第十八話 初めてのお客さん

   

「それこそが、俺が転生してきた意義だと思って……」

 話の佳境は過ぎたのでしょうか。

 マドック先生の口ぶり、少しだけ落ち着いてきたようにも聞こえます。

 これならば私が口を挟んでも良さそう。ちょうど私が、そう思った時でした。

「ごめんくださーい!」

 女の人の声と。

 お店のドアが開く音と。

 カランコロンという鈴の音と。

 それら三つが、ほぼ同時に聞こえてきました。

 前の二つは当然、お店の方からですが、最後の『鈴の音』だけは、別方向です。この部屋の中からです。

 今まで気づかなかったのですが、色々な装置に紛れて、魔法ベルが置いてありました。

 お店屋さんには必ずあるような、来客を知らせてくれる魔法器具です。扉をくぐった人の潜在的な魔力を感知して、それを少し離れた場所の『ベル』まで飛ばすことで音を鳴らす、あの便利道具です。


「ああ、客が来たみたいだな。じゃあ、店に戻るか」

 立ち上がったマドック先生に追従する意味で、

「説明は一時中断ですね」

 そう口にしてみました。

 すると。

「そうだな。無菌箱以外は、お嬢ちゃんに説明するまでもない器具ばかりだろうし……」

 いやいや、まだまだ色々な機械があるみたいですが……。

 そう思った私は無意識のうちに、壁際にある大きな装置の数々へと、視線を向けてしまいました。

「そんな顔をするなよ。冷蔵庫とか培養器とかは、今さら説明する必要もないだろう? 冷蔵庫は、こっちの世界のは魔法式だから、お嬢ちゃんの方が詳しいはずだ。培養器だって、要するに人肌くらいの温度をキープするためのもの。これも電気ではなく魔法で動く機械だからな」

 まるで日用品について語るかのようなマドック先生。

 確かに冷蔵庫は慣れ親しんでいる器具ですが、私は『培養器』なんて使ったことないですよ?


 とりあえずマドック先生に従って、お店に戻ると。

 赤い長髪を後ろで結わえた、いかにも大人な雰囲気のスレンダー女性が、カウンターの前で待っていました。動きやすそうな軽鎧を着込んでいるので、戦士系の冒険者でしょうか。

 彼女の髪と同じような色の、赤い液体の入った小瓶を手にしています。

「あら、マドック先生。後ろのお嬢さんは……。もしかして、お嫁さん?」

 顔に浮かぶ微笑みと口調の軽さから考えて、冗談のつもりみたいです。

「よせやい。こいつは、今日からウチで働く、俺の助手だ。ほら、お嬢ちゃんも挨拶しておけ」

「初めまして。よろしくお願いします」

「あらあら、ご丁寧に……。私はルビー、ここの常連客の一人よ。こちらこそ、よろしくね」

 赤い髪のルビーさん。覚えやすい名前で、助かります。

 彼女はマドック先生に向き直り、

「それで、今日も『パワーアップ・ポーション』を買いに来たのだけれど……。これでいいのよね?」

 手にした小瓶を、彼の前で掲げて見せました。

   

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