第2話 古いアパート②
突然、南側の一階のドアがガチャガチャと音がして中からステテコに腹巻の中年男が壊れかけのようなドアを開け出てきた。
男はランニングシャツ一枚しか着ておらず肩どころか乳首まで丸出しで腹も大きく出ていて全身が緩みきっているように見える。
多分、風呂にも入っていないのだろう。僕は目を合わさないようにした。
更に部屋の奥から男を追いかけるように、シュミーズだけの女が出てきて封筒のような物を男に渡したのが見えた。
受け取った男はニヤニヤ笑いながら女と何か話している。男はそれを腹巻と腹の間に差し込むと変な咳をしながらアパートの一画から抜け出るようにして南に向かった。
・・あのおっさん、どこかで見たことがある・・そう思っていると、女は僕を見つけたらしく、ニヤリと男と同じような笑みを浮かべた。
ドキリとした。僕のいる場所はアパートのドアからはかなり離れているからだ。
見ていたのを見つかった。ばつの悪い思いをしていると「トシオに何か用事?」と女は自分の格好を恥じる様子もなく面倒くさそうに、だがよく聞こえる大きな声で言った。
「トシオなら、遊びに出ていって家におらへんで!」
トシオ?・・知らない名前だ。
この女はこうして誰にでも声をかけているのだろうか?
女のシュミーズが大人の女の厭らしい感じを精一杯その辺りに醸しだしている。
僕が何の反応も示さないでいると女は何も言わずドアの向こうに消えた。
僕が何にも答えていないのに、女が勝手に一人でしゃべって消えていった・・女が消えると夕刻の喧騒がこの場所にだけ集中しているように感じた。
喧騒が何かの決まりごとであるかのように男と女の存在を消し、砂場で遊んでいた子供たちも親に呼ばれ家の中に戻っていく。子供たちがいなくなると今度は、だらしない格好の老婆が乳母車を押しながら空き地をぐるぐると徘徊し始めた。どう見ても普通の様子ではないし、乳母車には赤ちゃんなど乗っていない。
アパートの中からは男の怒鳴る声や子供の泣く声が聞こえ、南側のアパートのベランダからギターの音、それに合わせた若い男女の歌声が聞こえる。誰もが知っているフォークソングだ。そんな歌に僕はまだ知らない大人の世界に思いを馳せていた。
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