第3話
この町は沿岸漁業が盛んで、人口は4万人程。
特徴は5キロ程続く海岸線があり、真っ白なきれいな砂浜なのでクリスタルビーチなんかと売り出したりしてこの町の貴重な観光資源にもなっている。
夏などは観光客で賑わう為、中心部はそれなりに栄えている。
カラオケだったり、ゲーセンだったり。さらに隣の市には新幹線の駅があり、この町までの交通の便が良いので暮らしにくさを感じたことはない。
しかし、学生が遊ぶには物足りない町ではあるので大体は隣の市で遊ぶ。
カラオケだったり、ゲーセンだったり、やはりそういうものは敵わない。
――この町に伝わる神話とは現人神である。
伝承の内容は、一番有名な話では沖で難破した船の乗組員がこの地の砂浜に流れ着き、天女の様な女性に導かれ助かったという伝説がある。
豊漁やそういった類の話は無いが、かなり人間に近くに存在し助けられた人間が言い伝えによれば相当数いるようだ。
学校での課外活動で調べるにはうってつけの題材だと思う。町の図書館に行けば地元の民話集なんかにも載っているだろうし、ネタには困らないであろう。
ちなみに今はその課外活動の最中で、他の班員二人に話を聞いているところである。
「お、良いんじゃない?他に思いつかないんだよね」
と汐見京子が、
「うんうん、私もいいと思う。地元の名産物の調査とかしか思いつかないもん」
続いて白石渚も続いてうなづいた。
また二人も幼い頃からの仲であり、楽な付き合いができる数少ない異性だ。
汐見京子はソフトボール部に所属しており、5番でショート。運動神経が良く活発で体育の授業なんかでは本当に生き生きしている。そして長身でボーイッシュな容姿も相まって女子のファンクラブが学内に存在しているらしい。
白石渚はいわゆる普通の女の子といった感じだ。実家が鮮魚店ということもあり家の船で獲った魚もたまに卸したりもするので両親とも顔なじみである。放課後は大体実家の手伝いをしているので近所では有名な看板娘だ。
ちなみに拓海と自分は釣り同好会なるものを勝手に開き、クラスで仲良くなった奴なんかを誘い遊んでいる。
まぁほぼ帰宅部ではあるのだが。
この3人と班が組めたのは本当にツイている。やはり気心が知れた仲というのは動きやすいし、授業ではあるがどこか遊び感覚で進められそうだ。
今回の実習は授業が少なくなる期末テスト明けから、学年が変わる春休み前にかけて行われる。
期末テスト後は新学期になるまで半日授業になり、さらに三学期も授業数が少ないので、その時間を有効活用しようというと言うことらしい。しかし学生にしてみれば普通の授業をするよりも楽しいのでとても人気があるそうだ。
「しっかし、どこから調査とりかかろうね。おじいやおばあに聞くだけじゃ絶対足らないでしょ?」
そう言う拓海の台詞はもっともだ。
「一応漁港にある島に祠あったことない。そういうのあるから図書館とかで民話とか調べてみたらどうかな」
丁度自分が、先日考えていたことを渚が代弁してくれた。
「そうそう、司書さんとかに言って事前に予約しないと入れない書庫があるらしんだけど、そこに民話の本とかがあるらしいんだ」
そういいながら町のホームページの図書館のタブをスマホで表示しながら全員に見せる。
「行動が早いねー、やるじゃん航くん、」
そう茶化すように自分のスマフォを覗き込みながら京子が言う。
「とりあえず次の実習から外出れるだろ。だから先に予約しておこうかなと思って」
3人とも異議はないようで頷いて返事をした。
「なんか、こういうの楽しみだね。小学生の頃に戻った気分」
身体を揺らしながら京子がそういった。
「そうだな、小学校って一々班別で発表会みたいなのやるよな」
「航は人前で話すの嫌いだもんね。一緒にやったことあるけど全部押し付けてきたもん」
渚がそういうと、拓海もあったあったと笑いながらうなづく。
なんだか小恥ずかしい過去をほじくり返され、立場が弱くなるのも嫌なので話題を切り替えることにしよう。
「まあそういう訳だから、今度の実習は図書館でよろしく」
拓海はいきなり話題を終わらせた自分を見て笑い、渚と京子は誤魔化した口にしていたが、先生が声を上げる。
丁度このクラス全部の班の課題を発表する時間になったので、汚名返上とばかりに今回は自分が言うよと伝えた。
「今回は自分が言い出しっぺなんで」
「えらいじゃん」
拓海は先程からにやにやが止まらず面白い顔になっている。
「いいね、男気。ここでまた渚に押し付けたら私も爆笑してたな」
京子も拓海と同じようなにやにや顔で茶化す。お前達お似合いだななんて思いながらその順番を待った。
ほかの班は特産物、名物、自分の班と似たようなところでは民謡等、どこもそれなりに考えては居たみたいだ。
そんなことを聞きながら考えてるうちに順番である。
自分の番になり、席を立つ。教壇に立ち少し息を吸い込んで、前を向く。
ああ、この自分に視線が向く感じが苦手なんだよなと、改めて感じる
「自分達の班、明神航、吉村拓海、汐見京子、白石渚はこの町の港の港にある祠の神様について調べたいと思います。調査方法については――」
調査方法を簡単に述べながら、話を終わらせ席に着く。
渚からちゃんと成長してるんだね、えらいじゃん。と微笑みかけられる。
そういうのは照れるので止めてほしい。昔から渚のこういう表情には弱い。
照れ隠しも有り、窓の外を見ながら後続の班の声に耳を傾ける。
少し木枯らしの様な風に揺れる校庭の木々を見て、ここからの日常に少し変化が始まった気がして自分の心も揺れた気がした。
しかし、今思えば、この課題を選んだのもまさしく神のお告げではないかと、感じてしまうのであった。
誰が神様のことを調べて、自分のルーツに係わりがあるなんて想像できるだろうか。
そういう非日常がこれから自分に訪れる。
その時の自分には、知る由もなかったのだ。
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