第25話 エース百方対須々木、第一打席

 ピッチャーの3球目は、内角高めのストレート。…打者はバントの構えからバットを引いて見送った。

「ボール!」

 球審がコールする。

 …打者はしかし次もまたバントの構えを取った。

 ピッチャーの4球目は内角膝元へのスライダーが来た。

 打者はバットを引いて、この球もボールとなった。

 カウントはこれでスリーボールワンストライクだ。

 …そしてまた打者がバントの構え。

 ピッチャーは5球目は外角低めへとストレートを投げ、直後に前へとダッシュした。

 打者は投球と同時にバットを引き、ダッシュして来たピッチャーに向けて打ち返した。

「バスターか!」

 球雄が呟くと、打球はピッチャーの足元を抜け、センター前へのタイムリーヒットとなった。

 …浦安東京学院は1点を先制、なお無死一塁。

 そして三番打者が右打席に入り、またもバントの構えを取った。

「なるほどね~ ! …や~らしいチームだわ」

 球雄がさらに呟く。


 …結局一回の表の攻撃は、三番打者がエンドランを決めて無死一塁三塁となり、その後一塁走者が盗塁。四番打者が2点タイムリーツーベースヒットを打ち、五番打者がバントで送り、六番打者がまたタイムリーヒット。七番打者がまたエンドランを決め、一死一塁三塁から八番打者がスクイズを決めて5点目を上げた。

 …試合は一方的な展開となり、結局12対2で浦安東京学院が5回コールド勝ちで終わった。

 須々木は全打席出塁し、そのイニングには必ず得点が入る展開となっていた。


「どうだ?球雄…」

 …二人で映像を見終わってから、球一朗が言った。

「どう ? って言われても…要するにこのチームに対してはとにかく須々木を出塁させなきゃいいってことだよね… ! 」

「その通りだ…抑える手立てはあるのか?」

「…金ちゃんと一緒に完成させた新球を試してみようかと思う」

「新球 !? … そんなものをマスターしてたのか!…もう使えるんだな?」

「こないだ監督の前で、チームの主力打者に試したよ」

「ほう、どんな球なんだ?」

「フォークボールだよ!高めのボールゾーンから、斜めに落ちてストライクゾーンに決まる球さ… ! 」

「なるほど… ! しかしなぁ、5回戦くらいになると、他校からも視察やらチェックやらが入っているかも知れんぞ!…新球を見せて仮にそれで須々木を抑えて浦安東京学院に勝ったとしても、決勝で八千代吉田学園に当たる時には、研究対策をされて新野にその球を攻略されるかも分からん…」

 球一朗がそう言うと、球雄は

「そうなったら、こっちはさらにもう1つ奥の手を出すさ… ! 」

 とシレッと応えた。

「何だと?…まだ奥の手があるのか… !? 」

「まぁね!…父さんにも、これ以上は極秘事項だよ、楽しみにしといてくれ!…必ずチームを甲子園に進出させて見せるからさ」

 …最後にそう言って球雄はニヤリと笑みを浮かべた。


 …東葛学園高校の4回戦は、対木更津海浜高戦、柏の葉球場で行われた。

 …試合は東葛学園が終始圧倒して危なげ無く7対1で勝利。球雄は2イニングを投げ無安打無失点。三番中尾と六番義田がホームランを放った。


 …そして翌日、国府台球場にてついに東葛学園対浦安東京学院の試合の時がやって来た。

 一回の表、先攻は浦安東京学院。

 東葛学園はエース百方がマウンドに上がり、左打席にはトップバッター須々木尚広が入る。

「プレイボール!」

 球審が高らかに宣言して、いよいよ試合がスタートした!

 …キャッチャー義田のサインに頷いて投げた百方の第1球は、膝元に曲がり落ちるカーブだった。

「ストライ~ク!」

 須々木は見送った。

(須々木は三遊間方向にゴロを打ちたいはず、インコースの速い球や身体の方に曲がって来る球はあまり手を出したくないか !? …)

 ベンチから須々木を観察する球雄は胸中で呟いていた。

 …須々木への百方の2球目は、内角低めへのストレート、149キロ。須々木はフルスイングを見せたが、明らかに振り遅れた感じでバットは空を切り、たちまち2ストライクナッシングと追い込まれた。

 捕手の義田はインコースに身体を寄せ、百方は大きく振りかぶって3球目のモーションに入る。

「ヤバい !! 」

 …その時球雄は本能的に呟いていた。

 百方の手から、ボールはまっすぐ内角高めのストライクゾーンに150キロの速度で放たれた。

 須々木はバットをスッと寝かせ、一塁へと走り出しながらバットのヘッドにコツンとボールを当てて三塁側へ転がした。

 三塁手が慌てて前進して来て素手でボールを掴んで一塁へジャンピングスローで送球したが、須々木が僅かに速くベースを駆け抜けてセーフとなった。

「おお~っ !! ナイスランッ!」

 相手ベンチとスタンドから大きく歓声が上がった。






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