わたしを育成させてあげます。

千魚

第1話 まさかのできごと。

 遠く……覚えていることがある。


 約束したの。王子様と。

 きっと一緒に、幸せになろうねって。

 離れてもちゃんと覚えていようね、って。


 明るい林の中で、手を取り合って。小さくて幼い手は、柔らかくて温かかった。


 けどーーー。


 あれは、夢だったのかもしれない。だって……。


 憧れも、思い出も、現実の役には立たないんだよ。




       ※




「はぁ!? 破産んっ!?」



 それは、高校の入学式直前のことだった。

 レストランを営んでいた両親が、にっこり笑って切り出した。


 …………これってもしかして……まさかの、一家離散フラグ!?



「そうなの。困ったパパよねぇ」



 ちょっと、ママ…………笑ってる場合じゃないんじゃないの!?


 えへへ、って……パパだって照れるトコじゃないでしょうよ間違いなく……っ!!


 え……これって、大変なことなんだよね…………?



「大丈夫、何とかなるだろ」



「…………ホントに!?」



 けれど、アタシのため息と抗議と淡い期待をヨソに、住んでいた家はあっさりなくなり。


 何が「憲法で最低限は保証されています。最低限、守りますよ」だ悪徳弁護士! 最低限てそもそも何なの!?


 あっという間に……我が家は一家離散完了した。

 びっくりするほど呆気ない。家族ってこんな簡単にバラバラになるもんなんだね。結局アタシ、パニクることしかできなかった。


 ーーーー弟2人はパパと一緒に北海道の祖母の家へ。小さな妹とママは、隣の県にある叔父の家に。

 残ったアタシは……急遽、学校の寮へと送り出された。


 戸籍しか一緒じゃない、六人家族。


 ………………ハァ。


 世の中、なんて世知辛い。

 アタシは、アタシの力で生きて行くしかないんだろうな……。


 たかだか15の身空で、アタシはしみじみ、悟ってしまった。


 大きな学園の大きな門をキッと睨み、アタシは一人での一歩を果敢に踏み出す。

 荷物はキャリーバックに一つだけ。3月の冷たい風が身にしみる。


 荷物も家族もお金もない。

 あるのは、パニクりやすいアタシの身一つ。そして、家族を慕う強い気持ち。


 ……絶対に……ここから絶対、這い上がってやる!

 待っててみんな!


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