたいね」
ここは中心部。万能キーでいくつかの隔壁を通り抜けた後の場所だから、町田さんも来られなかったのだろう。
「どうします? 町田さんが来てくれるの、待ちますか?」
「ハルコちゃん、ありえないことを期待してはダメ」
私の顔をまっすぐ見て、諭すように紀藤さんは言う。
力を込めて。自分自身にも言い聞かせるかのように。
「ふたりで、やるのよ」
「でも、あの数じゃ……その
気になっていた。彼女の盾が表示している数が減っているのを。
あれは残りの防御回数じゃないんだろうか。
それがゼロになったら……。
「気づいちゃってたか。だから、私がここで囮になるから、ハルコちゃんが行って。あっち側から扉を閉めればあいつら入ってこれないはずだから。その間くらいはこの盾も持つと思うの」
「で、でも、それじゃ、紀藤さんが」
「どの道このままじゃ、やられちゃう。それならチームで勝てそうな方を選ぶわ。仕事は一人でするものじゃないって、言ったでしょ」
この時の彼女の顔は、決意、信念、覚悟そういったものに満ちていて、私にはとてもまぶしかった。
「これは賭けじゃない。私はあなたを信じてるわ、ハルコちゃん。コンピュータの破壊、まかせた」
自分にできるだろうか? いや、できるかできないかじゃない、やるんだ。
自然と気持ちが言葉に出ていた。
「まかされました!」
これを聞いた紀藤さんは、笑顔で私の頭を撫でてくれた。
「じゃあ、始めましょう」
気が付いたフロア中の敵が銃を向けて彼女を追う。
逆側に道ができる。
「ハルコちゃん、今よっ!」
私は駆ける。正面の扉以外は見ないでとにかく駆ける。
逆側の激しい銃弾の音を気にせず走る。
走る……
そして扉に辿り着き、万能キーをかざして扉を開けた。
目をつむりながら飛び込む。
後ろをふりむいてはいけない。
後ろの扉が閉じたのを確認して目を開ける。
冷静に考えると、中にも敵がいる可能性はあった。攻撃を受けたかもしれない。ちょっとうかつだったと思いつつも、自分の幸運に感謝する私。
しかし、そんな余裕は、次の瞬間に全て吹っ飛んだ。
そこは基地の中とは思えない、広大な空間だった。
上空に見えるアレが天井だろうか。
左右を見回すと壁は見えるが、いずれも百メートル以上離れてそうだ。
ビルくらいの大きさはあるだろうか、見上げる高さの灰色の金属の柱が周りに整然と立ち並び、見通しはあまりよくない。その金属柱の間を道路が縦横に伸びている。私は今その道路上にいる。
いつだったか、ワンダーランド小隊で戦った市街戦のマップに似ているような気がする。ここが一つの戦闘マップということか。
私が入ってきたはずの扉は影も形もない。
紀藤さんの方に戻ることはもうできない。ならば、進むしかないのだけれど、この状況、いったいどうすればクリアできるのだろう。
町田さんも白井さんも特に作戦前には何も言っていなかったから、本来は普通のコンピュータがあるだけで、それを破壊すれば終わりだったはず。この状況はおそらく迷い神がアレンジしてつくりだしたものだと思われる。
どこにあるんだろう、コンピュータ。私が考え込んでいたその時――
急にドシンと地面が揺れた。
後ろ?
嫌な予感がした私は銃を構えて振り向く。
「う、嘘でしょ……」
柱と柱の間にロボットが一体。いつもの見慣れたあの形ではある。だからこれが敵なんだとは思う。けれど、見上げるほど大きい。うちの中学校三階建てなんだけど、その三階くらいまでは余裕であるんじゃないか、というほど大きい。
上の方で、ギュインギュインと音がする。
身の危険を感じた私は、飛びのく。
ドドドドドドと凄まじい音に加え、地面が揺れる衝撃。
さっきまで私がいた場所の地面に穴が開いている。
か、間一髪……?
「よくもやったなー!」
私は巨大な体がゆっくり旋回している隙を狙って、引き金を引く。
よっし、頭に命中、爆発の煙。
どうだっ!
……
煙が晴れて現れたのは、無傷に見えるボディ。
それが再び私を狙っている。
こうしてる場合じゃない、逃げなきゃ。
私は全力で走り出す。
後ろで巻き起こる爆音に追われながら。
これまでの敵と同様、ロボットはさほど素早くないようで、柱の周りをぐるぐる回ってフェイントをかけたり、柱の陰で隠れながらやり過ごしたりと努力した結果、数分後、何とか距離をとることに成功した。
地面の揺れと、爆発の音が今は遠い。
私をあぶりだすために、手当たり次第に撃っているのか?
そうであれば、どうやらあいつは私を感知することはできないようだ。
ビル、いや柱の陰で一息つく私。
今こそ深呼吸して作戦を考える時。
なのだけれど、良い案などすぐに出るわけがない。
作戦はいつも、町田さんや紀藤さんが考えてくれていた。
ハルズガーデンだって基本は大牙や貴子さんの指示にしたがって囮するだけ。
自分で考えて戦ったこと、なかった。
でも、やったことがないのと、できないのは違うはず。
今は泣いても笑っても自分ひとり、私が考えなくては誰が考えるというのか。
そうだ、立花さんが言ってた。
「仕事をするときは、
途中のソースが何味のソースか分からなかったけど、忘れていいってことだからいいよね。
方法は、攻撃することなんだろうけど、残念ながら、私の長距離ライフルじゃダメージを与えられなかった。攻撃が効かないってことは、あれ、これ詰んでる?
何か他の方法、武器があれば……。
ここで私は思い出した。
例の追加された武器のことを。
「これって……」
今まで読んでいなかった武器の説明を見て、私は覚悟を決めた。
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