第11話 出会った彼女はレズビアン

 山宮剛輝をあたしはおとすことができるだろうか? あたしがバイシェクシャルであるということはまだ言っていない。看護師としてこれからも彼に関わっていくから迂闊な行動はとれない。


 実はこの前、山宮さんと例のスーパーマーケットで会っていたところを後輩に見られてしまった。まずいなぁ、と思ったけど後輩は、言いつけたりしませんから大丈夫ですよ、と理解のある子だ。


 あたしの名前は三浦加奈。二十四歳。付き合っている彼女は、斉木美樹という名前でレズビアン。二十六歳。職業はコンビニでアルバイトをしている。美樹はあたしよりも十センチくらい背が高く、細身の体型。普段から黒のストレートのロングヘア―。顔の作りも整っていて、世の男共は放っておかないと思う。


 あたしが美樹と体の関係を持ったのは先週の金曜日。お互いちょうど土曜日が休みだったから私の家に泊まって行った。


 その情事は優しくもあり、とても情熱的だった。愛されてる、と思うことができた。勿論あたしだって彼女のことは好き。耳に吹きかけられる吐息が何とも言えなかった。まるで全身が溶けるかと思うような感じ。


山宮さんは、きっとあたしのものになるんじゃないかと思えてきた。自信が出てきた。根拠はないけど。あたしは結構高い確率で根拠はないのに自信があって成功する。先のことが読める気がするというか。まるで魔術師のように。


 そんな不思議な力をもっている私。本当にそんな力が備わっているか分からないけれど。


 とりあえず、山宮さんにはあたしがバイセクシャルで彼女のいるということは黙っていよう。嫉妬されても困るし。


 ちなみに、あたしは性別は女で心も女。心が男という人もいる。


 斉木美樹と出会ったのは、とあるバー。そこはいろんな性を持った若者がいた。男性同士のカップル。女性同士のカップル。普通に男女のカップルがいた。そこにあたしは一人で呑んでいた。勿論、出会いを目的に。カウンターに座って暇そうにしていると、隣の椅子に女性が座った。話し掛けられた。

「一人?」

綺麗な人。この女性が美樹。

「うん、一人」

「一緒に呑まない?」

笑顔で彼女はそう言った。

「喜んで」

あたしも笑顔で答えた。この女性がもし、男性だったら凄い美青年だろう。そう思うとムラムラしてきた。勿論、女性の彼女もいい女だけれど。

「名前はなんていうの?」

「あたしは、加奈っていうの。あなたは?」

「私は斉木美樹。加奈は名前しか言わないのね」

あたしは焦った。隠さなければ良かったと。源氏名でもないのに。これではまるでスナックの店員みたい。

「ごめんね、三浦加奈っていうの」

あたしは気まずくて苦笑いを浮かべながら言った。

「加奈はいくつ?」

「二十四だよ」

美樹は目を大きくしてびっくりしていた。

「若いなあ」

「美樹は?」

「私は二十六」

私は嬉しくなった。

「お姉ちゃんだ!」

「そうね」

美樹は私を見つめながら言った。

「あたしはお兄ちゃんしかいないから、お姉ちゃんが、欲しかったの」

彼女とあたしは満面の笑みで見つめ合っていた。美樹の笑った目は三日月型でとても綺麗。

 

 あたしは一瞬にして彼女の虜になった。笑顔の綺麗な人ってほんと素敵。


 あたしの方から連絡先を交換しよう? と言った。美樹は快諾してくれた。嬉しい。


「いつでも連絡ちょうだい」

と、美樹は言った。

「美樹はどんな仕事してるの?」

「私は美容師よ」

「へー! 格好いい」

彼女は頭を傾げて、

「うーん、そうでもないよ。結構、地味な仕事も多いよ」

と、言った。やっぱりどこも大変なんだな、と思った。

「それにしても加奈はかわいいね」

突然の発言に驚いた。

「え! そう?」

あたしはどきまぎした。

「私のタイプ」

「??……どういうこと?」

美樹は照れた様子で言った。

「私、レズなの」

へー、と思った。あたしも自分の性について話した。

「あたしはバイだよ。バイセクシャル」

こういう出会いを求めてここに来た。

「そうなんだ。じゃあ、ピッタリだね」

「そうね」


 今の時刻はスマホを見ると二十一時四十五分頃。

「そろそろ帰るね」

「えー、はやーい」

美樹ははにかんだ笑顔を浮かべて、

「私、子どもがいるの」

「あ、そうなんだ」

あたしは思った。レズなのに子どもがいるんだ、と。

「一応、説明はしておくね。何でレズなのに子どもがいるのかを」

「う、うん」

美樹は真面目な顔付きになり、話し出した。

「実は数年前にレイプされたの。一時はおろそうとも考えたけど、産んじゃった。子どもに恵まれないと思ったから」

「なるほどね」

「ん。じゃあ、またね」

そう言ってバーを出ていった。彼女はまるで自分のこの先の人生を悟ってるように感じられた。

 




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