第25話 会社は戦場 6
「よっしゃいくぜえええ、いぃいいやっほぉおおお」
ファンキーな掛け声をあげると、一気にジェットを噴射させて、町田さんは、格納庫の周りのロボットに距離を詰める。
そして、手前でキュッと止まると、彼の武器庫である背中のバックパックから何やら取り出して、ロボットに向けポイポイ投げ始めた。
丸い黒いそれには導火線がついていて、ジリジリいっている。
当然少し後には凄まじい爆発音と衝撃。崩れるロボット。
何体かの破壊に成功したらしい。
他のロボットは怒ったかのように、彼に銃口を向ける。
タタタタ、タタタタと射線が走り、煙が上がる。
しかし、さすがジェットブーツ、町田さんは余裕で回避していた。
そのまま逃げだす彼を追うロボット達。
町田さんは格納庫の周囲を滑走する。
姿が見えなくなった、と思ったら、しばらくして逆側から姿を現す。
その後ろにつづくのは、おびただしい数のロボットの群れ。
敵への
うーむ、どこをとっても本職囮の私よりかなり上手な気がしてならない。
このやり方、メモしておこうかな。とても勉強になります。
「頃合いね、突入するわよ、
「イェス、マム!」
二人とも威勢よく頷く。そして格納庫に突入。
扉を開けると、通路、そしてそこには銃口をこちらに向けたロボットの群れ。
「くそっ罠かよ」
白井さんがこの言葉を口にするかしないかのうちに、一斉に銃弾が放たれる。
私は思わず、後ろを向いてしまった。
「あれ……」
全く痛くない。
振り返るとそこには、光の壁があり、銃弾は全てその壁のところで勢いを殺されていた。突き刺さっているかのような状態からポロポロ下に落ちてゆく。
「なるほどね、これが
言われてハッと気づき、私は銃口を盾の下の方から突き出し構えて、撃つ、撃つ、撃つ。白井さんも負けじとマシンガンを連射する。
向こうも反撃してくるものの、全て
何だかちょっとごめんなさいな気持ちになってしまうほどに一方的な戦い。
静寂はすぐに訪れた。
扉の中に入った私たちは、ロボットの残骸をかき分けて通路を進み、突き当りの扉を開ける。そこは広大な空間だった。
奥の方に見える白い大きな人型が、町田さんの言っていたロボット兵器だと思われる。
白井さんと紀藤さんが通路側の出口から、銃口を上へ下へと向けて確認しているが、動くものはいない。
「大丈夫そうかな。
頷く白井さんと私。
この世界の武器は、重さとかは全然ないのだけれど、武器によって射撃の速さや向きの変更の速さは変わる。私が待機させられたのは私の武器は速射ができず、こういう周りから狙われそうな空間には向かないからだ。
せめて何か異変があったら撃てるようにと、私はスナイパーらしくスコープを通して二人が走る周りを見回す。あれ、あれは――
「紀藤さん、上、避けてっ」
間一髪、彼女は上からの射線を転がり込んで躱した。
そして反撃。さすがだ、一撃で仕留めている。
天井に張り付いていたロボットの残骸が床にボロボロ落ちる。
「まだ残りがいたのね。ナイスよ、ハルコちゃん」
「ありがとうございます。でも気を付けてください」
「了~解」
生意気だったろうか、でも、嬉しかったのだ。調子にのってしまうくらいに。
他にロボットの残りはおらず、それからはスムーズに事が運んだ。
白いロボット兵器に乗り込んだ白井さんから全員に通信が入る。
「ホワイト・ラビット、
「お、やっとか。待ちくたびれたぞ~」
能天気な町田さんの声、静かだったから心配だったけど、完全に取り越し苦労だったみたい。余裕ある感じ。
ロボット兵器の方はというと、ギュンギュンギュンギュンとエンジンが動くっぽい大きな音を立てている。念のためロボット兵器周囲を見守っていた紀藤さんも、もう大丈夫だと思ったのか、私のところまで戻ってきていた。
「何だかイキイキしてますね、白井さん」
「多分女には分からない男の世界ってやつだから、好きにさせとこう」
無線に流れるこの女子二人の淡泊な発言等はもう、どうでもいいのだろう。
男性二人からとがめる言葉は一切なかった。
「八十、九十、百、おっしゃあああきたぜええええ、よーし、女子二人は離れてんな。
「ちょ、ちょっと、白井君? あんたまさかっ」
聞いたこともないような大きく恐ろしい音。
ガラガラと崩れ落ちてくる天井。
紀藤さんの
天井に大きな穴があいており、そこから日の光が注いでいる。
白いロボットは、もう空間のどこにも存在しなかった。
「こちら
高度良好ってことは、飛んでるの?
いーな。ロボットに乗るなんて、こんなことでもなければ無理だから、私もちょっと乗ってみたかったかも。
あ、白井さん、ホワイト・ラビットじゃなくなってる。
「高度良好じゃないっての、飛ぶなら飛ぶってちゃんと言いなさいよ」
そして、紀藤さんの猛烈な抗議は、完全にスルーされていた。
「こちらマーチ・ヘア、見えてきた見えてきたぞー、くーっいいなお前。後で変われよ、絶対だぞ」
「わかってるって。こちらもロボットの群れを確認した。これから掃討する」
「あーもう、やっぱあいつらの好きにさせるんじゃなかった。完全に無視しやがって、絶対に後でとっちめてやる」
紀藤さんは、無線機の着いたヘルメットを床にたたきつけた。
かなりご立腹の様子。
「でも、これでロボット兵器は手に入ったわけですし、後は敵の基地のコンピュータを破壊するだけですよね」
「そうだと、いいけど……」
「紀藤さん?」
「ああ、ごめん、深い意味はないの。ただ、こんな現実離れしたところにいると、本当にクリアすれば解放されるのかが、私も不安なのよ。あー、年下の子の前でこんなこと言っちゃうなんて、私もまだまだだな」
彼女も私と同じなのだと、この時ようやくわかった。
ただ、自分が年上だから弱音を見せないように、頑張っていたのだ。
「ごめんね。私も今回の作戦、上手くいくか不安だったから、ほっとして気ぃぬけちゃってるかも、まだ最後のが残ってるっていうのに」
そう言って頭を掻く紀藤さん。
私は彼女の不安を何とかしてあげたいと思ってしまった。
「大丈夫です。絶対に戻れます。私達ハルズガーデンが必ず皆さんを助けます。助けてみせます」
「ハルズガーデン?」
そうだった、考えたことそのまま言っちゃだめだってあんなに言われてたのに……。
でも、ここにはそれを注意してくれる立花さんも大牙もいない。
自分で言ったことの責任は自分でとらなくちゃ。
それから私は、彼女に説明した。
自分が実はここの社員ではなく、迷い神退治組織「ハルズガーデン」の人間であること、課長さんから依頼を受けて迷い神を探し対応していること、紀藤さんたちの名前が行方不明者のリストにあがっていること。
彼女は私の話を遮ることなく、ただただ頷いて最後まで聞いてくれた。
「なるほどね。この世界はその迷い神っていうのが作ってるんだ。私達現実では行方不明になってるのか……」
「信じるんですか?」
「だって考えてもみなさいよ、もう既に信じられないことが起きちゃってるわけでしょ。それに対して妥当な説明があれば、納得しちゃうわよ」
「な、なるほど……」
「ありがとう」
「えっ?」
「弱気見せた私に気を遣ってくれたんでしょ。ハルズガーデンのハルコちゃん」
「ええ、まあ、そうです」
気持ちが通じた。私は嬉しかった。
「そうとわかれば、こんなとこでうだうだしてらんない。巻いていくよっ!」
言いながら彼女が再びヘルメットを被り、銃の紐を肩にかけた時、突然無線から慌ただしい声が響く。
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