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先生が子どもの頃のオレたちに何か言っている。
この辺りで気をつけて描きなさい。とでも言っているのだろうか。
思えばおおらかな時代だったな。
目で子どもの頃のオレを追う。
仲の良かった友人と一緒に、 学校の画板と母親が作ってくれた お弁当を持ち神社に向かう。
そうそう ここで描いてたんだ。
結構 真面目に描いてるオレ。
オレは木陰からその様子を見ている。
その時
「ちょっとごめんな」
の声。
その声の主は、親父だ。
「わしの息子がいるんだ」
親父はオレにそう言うと 子どもの頃のオレをチラチラ見つめていたが
「あんちゃん 悪かったな」
とさびしそうな顔をして去っていった。
そう、そうなのだ。
あのとき、オレは親父が来ていたことに気付いていた。
そして使っている画板は親父の力作ではなく、学校で借りた画板。
親父は画板の大きさに驚き 戸惑ったのだろう。
いつの間にか姿は見えなくなっていた。
その日の夕方、出勤前の親父は無口だった。
それ以来 画板の話題は出ないまま、数年後に親父は死んだ。
お互いが心苦しかったんだろう。そう思う。
しばらくしてオレは、写生大会の子どもたちに声をかける。
先生も不審がらず その様子を見つめている。
思えばこの頃は平和だったな。
そして目的はオレ。
子どもの頃のオレだ。
「おーっ うまいな。君は近くにすんでるのか?」
「はい」
やはりオレだ。
「お父さん好きか」
そう聞くオレに 子どものオレは
「うん、ボク大好き」
と透き通るような笑顔で答えた。
「そうか、これはご褒美だ」
ポケットの個包装のあめ玉を渡す。
「うわーっ これ綺麗。こんなの見たことない。しかも 一つ一つ袋に入っている。凄い!」
そりゃそうだ。四十年も未来の あめだもの。
周りの子どもたちも 不思議そうに見つめている。
「おじさん ありがとう。じゃあこれあげる」
子どもの頃のオレは 画板にはさんであった 真っ赤な紅葉の葉っぱをくれた。
オレはそれを丁寧にポケットに入れた。
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