第12話 丑三つ時の町内放送
これは、つい最近本当にあったことである。
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私はまんじりとせず眠れない夜を過ごしていた。
私にくる仕事もほぼないし、友人は育児やら昼職やらで忙しい。家族も日中は家を出ている。
昼間の間中、ぐうぐうと寝てしまう私は、こうしてたまに眠れない夜を過ごす。
まあ、昼夜逆転せず、八割がた夜も寝れてしまうのだから、何をたわけたことを、と言われても仕方ないが眠れない夜はとにかく辛い。
昼間の、あの異常なほどの眠気の半分でいいから取っておいて夜の間に使えたらいい
のに、と思う。
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九月に入り、少し涼しくなってきたので冷房を切って部屋の窓を開け、網戸にしていた。
風と共に外の物音も入ってきてしまうが、それでも自然の涼しさというのはクーラーの人工的なそれと違って心地よいものだ。
さて、また眠れない夜がきてしまったなあ、と私は思った。
枕元の時計をみれば、午前1:45。
ホットミルクでも飲むか、と思うが、下手にごそごそと動いて昼働いている家族を起こすのは忍びない。ミルクを温められる電子レンジがあるリビングはテレビを見ながら寝落ちするのをこよなく愛する父の寝どこでもあるのだ。
仕方なく布団の中でじっとしていると、ピンポンパンポン、と聞き覚えのあるチャイム音が外から聞こえた。
町内放送のチャイムである。
だが……
私はぞっとした。
だって、今は午前2時を回ったところだ。丑三つ時。よっぽどの緊急事態ならともかく、こんな時間に町内放送があるはずがないのだ。
良く似たチャイム音が聞こえたあと、スピーカーの立てる「ざざっ」という雑音が聞こえ、外にいる車は何かを放送しだしだ。
「町内のみなさま~ き……は お世話…… このたび…… がが、ありまして……しゅう…… にあたって…… くれぐ……もご注意ください」
くぐもった音。かつ、大分音がひび割れている。何を伝えようとしているのかまるでわからない。
はっきりと聞こえたのは冒頭の『町内の皆さま』ぐらいだ。
私は必死に耳を澄ますが、やはりうまく聴きとれない。
だが、時刻からいって、こんな時間に町内会の宣伝車が夜道を駆けまわるだろうか。否。だとしたら、タイヤの音をたてながら、外を走り抜けているのは何だ。
ピンポンパンポン、とチャイムの音を立てながら走っているのは一体どういう存在なのだ。
私は息を吐いた。
仕方ない、睡眠薬を飲もう。
癖になったら嫌だし、次の日、活動できなくなる可能性が100%になるので、
普段は飲んでいないのだが、この異常な状況から文字通り寝逃げできるならありだ。
私は青い錠剤をかみ砕くように飲んだ。
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母に話したら幻聴でないか、と言われたが、私はよほど具合が悪くないと幻聴を聞かないし、現実の音と幻聴の区別はつく。
(幻聴は現実の音と違って 自分の内側からにじみ出てくるように聞こえるのだ。そう。ちょうど超能力があったとして、人の心の声を聴いてしまえるとしたら――幻聴はまさにそんな風に私の脳内に響くのだ)
睡眠薬を飲んで眠ってしまったので、後付けの夢ではないか、とも言われた。
まあ、そう考えた方が精神衛生上は良さそうではある。
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