第19話 捜索



 大通り


 二人の姿を探しながら、クロードは町中のあちこちを探し回った。


 なじみの店、良く通る道。仕事場の近くや昨日事件があったコンサート会場の近くまで。


 普段なら、騒ぎのある所か知り合いの所へ行けばすぐに見つかると言うのに、ユーフォリアもイリアの姿も中々見つからなかった。


「……ったく、どこに行ったんだ」


 結構な時間走り回った。

 町をざっと一周できるくらいの距離を移動したにも関わらず、見知った町で見知った知人すら捕まえられないと言うのは少々異常だろう。


「お、クロードどうした。そんなに急いで」


 大通りを歩いている時に、声をかけて来たのは、昨夜も話をした知人だ。


「ちょっと、イリアを探しててね」

「またか、何か最近お前と会うたびにそんな会話をしているような気がするな」

「そう?」

「そうそう、おとといは落とし物の落とし主を探してたイリアを、さらにお前が探してたって」

「そういえば、そんな事もあったね」


 つい最近の事なのに、結構昔の事のように感じるのはここ最近に巻き込まれた騒動が色々と濃すぎるからだろう。


「とにかく、見てないならいいや、ありがとう。見かけたらフィリアの所に帰るよう言っといて」

「おう、分かった」


 情報は無しと見て、再び捜索に戻る前に一応そんな風に言葉を残し、友人から離れていく。


 ここまでまったく出会わないとなると、フィリアの家を飛び出してすぐに何かがあり、その後町からまっすぐに離れて言ったとしか思えない。


 だとしたら、もうここら辺を捜索していったとしても意味がなくなってしまう。

 町の外に出たのだと考えれば、彼女達は一体どこに向っていったのやら。


 思い至らなくて、クロードはすぐに行き詰まった。


 足を止めて考え込んでいると、立ち寄った場所で思わぬ手がかりが舞い込んでくる。


「これって……」


 ふと目についたのは、町の中にある公園。

 その中の一画、隅の草地に立っている古びた看板だった。


 生い茂る緑に隠れる様に立っている物なので、普段利用する者達ですら多くの人が、その存在には気づいていないだろう。


 その看板を最初に発見したのは、小さい頃イリアと探検している時に見つけた時だ。


 数年分の時間が経過して建て替えられていないところを見ると、おそらくこの看板を立てた人も、存在を忘却しているのではなかろうかと思える。


「懐かしいな」


 子供の頃、何か用事があって待ち合わせに来られなかった時には、よくこの看板に、チョークで伝言を書き記しておいたものだ。


「もしかして……」


 懐かしい思い出に長々と浸りそうになるのを堪えて、思いついたその可能性を確かめるべく看板裏を覗いてみる。


 ビンゴだった。


『秘密基地にて待つ』


 そこには、イリアの筆跡で、ごく最近書かれたらしい文字が残されていた。


「まだ覚えてたんだ」


 忘れかけていたなんて、言ったらイリアはきっと怒るだろうが。仕方がない。

 最後にこの看板を利用してから、もう何年も経っているのだから。


 いい年した少年少女が揃って公園で遊ぶなんて、おかしいにも程がある。

 イリアはそれでも小さな子供達の遊び相手をする為に、時々訪れていたから、覚えていられたのだろう。


(でも……秘密基地か、どうりで見つからないわけだよ)


 そちらの方も行かなくなってずいぶんの時間が経つ、記憶の底に埋もれていて思いつかなかった。

 子供の頃は毎日の様に通っていた場所だが、基地の方は危険だという理由で行かなくなったきりだった。


「だけど……」


 イリアはどうしてフィリアの家に戻らず、秘密基地などにいるのか。

 その点が少しひっかっかった。


 彼女の性格からして、友人をむやみに心配させたまま思い出観光にしゃれ込むとは思えない。


 人目をしのいで隠れなければならないような事態に陥ったのだろうか。

 それを聞く為にも早く彼女達を見つけ出さなければ。

 思い出した過去の記憶をたどりながら、町の外へと移動していく。


 向かうのは人工海の方。

 海中の中に海があるなど、よく考えれば変な気分になるのだが、あるものはあるのだから仕方ない。変に気にしない方が精神衛生上は良いだろう。


 この世界を作った昔の人間が海が恋しいと思ったのか、地上世界を忠実に再現したいと思ったのか、どちらなのか分からないが、クロード達の子供自体の思い出作りには大いに役立った。


 そこでは本当に色々あったからだ。


 普段と同じようにイリアと遊んだり、冒険したり。


 そして、出会ったり


 本当に色々と。


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