第38話
≪ムーランドット、必死の抵抗!しかし、王者ウィンター!絶好の手ごたえ!後ろにはベイカーランとカイサルオンを従えて!優勝はウィンターキング!名手ローラン!今年GⅠ7勝目!≫
佐藤は3着に敗れたが、ベイカーランの人気は11番手。最低人気である。GⅠで2着したことがあるとは言え、2400メートルは初出走。それを掲示板上位まで持ってきた佐藤に称賛が集まった。世界のホースマン、報道陣の注目を集めた佐藤を、英語圏向けにはまきな、フランス向けにはジャンヌが通訳し、東西の美少女(騎手)を従える彼は余計に注目を集めた。
「つ、疲れた・・・」
「先輩、お疲れ様です・・・じゃあ、私はこれで・・・」
フラフラのまきなを捕まえたのはジャンヌだった。
「なんですか・・・?」
『貴女には聞きたいことがある。それに、今回の協力に報いてはいない』
sir、いいですよね?と言いたげにギリアム卿を顧みる。
『ウム、いいとも!敗れはしたが、Arc(凱旋門賞)に向け、いい滑り出しだった!いいですかな?マダム』
『ええ、構いませんよ、サー・ギリアム』
ちょっとげんなりしているまきな、まだまだ元気なジャンヌ。そして、やはり事情が分からずおろおろするのは佐藤ばかりだった。
『で、では!慶太郎サンは貴女のか、彼氏ではないと!?』
『ええ、まあ。そもそも日本というのは競馬学校というのがあってですね』
まきなが祖父からの帝王学として覚え込んだ英語でジャンヌの誤解を解いている最中、やはり佐藤は酒に潰れ、ギリアム卿と勝子は昔話をしていた。
『懐かしいですな、マダム。貴女の舅殿、婿殿の馬には、当時、非常に驚かされた。特に、ジャパンカップ2年連続制覇のスーパーキーンがArcに向かってきた時は。欧州は席巻されると思いましたぞ!』
『そう、簡単でもありませんでしたけどね』
『ええ、簡単ではなかった。だが、2着に健闘した。その後、屈腱断裂に蹄葉炎をも発症して死んだ時は・・・世界の競馬界は10年先を失うた。かの馬は、それほどの逸材だったと、私は今でも・・・』
『光栄なことです。キーンも、あの世で喜んでいることでしょう』
『あれからも、毎年のように欧州に馬を送り込み、グレイゾーンにチャンピオンステークスを取られた』
『ええ、そんな時もありましたわね』
『グレイゾーンは今、どうしておりますかな?』
『やはり、早逝しました。産駒は、20頭ほどでしたか・・・』
『なんと。いい馬は、どうしても早く逝くものなのですな。テルは?10年前に姿を消して・・・今は・・・?』
『主人も、逝きました。だから、あの子に重荷を・・・』
『そうでしたか。このギリアム。無神経に、申し訳ない』
『・・・・・・』
『御蔵まきな。その名、覚えておきましょう』
佐藤もジャンヌも、光るものを感じる。だが、
『今日の佐藤が黄金だとすれば・・・あの娘は?わからぬ。得体が知れぬとしか、言えぬ・・・』
ギリアムは、まきなに・・・御蔵最後の血に底知れなさを感じていた。
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