第23話 夏の甲子園予選始まる!

「ちょっと待て球雄!…県大会中はそうでも、甲子園に出場となったらさすがにメイン捕手の俺がお前の球を受けない訳にはいかないぞ !!」

 …義田が少し不機嫌な顔になって言った。その時、

「義田!…その件については俺が話す !! 練習後に俺のところに来い」

 崇橋監督が割って入って言った。

「新球の試投は終わりだ!…みんなは練習を再開しろ!」

 さらに崇橋がそう言って、部員たちはグラウンドに散り、それまでの練習を再開した。


 守備練習、フォーメーションプレー、打撃練習に走塁やスチールなど、7月は実戦を想定した練習がメインだ。

 球雄は主力メンバーらのシート打撃に投げたりして、双方に調整練習となるメニューをこなした。

 …その中で、ある程度のチーム力というものを球雄は把握しつつあった。

(…ストレート130キロ台で変化球2種類くらいの投手相手なら、ウチは6~7点取れるレベルの打線だ…!)

 あとはチームのエース、百方(ももかた) の仕上がり状態だが、140キロ代後半の直球は威力抜群、気力も充実している様子だった。

 しかし問題はスタミナで、百球を越えるとスピードもコントロールもバラついてくる難点は克服できてはいない…監督はその辺りを考慮して、試合終盤には球雄を登板させるだろう。…そのために球雄はこのチームに入ったのだ。


 …練習終了後、球雄は崇橋と義田の会話が終わったのを確認した後で、あらためて監督と会って話をした。

「俺の…例の件は義田先輩に伝えてくれたんですか?」

 球雄の問いに崇橋は、

「ああ、ただ他の部員には話すな! と言っておいた。その方が良いだろう?」

 と答えた。

「…そうですね。何だか勝手なことばかりですいません…」

「いや、もともと俺がお前の父親に無理に頼んだことだし、気にするな!…とにかく今回こそは部員らのためにも俺のためにも、絶対に甲子園に行かなきゃならない!…球雄、頼むぞ」

「…そのことなんですが、監督、予選が始まったら俺…必要に応じて他校の試合の偵察に行きたいんですけど…」

「…強豪校のスラッガーを見ておきたいってことか?」

「はい!」

 …崇橋は、ちょっと考えたが、

「…分かった、必要ならそうしてくれ ! …ところでお前、実際にキッチリ信頼して任せられるのは何イニングだ?」

 …今度は崇橋から質問が来た。

「3イニング、一回りなら絶対に抑えます!…中2日、間が開けば4イニングでも行けますよ」

 キッパリと球雄は答えた。

「よし、それで充分だ!」

 崇橋は頷き、最後は球雄と一緒に笑った。


 …一学期の期末試験が終わり、7月の中旬になると、いよいよ高校野球千葉県大会 (甲子園大会予選)が始まった。

 …初戦は印西市松山下公園野球場にて、相手は印西草深高校だった。

 東葛学園の先攻で試合が始まると、初回から相手投手を捉え、打線が繋がり4点を取った。

 一方の相手打線はエース百方の140キロ代のストレートを打てず、一方的な展開のまま試合は12対0で東葛学園が5回コールド勝ちという結果となった。

 百方は9奪三振で完封。…球雄の出番は無かった。

 四番打者の都橋と六番打者の義田が本塁打を一本づつ放った。


 …2日後、2回戦は八千代総合運動公園野球場で行われた。

 対戦相手は千葉花見川高校だった。

 …この試合は東葛学園は後攻。…百方は初回立ち上がりに四球を出したが後続を断って無得点に抑えた。

 打線の方は2回の裏に1点を先行、3回の裏に2点を追加。…さらに4回の裏には3点を取り、終始優位にイニングを重ねて行った。

 相手打線は5回の表に2点を返したが、その回の裏には義田の2ランホームランでこちらも2点を追加し、結局5回を終えた時点で2対8で東葛学園のリードだ。

 そして6回の表、崇橋監督は百方に代えて球雄をマウンドに上げ、捕手も義田から住谷金二郎に代えてきた。


「やっと出番が来たな、金ちゃん!」

「…ヤバい ! 俺緊張するわ~!」

「えぇ~ !? 金ちゃんが緊張したら打たれちゃうぜ、俺」

「ハッ、な~に言ってんだよ、球雄~ !」

 マウンドでそんな会話をして、金二郎はポジションに就き、球雄はいつものようにウォーミングアップの直球を、真ん中から内外角四隅に投げ込んだ。

「プレイボール!」

 球審の宣告が入ると、球雄はゆっくりと振りかぶって、右打者のインコースに130キロ代後半の直球を投げ込んだ。

「ストライ~ク!」

 球審のコールが上がる。

 …2球目は外角低めにスライダーを決め、2ストライクを取った。

 3球目は同じ外角低めにストレート、打者がカットしてファウル。

 4球目は外角にチェンジアップを投げてタイミングを外し、空振り三振を取ってワンナウト。…見逃せば低めに落ちるボール球だが、カウントで追い込んでいるので計算通りに振ってくれたのだ。

 …結局球雄は6回7回を無失点に抑え、打線は7回裏に五番打者沖本が2ランホームランを打ち、2対10で7回コールドとなり東葛学園は勝利した。


 …球雄の新球は投げる機会が無く終わった。











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