第13話 注目の一年生捕手
…一年生対先輩チームの練習試合、もちろん先輩チームの先発投手は球一朗だ。
試合は一年生チームの先攻で始まり、球一朗は三者凡退に抑えた。
球種は直球、カーブ、チェンジアップだけ…三年生先輩捕手が不安無くキャッチ出来る球がそれだけなのだ。
もっとも球一朗が135キロくらいの直球を投げれば、一年生はみな空振りもしくは差し込まれて詰まった打球しか飛ばせなかった。
対する一年生ピッチャーは澤牟田広数 (さわむだひろかず)、175センチ69キロの右オーバーハンドだ。
先輩チームに対して堂々としたマウンド姿…というより生意気そうな感じの一年坊である。
一番打者に対して初球はインコースのストレート、130キロ近い球速。打者は見送りストライク。
捕手からの返球を得意げに受け取った。
(…なるほど、中学じゃあ130キロあれば簡単に抑えて来れたんだな…)
先輩たちは一様にそう思ってニヤリと笑みを浮かべていた。
2球目、またインコースにストレートが来た。
先輩のバットが乾いた金属音とともに簡単に球を捉え、レフト線を破る二塁打となった。
一年坊ピッチャーの顔に動揺の色が浮かぶ。
続く二番打者は初球、外角のカーブを打ち、一ニ塁間を破るライト前ヒット。2塁走者を帰して先輩チームが1点を先攻した。
三番打者は最初からバントの構えを見せ、ファーストとサードを前にダッシュさせたところで一転ヒッティングに切り替え、ストレートを打って大きく開いた三遊間を抜けて行くヒットとなった。
続く四番打者もまたバントの構えを見せたが、一年生守備陣はバスターを警戒して内野手は中間守備をとった。
一年生投手澤牟田はいきなり三連打をくらい、自分の球が全く通用しないことに愕然としながらも直球とカーブを外角低めの際どいコースへ投げようとしたが、打者にバットを引かれて結局フォアボールを選ばれ、無死満塁となった。
(こりゃあゲームにならないな!…)
球一朗がそう思った時、捕手がタイムを取ってマウンドに行った。
内野手もマウンドに集まり、捕手が投手と内野手に何かごそごそと言葉で指示した後、またそれぞれの守備位置に戻った。
そして五番打者を迎えた。
セットポジションからの初球は外角遠くに外れるカーブ。
…2球目を投げる前に三塁へ一つ牽制球を投げる。
「何だよ、スクイズなんかやんねぇよ!…」
打者がちょっとイラついた声で言った。
捕手が、
「よし、来い!」
と澤牟田に声をかけてミットを構える。
澤牟田が必死の形相で2球目を投げた。
球はしかしストライクゾーンの真ん中にスーッと入って来た。
だが打者がバットをフルスイングした時、ボールは少し沈んでバットの芯を外れ、打球はワンバウンドでピッチャーのグラブに収まった。
「ホームだ !! 」
捕手が叫んで、澤牟田は必死にホームへ送球、さらに一塁へボールは転送されてダブルプレーが完成、追加得点は入らずに二死二三塁と場面が変わった。
「…フォークかよ !? 」
先輩チームのベンチから同じ呟きが漏れた。
…そして続く六番打者は他ならぬ球一朗である。
ところが球一朗が打席に入ると、捕手はスッと立ち上がってピッチャーに向け一塁方向を指さした。
「敬遠かよ… !? 」
…結局球一朗はバットを構えたままで一塁に歩かされた。
七番打者は前の打者の敬遠を見て明らかにムッとした顔で右バッターボックスに入った。
「しまって行こ~っ !! 」
一年生捕手が叫んで腰を降ろした。
球一朗はこの捕手がどんな配球でこのピンチを乗り切るのか、興味を持って注目した。
と、ここでまたピッチャーが三塁に牽制球を投げ、打者がさらにムッとした顔でマウンドを睨んだ。
セットポジションからようやく投げた一球目はストレート、インコースややボール気味の球だったがバッターが打ちに行って三塁線を切れるファウルになった。
二球目はまたインコース、フォークボールはショートバウンドして打者は見送り、捕手は身をていして抑えた。
三球目はインコース低めのストレート、打者はバットを振りかけて止め、ボール。
…これでカウントは2ボール1ストライクだ。
捕手のサインに大きく頷いてセットポジションに入り、ピッチャーが投げた四球目は、外角の低めに曲がり落ちて行く緩いカーブだった。
勢い込んで打ちに行ったバッターはつんのめるように上体が泳いでバットの先っぽに当たったボールはサード正面のゴロになった。
難なく捕球したサードが一塁へ送球してスリーアウト。…結局この回先輩チームは1点止まりという結果になった。
「へえ~!…あのキャッチャー、一年生で打たせ方を知ってやがる…凄いじゃん」
球一朗が感心したその一年生捕手の名前は、崇橋頼伸 (たかはしよりのぶ) 。…その後、球一朗とバッテリーを組むことになる男であった。
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