第28話 ツンデレ×ツンデレ

「えっ? 倉田さん? 」

「よっ」


 倉田さんはクラス委員長で快活で人望もある。 あたしだったらこんなに人懐っこく話しかけられない。


「なんでここに? 」

「私はバイトだよー。 地元だと店なくてさ。 春山さんは? デート? 」

「あたしはね、お買い物。 スマホを買い替えようと思って」

「わざわざ待ち合わせて? 」


 はたからみれば、待ち合わせなのは一目瞭然だよね。 こんな場面見られたら、絶対にからかわれる。 大地との待ち合わせは別のとこにしてもらわなきゃ。


「まぁ、詳しい人にアドバイスもらった方がいいじゃない? 」

「ふぅん。 そんなものかしら」

「倉田さんはバイト、どこなの? 」

「あたしのことはいいじゃない。 春山さんの服、可愛いね。 やっぱデートなんでしょ」


 話を逸らすのに失敗して問い詰められているところに、大地が自転車でやってきた。 キッとブレーキを鳴らして自転車を止めた大地は、キョロキョロと辺りを伺っている。


 倉田さんも自転車に乗っている人物がわかったらしく、あたしと大地を交互に見た。


「菊野くんとデートなの? 」

「ん? 誰かいた? 」


 こうなったら、とことんしらばっくれる。 倉田さんと話しながら大地にメッセを打った。


『倉田さんと会っちゃった』

『移動してから待ち合わせにできる?』


 そうこうしているうちに大地は自転車を再び漕ぎ出し、駐輪場へと向かっていった。


 ――ふぅ、危なかった。


 そう一安心できたのは一瞬で、駐輪場から猛ダッシュで戻ってきた大地は息を切らせながら見当違いの方向を探していた。


 ――はぁ、観念するか。 こら!大地!と叱りつけたい。


「菊野くん、ここよ」

「遅れてホントごめん! 」


 遅れたことより、この状況になったことの方が文句言いたいよ。


「やっぱり待ち合わせ、菊野くんだったんじゃん」

「もう、菊野くんメッセ見た? 」


 見てるわけないよね。 倉田さんは目がキラキラしている。 もう次の言葉は予想ができる。


「なに、二人付き合ってるの? 意外! 」

「意外ってなんだ。 別に付き合ってるわけじゃないし」

「そうだよ、ちょっとお買い物を手伝ってくれるだけで」


 やっぱりそうなるよね。 はぁ。 騒がれるのは好きじゃないんだけどな。

 なんてため息をついていたら、倉田さんから驚くべきセリフが吐かれた。


「んじゃ、私も一緒に行ってもいい?」


 びっくりして息が詰まるかと思った。 「ダメっ」と口から出そうになったところで、言葉の続きが出てきた。


「――と言いたいところだけど、バイトだからなー。 また明日聞かせてね! 」

「う、うん? 倉田さんが聞きたい話にはならないと思うけど――」


 あたしが最後まで言い終わる前に、倉田さんは手を振りながら、近くにあるカラオケ店に駆け込んで行った。

 バイト、そこだったんだ。 気をつけよう。

 まだ会って数分だというのに、とんだハプニングだった。


「それじゃ、あたしたちも行こっか」

「おう、んじゃこっちな」


 大地に連れられて、すぐ近くにある家電量販店に入った。 普段あまり来ない場所だから、思わずキョロキョロと見回してしまった。




「ちょっと待ってて」



 スマホ売り場につくなり、大地はあたしを置いて店員さんのところへ話しに行ってしまった。 近くに置いてある価格表を見れば、そこには平気で十万を超える金額が書かれている。

 今回はお母さんからお金を預かってきたからいいけど、普段だったら絶対手を出せない金額。 仕事してるっていってもおこづかいしかもらってないしね。


 あまりの種類の多さにどれを選べばいいのか困っていると、大地が帰ってきた。


「ゲームとかあんまりやってないよな? 」

「うん」

「それじゃ一世代前の少し安いやつで、容量はこないだのと同じでいいよな」

「うん」

「画面の大きさは、春山ならこっちのサイズでいいだろう。 あとは色か。 白、ピンク、ゴールドだな」

「菊野くん、すごいね。 店員さんよりも詳しいんじゃない? 」

「そんなことないよ、向こうもプロだから。 素人が知れる範囲なんて限界があるし」


 これだけ色々知ってて、まだ先があるなんて。 でもやっぱり大地はすごい。 それをひけらかさないのも素敵。


「相変わらず謙虚だね。 あたしが知ってる男の人は、俺が俺が!ってタイプの人が多いから。 菊野くんみたいに謙虚な方が、あたしは好きだな」

「そんなことはいいから、早く決めろよ」


 褒めただけなのに何故か怒られた。 別にお世辞とかじゃないのに。


「壊れちゃったやつから、データ戻せる? 」

「全部とは言わんが、連絡先とかメールとかはいける。 あとはバックアップがいつだったか次第だな」


「菊野くんはどの色がいい? 」

「春山の好きにすればいいと思うよ。 けど、ゴールドは個人的には選ばないかな」

「うん、それならこれがいいかな。色はやっぱりピンクかな」

「おっけ。店員さんと話してくる」


 在庫は問題なくあるようで、購入の手続きを進めてくれることになった。 生徒手帳を見せて、親回線のお母さんの番号を伝え、書類を書かされた。 あとは二十分ほど待っていれば完了するみたい。


「待ち時間にケースでも探すか? 」

「うん。 どこにあるんだろ」


 スマホのケースと一言にいっても、数多ある機種のどれが自分ので使えるのかを判別するのは至難の業。 でも大地は庭を歩くかのようにケース売り場の奥へと進み、そして立ち止まった。


「ほれ、ここ」

「なんでそんな簡単にわかるの? こんなにいっぱい種類あるのに」

「まぁ、慣れかな? 」


 慣れ!? そんなに何回も機種変えてるの? 大地のガジェット好きは筋金入りみたい。

 

 おススメはこのあたりかな、と大地が何個か候補を出してくれた。 その中で目に止まったアイボリーとネイビーのケースを手に取った。 この組み合わせは可愛いの鉄板。


「どう思う? 菊野くん」

「いいと思うよ。 落ち着いていて好きな感じ」

「じゃ、これにしようかな」

「いいの? そんな選び方で。 責任重大だなぁ」


 いいの。 大地が選んでくれたんだから。 画面の保護シートも選んでから時計を見れば、手続きをお願いしてから三十分もたっていた。


 スマホとケースを一緒に会計もしてもらって、その場でSIMを差し替えることにした。 ケースもパッケージから出してスマホを収めれば、ほら!新しいスマホの完成!


「どう? 」


 一緒に選んだんだからどうもこうもない。 でも、大地から返ってきたのは、意外な反応だった。


「かわいい、よ」


 ――えっ?


「えっ? ええっ!? 」


 いきなり何!?

 可愛いって言った?


 スマホのことだよね、とは思ったものの、好きな人から可愛いと言われて嬉しくないわけがない。


「スマホね、スマホ」


 大地も焦りながら言っていたし、あたしもわかってるつもりだけど、顔が熱くなるのは止められなかった。

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